【舞台観賞】「永遠の一秒」(インヘリット東京) | ヒトデ大石のなんとなくレポート置場

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2011年8月「ヒトデ大石のどんなブログにしようか検討中。」からタイトル変更。
ライブイベント、舞台観劇のレポートを中心に書いていこうというブログ。
以前はmixiが主戦場だったけど、今はこっちが主戦場(笑)

※9/17~9/21公演。既に公演は終了しています。

9月も中旬を過ぎ、いよいよ秋の気配が本格的に漂っている昨今。
皆様、いかがお過ごしでしょうか。

今月は比較的、知っている方の舞台が多いのですが、泣く泣くスケジュールの都合でお断りした方も……。
……言い訳じゃないですけど、奇数月の第三土曜日近辺は本当にごめんなさい(爆)
ライフワークがあるんです。どうしても外せないんです(インディーズアイドル方面で)

そんな中、強烈なまでに熱烈なお誘いを受けたのが、今回お伺いした舞台になります。

インヘリット東京……「永遠の一秒」

さてどんな舞台か……というのは、後程、語るとして、そもそも「インヘリット東京」とはどんな団体ぞや?……というところから説明になります。

インヘリット……直訳すると「受け継ぐ」の意味。
パンフレットには「先人から受け継いだものを後世へと伝えていく。その媒体として我々(演劇)が存在する」(原文まま引用)とあります。
このプロジェクトを東京、沖縄で立ち上げ、今回、旗揚げ公演として、今作「永遠の一秒」を上演する……との趣旨です。

前述の話にあったように沖縄(インヘリット沖縄)でも、今年11月に本作品の上演は決定しており、今後も本作品を定期的に全国展開していくとの事です。

ん~……パンフレットの段階で相当、壮大なプロジェクトが語られているなぁ……しかし、このような壮大なプロジェクトを立ち上げてまで、我々に「受け継ぐ」べきものって一体、どういう舞台なんだろう……。

そんな訳でやってきたのは、先月もお伺いしました、大塚・萬劇場。
階段を下りて、地下深くある劇場で観た、その舞台とは……。

以下、ネタバレ有のあらすじ。
万が一、11月の沖縄を観に行く予定の方はスルー推奨(爆)


大東亜戦争(太平洋戦争)末期の初夏、海軍宮崎赤江基地……。

翌朝に特攻を控えた大宮英機(緑川大陸・以下敬称略)、石井義貴(松本博之)、細野十郎(中村充宏)の三人は怪我で特攻に参加出来なかい戦友・原口千里(中村和之)と夜空を見上げて語らっていた。
特攻の無意味さを嘆き悲しむ原口だったが、既に腹を覚悟を決めていた三人は、自分たちの遺品と遺書、そして大宮の想い人・邦子(宇田奈央子)の事を原口に託す。
そして陸上爆撃機「銀河」に乗り込んだ三人は華々しく、沖縄近海で散って行った……はずだった。

……70年後の現代。
そこに三人の姿はあった。

70年後の日本を「死後の世界」と勘違いした三人。
訳もわからず右往左往していたところ、ひょんな事から居酒屋の雇われ店長・坂上(むとう寛)に気に入られて、バイトとして雇われる事となる。
そこには邦子に瓜二つの江間綾香(宇田奈央子/二役)の姿もあった……。

すっかり坂上らに気に入られた三人は、その夜、居酒屋で歓迎を受ける。
しばらくの間、綾香の祖父母の家を仮住まいとして提供してもらう事になった三人。
そこに居合わせた綾香の祖母……かつての大宮の想い人、邦子(宮本真友美)その人だった……。

邦子は石井、細野という名前、そして目の前にいるあの日のままの大宮の姿を見て、何かを悟ったように、病院にいる夫……原口千里(勝山了介)の元へ向かう……。

そして三人はこの世界が70年後の日本という事を知る……。

特攻で散ったはずの大宮、石井、細野の三人の行く末は……。
そして邦子、かつての戦友・原口は……。

戦争が生んだ悲劇が、70年の時を経て、一つの物語を紡ごうとしている……。


ざっとあらすじはこんなところ。

このあらすじではこの舞台の感動は伝わらないだろうし、全く自分でもその感情を引き出せていないと思います。
しかし冒頭のシーンから、最後に至るまで、涙腺が弱い人は恐らくハンカチを手にしていないと大変な事になるレベルの感動作でした。

