※この舞台は12/8~12/13まで行われた舞台で既に公演は終了しています。
前回に引き続き、このレポートではお馴染み「ジャングルベル・シアター」の舞台レポートになります。
「DOGのBLUES」の熱演も冷めやらぬ中、中野monoでもう一つの物語の幕が開けようとしていました……。
二週間に渡るロングラン公演。
その後半戦。
二公演連続の二本目となったのがこの作品……「リヒテンゲールからの招待状」
この作品は2004年、2009年に続き、再々演となるタイトルです。
実は先程の「DOGのBLUES」より出来たのは古い作品になります。
先日は犬たちばかりの物語でしたが、今回の物語でも多くの動物が登場します。
そして脚本・浅野泰徳氏が最も得意とするファンタジーの世界観が見事に現実世界の前にその姿を現します。
そんな訳で再び訪れた中野momo。
「DOGのBLUES」の時と同じ、舞台のセット。
そしてこれからどんな物語が繰り広げられるのか……。
いよいよ物語の幕は上がります……。
公演終了後につきネタバレ有りのあらすじをば……。
都内の出版社に営業として勤める、望月歩(程嶋しづマ・以下敬称略)。
しかし最近は業績も悪く、ある日、会社に戻ったところクビを通達される。
更に付き合っていた彼女から、突然別れを切り出されるという二重の不幸を体験する。
一気に人生のどん底に陥った歩。
久々に実家に電話をかけたところ、今から数日後、図書館で小学校の同窓会が開くと聞かされる。
図書館という場所を不思議に思うと同時に彼は18年前に返しそびれた一冊の本の存在を思い出す……。
数日後、帰省した歩は、その返しそびれた一冊の本を手に図書館に向かう。
そこには18年の時を経ても働き続ける司書の女性、そして懐かしいかつての同級生の姿があった。
旧友たちとの再会を懐かしむ歩。
やがて同級生の一人が、歩の手にしている本に気付き、どんな物語なのか尋ねる。
そして同級生たちは口々にこう言うのです……。
「その本、読んでおくれよ」
こうして望月歩は18年の歳月を経て、その返しそびれた一冊の本……
「リヒテンゲールと北の森の魔女」
その最終巻のページをめくった……。
やがて目の前に現れたのは……本の中の登場人物……正直ネズミのリヒテンゲール(浅野泰徳)とその仲間たち一行だった……。
少年時代に最後まで読まなかった物語……。
挿絵に鉛筆で描いた「翼」の落書き……。
18年の時を経て、歩が見るその景色とは……。
この物語の結末は果たしてどこへ向かうのか……。
ジャングルベル・シアター珠玉のファンタジー作品!
本当にさわりの部分だけですね(笑)
この「リヒテンゲールからの招待状」
ジャングルベル・シアターらしさが非常に詰まっている物語だと思います。
現実の世界を生きる社会人が、本の世界の中に引き込まれていく描写が非常に丁寧かつ自然に描かれています。
「童話の中に入っていく、おとぎ話」という現実では有りえない物語が展開していきます。
その様子はまるで自分たちも一緒に物語を一緒に読み進めているような感覚になります。
そんな物語ですから登場人物も実に個性的です。
主人公の望月歩以外は基本的に「リヒテンゲールと北の森の魔女」の登場人物が、そのまま本の中から飛び出したような形で舞台上を所狭しと駆け回ります。
物語中盤までは望月歩と一緒に楽しむ物語、終盤は追体験的な進行になっています。
最初から最後まで見応え十分な舞台です。
むしろ「リヒテンゲールと北の森の魔女」を小学生向けの文庫本で出版しても成立するレベルでは無いかと思います。
劇中劇のこの物語がしっかりしているからこその舞台だったと思います。
個人的にはこれアレンジしたら、全国の小学校回れると思うなぁ……(笑)
