参考資料835 | シフル・ド・ノストラダムス

シフル・ド・ノストラダムス

ノストラダムスの暗号解読

ベルシャザル王の宴会
「前にもふれたように、強大なバビロンは無敵不敗を誇っていた。しばらくのあいだ、この難攻不落の都にある幅六十フィート、奥行き百七十二フィート―――この寸法は遺跡から考古学者が突きとめたものだ―――の一室に、わたしとともに行っていただこう。《この街はほんとうに余が作りあげた偉大なるバビロンなのか?》と自賛したネブカドネザルでさえ、絶大な権力を誇っていてもはかなく消え去る人間の宿命をなぬがれず死に、やがて息子の息子にあたるベルシャザルが王位についた。
 その夜ベルシャザルが、都の比類ない防衛軍に囲まれて、安心しきっていたことは疑いない。宴会の広間では、ベルシャザルの宴がたけなわだった。王の妻妾や王国の諸侯たちが列席する、酒に酔い痴れたらんちき騒ぎだ。酒が進むにつれ、笑い声が高まり、行儀はみだれ、卑猥な冗談がとびかった。ついには、酔眼もうろうとした眼の前で、口に出せないような行為が行われるまでになった。
 テーブルの上の金銀の杯は、エルサレム神殿から略奪されてきたものだった。愛する神殿から奪われた聖なる杯が、こうした用途に使われるのを見たユダヤ人ダニエルの心中は、いかばかりであったろうか。
 突然、笑い声が絶え、動作が“凍りついた”。手にした杯が、床に転げ落ちる。酒気を帯びた顔から血の気がひき、酔いがたちまち覚めた。すべての眼が恐怖に大きく見開かれ、一点を見つめた。この事態を描写するには、その場にいた人間の筆に勝るものはないだろう。

 同時刻、人の手の指が現れて、ともし火に照らされている王宮の白い壁に文字を書き始めた。王は書き込むその手先を見た。王は心がみだれて顔色が変わり、腰が抜け、膝が震えた。
ダニエル書 5章5,6節

 この場面がご想像いただけるだろうか。みだらな嬌声がひびくどんちゃん騒ぎが、次の瞬間には恐怖にみちた沈黙に覆われたのだ。その中を、幽霊のような腕が不気味にも、ゆっくりと恐るべき権威を持って、漆喰の壁に文字をしるす、《メネ、メネ、テケル、ウパルシン》(ダニエル書 5章25節)と。
 同じ予言者の筆は、次に何が起きたかを教えてくれる。

 王や貴族が話しているのを聞いた王妃は、宴会場に来てこう言った。「王様がとこしえまでも生き永らえますように。そんなに心配したり顔色を変えたりなさらないでくださいませ。お国には、聖なる神の霊を宿している人が一人おります・・・・その人がその字の解釈をしてくれることでございましょう」
ダニエル書 5章10~13節から抜粋

 その解釈が王を喜ばせると王妃が考えていたとしたら、たいへんな間違いだった。なぜなら、当の解釈はバビロン(=バビロニア)王国の滅亡を告げていたからである。

 神はあなたの治世を数えて、それを終わらせられたのです。・・・・あなたは秤にかけられ、不足と見られました・・・・あなたの王国は二分されて、メディアとペルシアに与えられるのです。
ダニエル書 5章26~28節から抜粋

 数時間もしないうちに、バビロニア王ベルシャザルは殺された。そして六十二歳になるメディア人、のちのアケメネス朝ペルシアの二人目の王ダリウスが、バビロンを征服した。四匹の“獣”の第二が現れたのである。」
「Ⅴ・ダンスタンの終末大予言(下)」ヴィクター・ダンスタン著・幸島研次訳より

感想
>王や貴族が話しているのを聞いた王妃は、宴会場に来てこう言った。「王様がとこしえまでも生き永らえますように。そんなに心配したり顔色を変えたりなさらないでくださいませ。お国には、聖なる神の霊を宿している人が一人おります・・・・その人がその字の解釈をしてくれることでございましょう」
ダニエル書 5章10~13節から抜粋

