※この舞台は6/29~7/3まで行われた舞台で既に公演は終了しています。
6月から7月にかけて久々に観劇をしている……と「夜行万葉録・子」のレポートで話しましたが、今回はその第2弾をお送りします。
……という事で、今回レポートするのは「トッケイと華」
こちらも【舞台観賞】シリーズでは良く取り上げている、劇団アルターエゴの作品となります。
声優などでお馴染み三ツ矢雄二氏主宰の劇団アルターエゴ。
古典劇から現代劇まで幅広く演じますが、今回は現代劇のジャンル。
前作「それぞれの事情」がどちらかというと(色んな意味で)踏み込んだ作品でしたが、今回は比較的平穏な作品となっております。
そんな訳で訪れたのは、下北沢にあるOFF・OFFシアター。
もう何度か訪れているし、紹介した事もある劇場なのですが……一部、改装していたみたいで、最初、入口が分からなかったのはナイショという事で……(笑)
パンフレットを一通り拝見し、あとは開演時間を待つばかり……。
……という事で何度か前説があるのですが……前説のお姉さん……こと小森知恵子嬢の説明が面白かった(笑)
もう二度、三度、彼女のおかげで携帯電話などの電源をチェックする事が出来ました。
本当にいい仕事をしていました。ありがとうございました(笑)
※ちなみに小森嬢、今回は拝見出来ませんでしたが、ダブルキャストで出演されておりました。
そんな面白お姉さん(小森嬢)の前説を経て、いよいよ本編開始となります。
公演終了につきネタバレ有のあらすじをば。
有名画家・小野寺建造の孫娘である、小野寺華(垣田夕紀・以下敬称略)は都内でシェアハウスのオーナーを務めている。
死期の近い祖父の面倒を見ながらも、近々結婚を控えており幸せに包まれていた。
シェアハウスには個性豊かな住人が揃い、まるで家族のように親しく一つ屋根の下、暮らしていた。
だがそのシェアハウスも華の結婚を機に閉まる事が決まっていた……。
……はずだったのだが、それは華の突然の婚約解消で無くなってしまう。
これからもシェアハウスに残れるが、華の事を考えると、非常に複雑な心境の住人たち……。
……そんな矢先、華と住人たちの前に一匹のカラフルな模様のヤモリが突然現れる。
そのヤモリ……トッケイヤモリと華たちの出会いから、ちょっとだけ不思議な日々が始まる……。
これはどこにでもありそうだけど、ちょっとありえない不思議な話……。
不思議だけど、ちょっと泣けて、そして心暖まる、現代のちょっとしたおとぎ話……。
……ざっとこんなところですかね。
話の本筋は華の過ごす濃密な日々。
それを個性豊かなシェアハウスの住人たちが回りを彩っていくという形。
とにかく主人公の華が劇的な人生を歩んでいる。
幼少時のエピソードもパンチが効いている(しかしこれが劇中で華が祖父を最期まで面倒を見る遠因にも繋がっている)
劇中の時間経過だけでも、婚約解消を経て、最終的には祖父の死に直面する事になる。
しかしその彼女の人生の中でも劇的で濃密な時間を、端的かつ丁寧に、更にそこにまるでおとぎ話のようなエピソードまで添えて彩っている……。
なかなか一人の人間の悲喜こもごも、をここまで素敵に彩る事なんて普通出来ないよ!
……と思うくらい、彩っている。いや本当にに素敵なまでに。
ただ恐らくこの時間経過が、ただ淡々と過ぎていくなら、これは小野寺華の人生の中で最も冬の時代的なただの悲劇である。
そんな本来ならば悲劇のような時間を変えたのが、トッケイヤモリ(通称:トッケイ)の存在……そして物語の後半に現れる、祖父のヘルパー:坂本・フェルナンド・透(山崎智幸)である。
どのように華に関わっていったかは、敢えてここでは言及しませんが、間違いなくこの物語におけるキーマンが彼らだったのは間違いが無い。
そして彼らが華に関わる事によって、物語はまるでおとぎ話のように展開し、心暖まるエピソードと共に終盤へと向かっていく……。
物語の終盤、シェアハウスの住人たちは立て続けに成功なり、幸せなりを掴みかけている。
主人公の華はそんな住人たちの姿を見守り、物語は終わりを迎える……。
そう……華だけは明確に幸せを迎えている描写はない。だけどラストシーンの彼女を見ていると、これから幸せが訪れるような予感を感じさせる……。
敢えて華に幸せが訪れる描写を表現しなかったのは、最後は観ている側に判断を委ねたようにも思える。
これまでアルターエゴの作品は色んな種類の作品を観てきたけれど、ここまで日常の延長を描いたような物語も珍しかったと思う。
もっとも途中「おとぎ話」と評する部分があるように、ただの日常の延長ではないのだけど……。
舞台効果は若干、暗転は多かった気もするけど、物語が場面によっては数日~月単位で時系列が移動するので効果的だったように思えます。
上演時間は1時間50分。
比較的長い部類に入ると思うけど、観ている間はあまりそれを感じず、ほぼほぼストレスフリーで観れました。
ここからは気になった出演者でも。
まぁ出演者は少なかったので、自ずと絞られるのですが……。