小学生に向けて……とは言いましたが、大人……むしろ我々のような社会人が観ても心に響く舞台です。
その理由は中盤のあるシーンでの、リヒテンゲールと歩の会話に凝縮されています。
歩がこの物語を途中で読むのを諦めてしまった理由。
そして今、何故、このタイミングでリヒテンゲールが歩を再びこの物語に呼び寄せたのか……その理由が切々と語られています。
ここでのリヒテンゲールの一言、一言が本当に響きます。
特に何か物事がうまく進んでいない人ほど、響きます。
具体的には省きますが、あの一言、一言は恐らく脚本の浅野氏自身が、当時の自分に向けたエール、そして全ての社会人に向けたエールのように感じます。
あの台詞をリヒテンゲールに言わせたいから、この舞台は出来たと思っても過言では無いと思います。
また結構、名シーンが多い舞台でもあります。
前半のコミカルな展開から、終盤のシリアスな展開まで、随所に見所があります。
ほとんどの登場人物にここまで見所が用意されている舞台も珍しいと思うので、各出演者のファンの方は万遍無く満足できる内容になっているはずです。
上演時間は約1時間50分。
体感時間はもう少し短く感じましたが、非常にいい塩梅に仕上がっていたと思います。
さてここからは各出演者について語っていきたいと思います。
出演者の皆様はよろしくお願い致します(笑)
※パンフレットの出演者名義の順番とはかなり前後しますが、その点はご了承ください。
・望月歩……程嶋しづマ
本編の主人公。出版社に勤めているがクビ宣告と彼女からの別れを同時に切り出される。そんな折、物語に巻き込まれていく……。
昨年秋の「悟らずの空2015」(孫悟空)以来の出演。この劇団の常連客演の一人と言っても過言では無い。
どこか純粋な少年の心を持った青年を好演。観ていて非常に爽やかだったし、また中盤では一人の人間としての苦悩をうまく表現できていたと思います。
30~40代の男性は彼を観て、他人事とは思えなかったはず。それくらい共感が出来る演技を見せてくれました。
・リヒテンゲール……浅野泰徳(ジャングルベル・シアター)
童話「リヒテンゲールと北の森の魔女」の主人公であるネズミ。決して嘘をつけない性格。
初演の時から浅野氏が引き続き担当している役ですが、劇中を拝見してもその理由は納得。
勝手な憶測ですが、恐らくこの脚本におけるリヒテンゲールの台詞一つ、一つが、浅野氏自身、皆様に伝えたいメッセージが凝縮されています。それ故、初演から同役を続けていると感じました。
それ故、リヒテンゲールの一言、一言には非常に力もこもっていますし、説得力が違います。それにしても浅野氏、ネズミ似合うなぁ……(笑)
・ヘルマン……垣雅之(株式会社フラッシュアップ)
リヒテンゲールの仲間のイヌワシ。荒々しい性格をしている。
今回、客演陣の多くがジャングルベル・シアター出演経験者の中で、唯一の初出演。しかし初出演とは思えないくらい世界観には馴染んでいた。
個人的にハイライトだと思うのは、トルトゥーガ(青木清四郎)とのタイマン。劇中一のアクションシーンでコミカルさと圧倒的迫力で楽しませてくれました。
終始、荒々しく声を張り上げている様がまさにイヌワシらしくて良かったです。冒頭の「王将いこうや」も実は好き(笑)
・フィンチ……升田智美(ジャングルベル・シアター)
リヒテンゲールの仲間のヤマネコのメス。リヒテンゲール、ヘルマンと共に旅をしている。
個人的には結構、ハマり役だったように思える。しゃべり方といい、ちょっと軽い雰囲気といい。ハバリ(本多照長)とのやり取りも漫才の王道みたいで最高でした。
でもこのキャラのハイライトはエミリア(うちだちひろ)とのゴムパッチン(笑)メチャクチャ体張って頑張っておりましたわ(笑)
ジャンベルの女優陣の中では、比較的、コミカルな立ち位置になる事が多い升田嬢。今回のフィンチはまさに適役でした。