五島勉氏の「ユダヤ深層予言」(1989年)から抜粋してみよう。

「だが、ここでベルシャザルの正妃が登場したことだけが、ネブカドネザルの悪夢のときと違っていた。18,9歳のベルシャザルの妃だから、おそらくまだ15,6歳の少女クィーンだったのだろうが、これがじつに利発な、度胸のすわった少女だった。
 彼女は血染めの文字と空間の“手”を見て、一度は立ちすくんだが、すぐ気を取り直し、ガタガタ震えている夫に寄りそって、こう勧めたのである。
「落ち着かれなさいませ。あたくしも直接には存じませんが、このバビロンの都にはたしか、ダニエルという不思議な方がおられるはずです。なんでも、20年前、ネブカドネザル王の悪夢の謎をみごとに解かれた方とか・・・・。
 王はそのため、その方に高い位を贈り、都の北東に三層の館を与えられました。その方なら、この“手”や血文字のこともわかると思います。すぐその方を探させて、この怪異の謎を解かせられてはいかがですか」
 こうして妖美のダニエルが、20年ぶりにバビロン王宮に呼ばれて来ることになるのである。それまでの長い空白期間中、彼(彼女)が何か凄絶な修行などで妖力を高め、しかし表面は目立たず優雅に暮らしてきたことは、先に触れたとおり。
 そのせいもあって、奢りの都の人々は、かつて衝撃の中心だった魔性の者の存在を、いつしか忘れかけていた。ましてベルシャザルは、毎日乱交や人間狩りで忙しく、奢りの行く末を警告する超能力者のことなど、考えてもみなかったらしい。
 が、突然現われた怪異の手と血文字が、そうした退廃の流れを一瞬に凍らせた。“手”はいぜんとして空間に白く浮かび、血文字からはまだ血のしずくが・・・・。おびえきった目をそれに釘づけにしながら、ベルシャザルは正妃の言葉にすがりついた。
「ダ、ダニエル?そんなやつがいたのか。よし、そいつを探せ。この怪異を解いたら、摂政代理の位だけじゃない、一キュービト(=一身長)の純金の鎖と卵大のルビーもやる。そう言って連れて来い。すぐにだ!」
「ははッ」
 青ざめて見守っていた近衛(親衛隊長)隊長が答えた。数千人の近衛兵が、たいまつをかざして都の四方に散った。そして一時間ほど必死に探したすえ、20年前に建てられたダニエルの館の近くの丘で、星を見ていた彼(彼女)をやっと見つけた。
 とたんに、兵士のうちのカンのいい者が数人、何かに気づいて奇妙な感じを持った。が、それが何かはわからなかった。“手”の出現と血文字に動転していた兵たちは、何かを感じたり考えたりする余裕がなく、ともかくダニエルを囲んで王宮に引っ立ててきた。
「ダニエル殿です。お連れしました」
 隊長が叫ぶ。ベルシャザルは狂乱の目で振り向いた。血文字と浮かぶ“手”の前で、金しばりにかかったようになっていた1000人の大臣と愛人たちも、好奇と期待の目で彼(彼女)を凝視した。
「あーッ!」
 誰の口からも洩れたのは、まず感嘆のため息。人間ばなれした彼(彼女)の妖しく美しい容姿に。・・・・だが、つぎの瞬間、腸を引き裂かれるような悲鳴が、何人かの大臣の口からほとばしっていた。
 それはネブカドネザル時代、ダニエルを実際に見たことのある古参の連中だった。その連中が、ふたたびダニエルを見たとたん、殺されそうな絶叫を上げて卒倒しかかったのだ。
 無理もない。そこには、あのネブカドネザルの悪夢を解いたときとまったく同じ、13か14歳のままのダニエルが、妖しくほほえんで立っていたからである。
 あれから、もう20年たっている。いくら妖異のダニエルでも、当然、もう30代半ばの中年になっているはずだった。が、現実にそこに立っていたのは、どう見ても美しくあどけない、20年前と同じ魔少年か妖少女だったのである。
(ヒェェェー! お助け・・・・助けて・・・・魔物だ、こいつはやはり魔物だ!)
 かろうじて卒倒しなかった古参大臣のひとりが、声も出せずに心で叫んだ。腰を抜かして彼(彼女)を指さし、口をパクパクさせるだけの者もいた。が、妖異のダニエルは、そんな連中には目もくれなかった。
 彼(彼女)は空間に浮かんだ怪異の手を見つめ、うなずいて花のように笑った。それから血のしたたる文字と震えているベルシャザルを見比べ、氷よりも冷たい口調で言った。
「初めましてベルシャザル様。ぼくが、ネブカドネザル王のとき、ユダの国から捕らえられてきたダニエルです。この手と文字の秘密を解けばよろしいのですね?」」

さすが五島勉氏は小説家だけあって話を具体化するから面白い。(因みに、(非公式の)外典も持っているらしい。)

おまけ