ムク、乳母になるその2 | ひとさんと愉快な仲間たち

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愉快な仲間、6匹の猫と外猫たち

ムクは、自分の子ペルと、捨て猫だった3匹の子猫への授乳がすごく長引いたので、

目に見えて、日に日に弱っていきました。そんな時、近くのスーパーで、犬好きの岡田さんに会いました。

岡田さんは、ムクが自分の子でもない子猫を育て体力が弱ってきている事を知って、

栄養になるものを差し入れして下さいました。その時は親切な人だなぁと思っただけだったのですが、

後から考えるとたいへんな経済状況の中で、よくしてもらったものです。

ペル、チャトラ、マロが次々に里子に行きました。

ペルは、置き薬屋さんの紹介、チャトラは動物病院の先生の紹介、マロは、猫友の吉田さんの紹介と

皆さんの親切で良い里親さんを見つけて頂きました。


最後に残ったアリスですが、そのあまりにも美猫とかけ離れた容姿を見て、

せめて名前だけは愛らしい名前を..と考えました。

決して美猫では無いけれど、澄んだ深いブルーの瞳はとても不思議な魅力があったので、

”不思議の国のアリス”から”不思議な猫アリス”と思い、この名をつけました。

アリスは、本当に今まで見たことのない毛色でした。

猫図鑑で調べると、良く似た毛色の猫がいました。”ノルウェイホレスト”と言う猫に良く似ていました。

ホレストキャットもノルウェイで生まれた雑種だそうです。

アリスも雑種には間違いが無いので良く似ていたのかも知れません。

ムクの毛色もアリスと良く似ていたので、まるで親子のようです。

そしてそれ以上に、深い絆を築いていました。


アリスがガレージから、外へ出ようものなら、ムクは必ず連れ戻そうとします。

人間の子育てと同じで、ムクがゆっくりご飯を食べたり、用を足しに行ったりするのは、

アリスが眠っている時だけのようでした。

私は、ムクが外猫である事、アリスの里親が見つかりそうにない事から

家猫にしたいと思いました。母と思い込んでいるアリスをムクと放すのは可哀想ですが、

外猫にする訳にはいきません。

鈴のついた赤い首輪をしてあげて、家の中で飼う事にしました。

家に連れて入ると、ムクは寂しそうな目をしました。アリスも最初は家の中が気に入ったらしく、

あちこちを走り回していましたが、そのうち、どうしてもムクを捜します。

ムクも入ってくれば良いのですが、もと野良のムク、決して入ってこようとはしません。

し方が無いので、昼間、戸を開けてアリスを家の中で遊ばせる事にして、

夜はムクに戻しました。アリスのお気にいりの場所は、外のガレージの私のヘルメットの中でした。

円くなってすっぽりとヘルメットの中で眠る姿は、とっても可愛かったです。


それにアリスは、とても人なつこく、とても可愛らしいしぐさをします。

美猫で無くても、その愛くるしさは私たち家族のアイドルとなりました。

このまま家で飼いたいとも思いましたが、夫は、猫を何匹も飼ってはいけないと言うので困っていました。

そんなある日、一本の電話がかかってきました。子猫をほしいという電話でした。

あるペットショップに張り紙をさせて貰ってました。その張り紙を見た人でした。

私は、美猫とはかけ離れた容姿なので、その人に念を押しました。

「一度見に来て、気に入ったらでいいです。」と言いました。

日曜日のお昼、その人は家族でやってきました。

電話をかけたのは、ご主人さんで、奥さん、子供さんも来ました。

決して美猫では無いアリスなのですが、その奥さんがアリスを抱くとアリスは、

奥さんにくっついて離れ様とせず、ゴロゴロと甘えるのです。

まるで、アリスが自分の置かれている状況が解っているようにも思えました。

奥さんは、アリスの仕草に感動しました。

奥さんは、嫁ぐまでたくさんの猫を飼っていましたが

嫁ぎ先に猫がいないので寂しい思いをしてきたようです。

猫の扱い方にも慣れている奥さんなので、安心して里親になってもらえます。

そして、アリスを里子にしたいと言ってくれました。


うちの子供たちは、アリスが大好きだったので手放す事を嫌がったのですが、

アリスが奥さんと仲良しになっているので、アリスのためなんだと思い直してくれました。

そうして、アリスは里子に行きました。

子供たちは、アリスが車に乗って見えなくなるまで、手を振りました。

里子に出す時は、いくら幸せになると思っても、何処か寂しいものがあります。

それからのムクは、鈴の音に敏感になりました。鈴の音は、アリスの音なのかもしれません。

あれから、1年以上の歳月が流れても、鈴の音を聞くとアリスを思い出してしまうムクなのです。