・エミリア……うちだちひろ
シマリスの少女。登場時は魔法をかけられて言葉が話せない上、大怪我を負っている。
昨年春「おとぎ夜話・特別編」以来の出演。序盤はジェスチャーを多様するなど、台詞が無い中でかわいらしいシマリスを演じていました。
でもやはりフィンチとのゴムパッチンがハイライト(笑)口封じの魔法を解除するためとは言え……痛かっただろうな(笑)特に千秋楽は素で驚いていた表情が良かった(笑)
そんなうちだ嬢。今回の公演を最後にしばらく役者業を休業との事です。また戻ってくる日をお待ちしています。ゴムパッチンの思い出と共に(笑)
・アラーニャ……宮本京佳
北の森の魔女・トレンドューラの手先の女のクモ。気がつくと毎回リヒテンゲールに負けている。
昨年秋の「悟らずの空2015」(水蘭)以来の出演。前回出演時の水蘭が真面目な役回りだったから、今回のアラーニャの面白さが際立つ(爆)
しかし物語後半でリヒテンゲールを助けた時のシーンが最高に良かった。台詞だけ聞くと一種の「ツンデレ」ですが、これでアラーニャが好きになった方は多かったと思います。
リヒテンゲールも大好きアラーニャさん。とっても愛らしい敵役でした。なお宮本嬢、千秋楽に誕生日を迎えたとの事です。おめでとうございました。
・ブルッハ……大塚大作(ジャングルベル・シアター)
最初はアラーニャの部下として登場するフクロウ。途中からトルトゥーガ(青木清四郎)に付き従う。しゃべり方が慇懃無礼。
2009年版でも同役を演じた大塚氏。今回も劇中におけるトリックスター的な立ち位置で笑いを大いに提供してくれます。
シマリスに変装しているはずなのに飛んでいったり(笑)口癖の「ほう」が抜け切れないとか(笑)もう観ているだけで楽しかったです。
それにしても顔のメイクが、某有名電車ゲームの貧乏神っぽかったのは、実は結構ツボでした(笑)
・ハバリ……本多照長(ジャングルベル・シアター)
アラーニャの部下として登場するオオイノシシ。ブルッハ同様、途中からトルトゥーガに従う。やたら防御力だけ高いドM体質。
大塚氏同様、2009年版でも同役を演じた本多氏。……こういう言い方は失礼ですが、この手の変態ポジション演じさせたら、本多氏は最高に面白いです(笑)
主にフィンチの攻撃を受けて「もっと」とか「おかわり」とか言うあたり倫理的にアウト(笑)退場の仕方はヘルマンに高所から落とされて果てるというオチも最高(笑)
最近はもぐりの落語家(豚足亭鈍痛)や、ジャンベルショップ店長とか本職以外も頑張ってますが、本多氏はやっぱ役者やってナンボだと思いました。冒頭の社長も好きです。
・トルトゥーガ……青木清四郎(カプセル兵団)
トレンドューラの手先のヌマガメ。別名「疾風のトルトゥーガ」。アラーニャに変わりリヒテンゲールを追跡する。そして彼には真の姿が……。
2014年初夏公演「ヒュウガノココロ」(日向大介)以来の出演。登場時は自分の甲羅の重さで起き上がれなかったり、「疾風」とは程遠い鈍足ぶりを披露して笑わせてくれます。
しかしヘルマンとのタイマンで真の姿「リカード」(トカゲの怪物)になってからの俊敏さと、舞台上を所狭しと駆け巡った殺陣は見事の一言。
さすがカプセル兵団が誇る看板役者。その類稀なる運動神経で、少ない出番ながら強烈なインパクトを残してくれました。
・ノエル……斉藤有希(@emotion)
リヒテンゲールと道中で出会うカヤネズミの少女。母親を病気を治すために黄金の林檎を探しているが、その正体は……。冒頭で歩の元彼女役も兼ねる。
昨年秋「悟らずの空2015」(柳蕾)以来の出演。とにかくかわいい(照)かわいくて仕方ない(照)ヒロイン中のヒロイン、守ってあげたい!……と誰でも前半は思ったはず……。