あらすじでは触れていない冒頭のシーン。
一組の老夫婦が夏の夜空をバックに、軒先で夕涼みをしている……そしてやがて老夫婦には、あの日の「出撃の前夜」がフラッシュバックされる……というのが、実は冒頭の入り。
この最初の静かな立ち上がりから、一気にこの舞台に引き込まれてしまう……。
そして序盤のクライマックスともいえる、三人の特攻から、物語の舞台は現代へ……。

時にナレーションを駆使し、時に映像を駆使し、物語の間と間を丁寧に紡いでいく。

一転してコミカルな演出が目立つ、現代パート。
特攻による戦死から、現代を「死後の世界」と勘違いした三人と、原口の子孫たちとの交流が活き活きに描かれる。
物語の後半、現代が自分たちの死後から70年後の世界と気付いた後の三人と、原口の子孫たちとのやり取り。
そして原口にも最期の時が近づいて……。

テーマは正直言って重い。
しかし散ったはずの特攻隊員が現代に甦るという荒唐無稽な設定ですら、その突きつけられたテーマの前にすると、意外と素直に受け容れられるものである。

しかもちょうど時はおりしも「安保法案」が国会の審議を通るか、通らないかのちょうど瀬戸際だった頃。
「戦争」という題材を取り扱うには、あまりにもタイムリーな時節柄だった。

恐らくこの舞台には戦争肯定も、反戦の意思も無いと思う。
(もっとも劇中の台詞で、戦争の悲惨さを語っているので、やや反戦の意思はあるのかもしれないが)
ただ事実、70年前の戦争で、このように命を散らして日本を守ろうとした若者がいた事実、戦争によってもたらされた悲劇を……まさに「受け継ぐ」
こうした先人たちの苦しみ、悲しみの上に、現代に生きる我々日本人の幸せが成り立っているという事実を忘れてはならない……。

そのためにこの物語はあると自分は感じています。

それにしてもこの舞台、演出はにくかった。
時代が移り変わるシーンが多いため、暗転が多かった面は否めないけど、合間、合間にナレーションや、当時の映像を交えたりして効果的に演出していた。
そして音響、特に劇中で使用していた楽曲が効果的。
特に劇中で何度か使われる「モルダウ」の壮大さ、そしてラストシーンの中島みゆき「時代」から「誕生」の流れ……。
いや……あれはずるい。特に中島みゆきは反則ですわ……。

上演時間は1時間50分。
この時間が長かったのか、短かったのか分からない。

だけど70年の歳月を経ても、現代に生きる我々が「受け継ぐ」べきものはきっとここにはあった。
そう思います。


さてここから出演者に関して……なのですが、今回、皆様、上手かったと思う訳です。

特攻隊の大宮、石井、細野を演じた緑川大陸氏、松本博之氏、中村充宏氏、共に非常に印象的でした。
実際、70年前の若者はあんな感じだったのではないか……そう思わせてくれました。

その真逆を言ったのが、江間香を演じた井川花林嬢。
現代のどこにでもいそうな軽い感じの若者。それ故、特攻隊の三人とのコントラストが印象的でした。

でも一番存在感放っていたのは、現代パートの原口千里を演じた、勝山了介氏。
出演は非常に少ないです。冒頭と、終盤だけです。(ただ劇中のナレーションは恐らく彼かと思っているのですが)
臨終間際の生き残りの特攻隊員という設定でしたが……いるだけで、物凄い存在感。
冒頭の宮本真友美嬢演じる妻・邦子と並んでいるシーンなんて、並んでただ短い会話しているだけなのに、夫婦として成り立っている……。
そして何よりラストシーンでしょう。
BGMに中島みゆきの「時代」をバックに、特攻して散る間際の三人……その直後に叫ぶ姿は……圧巻でした。
実はこの時、自分は彼がなんと叫んだのか聞き取れませんでした。
しかしこの叫び一つに、原口の苦しみ、悲しみ、もしくは亡くなった戦友たちへの想いと……全てが詰まっていたように思います。
数少ない出演シーンでしたが、間違いなく、観ている者全ての心を揺さぶってくれたと思います。