なお今回、ダブルキャストでしたが、自分が拝見した「☆」チームの方のみ取り上げさせていただきます。
まずは劇中では「サード」こと毛利厚を演じてた林伊織氏。
個人的にアルターエゴと言えば、彼を思い浮かべるんですよ(笑)
今回、唯一のシングルキャストだし、アルターエゴを代表する役者の一人と言って過言ではないと思います。
今回の彼が演じたのは、シェアハウスの住人で映画の助監督(3番手)。「サード」は現場での呼称で、それがそのまま住人たちの愛称になっています。
非常にワイルドな感じで、男らしさ全開で、また時には映画を熱く語る姿が非常に印象的でした。
むしろ彼に対して思うのはギャップという点でしょうか。
昨年12月に拝見した「それぞれの事情」では女性との結婚を控えた同性愛者という難しい役どころを演じていたのも記憶に新しい。
そんな彼が今回はめちゃくちゃ男らしい役柄を難なくこなす姿は役者の奥深さを体現したと思いました。
個人的にはラスト手前で茜(原田菜奈)に告白(?)をするシーンが好きでした。
個人的に一押しだったのは、昭二を演じた新谷太氏。
劇中ではシェアハウスの住人で漫画家というポジション。多くのシーンで作務衣を着ていたのが印象的。
サードたちとは違いどこか非常に落ち着いた印象で、劇中でも華からの信頼も非常に厚い印象を受けました。
恐らく彼に一番共感したのは、華に対する好意が見え隠れするところ。
劇中での態度を見れば明らかに華を意識している言動があるのですが、最後までそれを表に出したり、また押し付けたりせず、一人の住人として華に寄り添う姿が印象的でした。
漫画家としての収入が安定したら、華さんを支えてやれよ……と下世話な思いを抱いてしまうくらい(笑)好青年でした。
続いて劇中でのキーパーソンとなる坂本・フェルナンド・透を演じた山崎智幸氏。
物語の後半、華の祖父・建造のヘルパーとして登場。建造の部屋に寝泊りし、文字通り、建造の死の間際まで寄り添うという役柄を演じました。
なぜそこまで建造に寄り添ったか……というところは敢えてここでは割愛しますが……。
本当に短い時間で強烈なインパクトを与えて、去って行った印象が非常に強いです。
彼が出てきたシーンは恐らく時間にすると本当に短いと思うのですが、その割りには台詞の量も膨大だったし、実は彼なくしてこの物語は成り立たないほどの重要な人物。
彼の語る話から、華の祖父・建造の人と成りが強烈なまでに我々客層に響きました。
ちなみに華の祖父・建造はキャスティングされていないため、具体的に出てこないのですが、彼の台詞の中から建造が生まれたと言って過言でない程の大仕事だったように思います。
ちょっとお姉さんキャラな茜を演じた原田菜奈嬢。
サードの影響で映画を熱く語る純の原田雄平氏。
お水に走りかけたけど更生した由依の萩原綾菜嬢。
……本当に皆様、個性的でどの役柄も、どこか愛すべき点が本当に詰まっていました。
だけど今回……最後に語るなら、小野寺華を演じた垣田夕紀嬢。
もう今更、何をいう完璧だよ!(笑)と一言で終わらせてもいいところですが、それでは具体的に彼女の良さが伝わらないので……。
まず全編を通じて、非常に台詞の量が膨大だった。いやこれ本当に凄い。
元々、アルターエゴは長台詞も多いし、覚える台詞の量は多くて大変という印象はありましたが……それに加えて主役。
ほぼ全てのシーンに登場しては、話の中心に位置ししゃべり通す訳です。
また彼女一人だけのシーンも非常に多く、膨大な台詞と、一人芝居とも取れる演技の数々で場面を成り立たせないといけないところも多く、本当に大変だったと思う。
これ観ている側としては、特に彼女をお目当てにしている側としては非常に嬉しい……その反面、本当にこれは大変だと思った次第。
そして劇中での喜怒哀楽が非常に目立った。住人たちの前では基本的に笑顔だったりするのだけど、一人のシーンでは号泣したりする場面も……。
本当に笑顔が素敵な場面もあれば、美人が台無しなレベルのひどい泣き顔もあったりした(一応、褒めています)
そんな表情豊かな華でしたが、それでも一番ラストのシーンで見せた表情……まだ幸せにたどりつけないけれど、だけど幸せになれるかもしれないと思わせるあの表情が劇中で一番最高でした。
恐らく自分の中の「ベスト・オブ・垣田夕紀」です。
とにかく今回、彼女が主役をしっかり張って、我々客層を魅了してくれた事、本当に嬉しく思っています。
これからも役者として頑張って、極めて欲しいと願う次第です。
……と言ったところですかね。
今回も非常に楽しませてもらいました。
「それぞれの事情」のように踏み込んだ作品もいいですけど、こういう心暖まる作品も本当にいいと思います。
これからも劇団アルターエゴという劇団の性格上、古典劇、現代劇を織り交ぜながら上演していくと思いますが、また拝見する機会があれば楽しみにしたいと思います。
・劇団アルターエゴ・公式サイト↓
http://alterego.loops.jp/home.html