中盤、自らの正体……トレンドューラ三姉妹の一人(恐らく末妹)である事を明かしてからの悪女っぷりは、それまでのかわいさから一転、恐ろしさすら感じた……。
それでもね……かわいい(爆)こんなかわいい娘なら騙されていいと思えるくらいの、見事なまでの中盤の悪女っぷり、そしてラストシーンの穏やかな表情が印象的でした。
・シュピーゲル……鈴木絵里加(DurCi)
リヒテンゲールとはぐれたヘルマンたちの道案内役を務めようとする方向音痴のアカシカ。だがその正体はトレンドューラ三姉妹の一人(恐らく次女)だった……。
昨年春「おとぎ夜話・特別編」以来の出演。恐らくこれまでジャンベルで拝見した絵里加嬢の中では、一番コミカルで動きもシャープだった(笑)
それでも中盤以降の正体を現した後は凄まじい迫力を感じた。方向音痴なのも実は計算尽くめだったというノエルとはまた違った意味のギャップに驚嘆した。
全編を通して動きや立ち振る舞いが非常にきれいな方なので、観ているだけでもその美しさを堪能できました。
・ドライファッフェル……國崎馨
リヒテンゲール一行に同行を申し出る老婆。自称「呪いをかけられた異国の王女様」。その正体はトレンドューラ三姉妹の長女。なお図書館の司書(國崎のおばさん)も兼ねている。
今夏「夜行万葉録・子」に続いて出演。ジャンベル劇団員と勘違いされてもおかしくないレベルで、普通にここ数年出演している國崎嬢。
とにかく今回の彼女を観て年齢詐称疑惑を抱きました(爆)まだ20代後半だったと記憶していますが……あれ?おかしいなぁ……と思いながら観ていました。
ただしノエル、シュピーゲル同様、正体を現してからの演技は圧巻の一言。一つの舞台で年齢を行ったり来たりして……凄い。これしか最後は言えない……。
……と個々の出演者をの感想を述べましたが、今回は非常に名シーンが多かったので、個々の出演者の感想だけでは収まりきれません。
歩とリヒテンゲールの18年の時を経た会話……中盤のハイライトで、涙なしには語れません。
その直後のアラーニャがリヒテンゲールを助けた場面。歩が驚きながら本を読む表情と同様、客席でも知らず知らずのうちにガッツポーズを取ってしまったりとか……。
前後してヘルマンとトルトゥーガのタイマン。きちんと殺陣をしながら、イヌワシらしい攻撃と、トカゲらしい仕草の数々に感嘆。
笑いどころと言えばフィンチとエミリアのゴムパッチン(笑)ある意味、女優魂を見ました(笑)
終盤のトレンドューラ三姉妹の独白。本当に長い時間、三人がほぼほぼ台詞を噛まず、亡くなった母との思い出や、かつて恐怖を思い出す様が凄まじくてつい魅入られた……。
そしてラストシーン……恐らくジャングルベル・シアター史上、屈指のラストシーンじゃないでしょうか。
……あかん。書いていて涙腺緩んできた……。
もう公演が終わって二週間近く経ちますし、それだけ経っても鮮明に一つ一つのシーンが思い出される舞台も珍しいです。
いずれDVDも出ますが、それなしでここまで感動を思い出せる舞台です。
是非、今回観れなかった方には、DVDという形でもいいから観て欲しいと思える舞台でした。
……と、本来であればここでレポートの締めに入るところですが、最後にどうしても触れたいところがあります。
それは劇中での台詞。
歩は母親へ電話する際、詐欺と疑われます。その中で彼はこう言います。
「小さい頃飼っていた犬?……ボクサー犬のブルース」
二つの公演が繋がった瞬間でした。
「DOGのBLUES」からの「リヒテンゲールからの招待状」
望月歩という一人の少年が紡いだ、二つの素敵な物語……決して忘れる事は無いでしょう。
遅ればせながら二週間という長期に渡る公演、お疲れ様でした!
・ジャングルベル・シアター公式サイト↓
http://www.junglebell.com/