そんな素晴らしい舞台に今回、猛烈に誘ってくれたのが、ハグハグ共和国主宰の久光真央様(敢えて「様」づけです・笑)
以前からハグハグ共和国の舞台は何度か拝見していましたが、今回の舞台にあたり、猛烈なお誘いと、是非、この舞台のレポートを読んで見たいというお言葉をいただいたので駆けつけた次第ですが……。

という事で、ハグハグ共和国からも三人出演していたので、お三方についても語っていこうかなと。

まずは戦時中の原口を演じたのが、中村和之氏。
ほぼ特攻する三人以外とやり取りが無かった中村氏(実際、出演はこのシーンのみ)でしたが、彼もまた短い出番の中で存在感を示してくれたと思います。
本当に台詞の使い回しから、感情の起伏まで、いかにも当時、このような軍人……いや若者いただろうな……という感じの風体がとても良かった。
勝山氏演じる、現代の原口が先に出演していましたが、彼がそのまま若返った姿と言われても、全く違和感なく溶け込んでいたと思います。
また台詞の量も序盤のみとは言え、非常に膨大にも関わらず、それを熱のこもった口調で言い続けるところに痺れました。
なお……足を怪我する役が今年に入って多いと思いますが(笑)その点も凄いうまくなっている印象がありました。

続いて戦時中の邦子、そして現代では江間綾香を演じた宇田奈央子嬢。
全出演者で唯一の一人二役。綾香が邦子の孫娘だからこその配役だったと思います。
邦子の時も、綾香の時も、かわいらしいんですよ。全くタイプは違うかわいらしさですけど……そういう意味では邦子の時は「いじらしい」感じがして、逆に綾香の時は現代的なかわいらしさがありました。
でも一箇所だけ「美しい」と感じるシーンがありました。現代の邦子が大宮の顔を見て何かを悟るシーン、その直後、邦子は桜の枯れ枝を大宮に手渡します。
ただここだけ一瞬、現代と過去の邦子が入れ替わって、桜の枯れ枝を渡すのは「過去の邦子」を演じた宇田嬢の役目でした。
このシーンの宇田嬢が凄い美しくて印象に残っています。どちらかというと、かわいらしい印象が強い方だったので、これには思わずゾクっとしましたね。

そして江間優子ことお母さんを演じた、久光真央様。
一言で言いましょう。いや、言わなくてもいいでしょう。「お母さん」です(笑)
どこの家庭でもいるであろう「お母さん」です(笑)軽いノリです(笑)原口夫妻の娘が彼女です(笑)
ただそんなどこにでもいるであろう「お母さん」を、さも普通に、しかも自然に演じてました。役者・久光真央の素晴らしさが凝縮されていたと思います。
ハグハグ共和国だと作・演出に集中してしまうので、こういう機会じゃないと、彼女の演技は見れませんからねぇ……。
また別の機会に役者としての彼女の熱演を観る機会を楽しみにしたいと思います。


……「永遠の一秒」、非常に思うところが多々ありました。

戦後から70年経とうとしている昨今、当時を知る方は徐々に亡くなっています。
終戦時、10代だった自分の母方の祖父も、3年前に亡くなりました。
実際に出兵した、父方の祖父はもっと前に亡くなっています。

戦争の事を語り継ぐにも、当時を生きていた方から話を聞く時間はもう限られている。
それを「受け継ぐ」ため、こうした「舞台」という形があるのか……そう今回の公演を拝見し思いました。

昨今、安保法案で揺れる日本ですが、まずは70年前にあった事実に思いを馳せてみては……そう思いました。

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