【舞台観賞】「静かにとける桃色」(劇団えのぐ) | ヒトデ大石のなんとなくレポート置場

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2011年8月「ヒトデ大石のどんなブログにしようか検討中。」からタイトル変更。
ライブイベント、舞台観劇のレポートを中心に書いていこうというブログ。
以前はmixiが主戦場だったけど、今はこっちが主戦場(笑)

※この舞台は5/14~5/17まで公演された舞台で、既に終了しています。

今年に入って観劇ペースがちょっと落ちている自分ですが、それでも気になる役者さんはごまんとおりまして……。
なかなかスケジュールが合わない事が多く、観にいけなくて申し訳ない事が多々あります。
中には毎公演、誘ってくれる熱心な出演者の方も……。

「いつか」……とは思いつつも、その「いつか」は思い立たないと、なかなか実現しないもんです。

そんな「いつか」この方で予約して拝見せねば……と思っていた舞台女優が一人おります。
実はこの方の舞台、昨年は殆どの出演作を拝見していたのですが、不思議な事に彼女で予約した事が一度もありませんでした。
既に今年も彼女の出演作観るタイミングを何度か逃していました。

そんな折、流れてきた情報。
懐具合とスケジュールとの相談(自問自答)を経て……今回、拝見したのが、劇団えのぐさんの舞台「静かにとける桃色」です。

まず劇団えのぐさんは初見になるので、簡単に紹介でもしましょう。
テアトルアカデミーに所属していた、主宰・佐伯さやかと松下勇により2011年9月に旗揚げ。
以後、毎作品、主宰・佐伯嬢と松下氏が交互に作・演出を繰り返す手法で公演をするスタイルを取っている劇団……との事です。

そんな劇団えのぐ、普段なら佐伯嬢、松下氏、どちらかの作・演出しか拝見出来ないのですが、なんと今回は「番外公演」と称し、なんと両者の作・演出作品が拝見出来る作りになっております。
言ってしまえば「一粒で二度美味しい」(笑)
ただこの両者の作品、全く毛色の違うテイストになっております……。
もしかしたら、自分のように「劇団えのぐ」初心者にはもってこいだったかもしれません。

向かったのは阿佐ヶ谷にあるシアターシャイン。
もうこのレポートでは何度か紹介しているので、ご存知の方も多いかと思いますが……。

そんな訳で会場に入るのですが……真っ先に飛び込んできたのは、エプロン姿の松下勇氏。
舞台の上をうろうろしつつ、客案内をしています。
ちなみにこの間、前説が入るまでは舞台上の撮影OK!ネット上拡散もOK!という大盤振る舞い(笑)
まぁ自分もそんな松下氏とステージの上を撮りましたが、敢えてここでは掲載しない訳で(笑)

どんなステージかというと、一言で言えば喫茶店。……というか、今回の舞台が喫茶店を舞台にしているので、まんまなんだけど(笑)
下手側にはカウンターがあり、上手側にはいかにも階段に見立てた出入り口がある構図。
そんな喫茶店を舞台、どんな物語が繰り広げられるのか……前説も終わってしばらくして、松下氏は言うのです。

「そろそろ開店しようかなぁ~」

……会場は暗転し、いよいよ物語の幕が開きます。


ここからは公演終了後につき、ネタバレ有りのあらすじをば……。

……舞台は「隠れ家喫茶」と言われるカフェ。
マスター(松下勇・以下敬称略)は語るのです。

「同じ色でも違う色に見える事がある」……と、その真髄は……。

そこへ現れる常連の漫画家(佐伯さやか)
〆切になってもネタが浮かばないと頭を抱えてやってくるのですが、そこでマスターが一つ話をしようとすると勝手に編集者にネタが浮かんだと電話で伝えて去ってしまいます。
さてそのお話とは……。


カフェの常連、一美(立田聡実)はいつも一人である。
しかし彼女の周りにはいつも四人の友人がいた。いつも一美の思いを代弁してくれる、彼女の作り上げた空想上の友達……イマジナリーフレンドが。
だからマスターや普通の人には見えるはずがなく、一美と友人達のやり取りは傍から見れば「独り言」だった。
そんな一美はある日、一人の男性に恋をする。
なかなか告白出来ない一美だったが、四人の友人たちにけしかけられて告白をする。
すると彼……慎一(西村侑樹)から意外な言葉が飛び出す……。

「五人もいるのに、誰と付き合えばいいんですか?」

見えないはずの友人が見える、この慎一の正体とは……?
そしてそんな彼に導かれるように、一美とイマジナリーフレンド達との関係にも大きな変化が現れる……。
果たして一美の恋の結末、そして運命は如何に……。


そんな前半。
だが漫画家は再び現れる。
マスターの物語は採用されるも、再び別のネタの提供を求められて困っている。
そして次はカフェのバイトの話しを語り始める……。


カフェのバイトである宮本奏多(谷優貴)の事を好きな女子がいた。
彼女の名は須藤寧々(萬歳恵子)奏多と同じ大学に通う女子大生。
ある日の事……カフェの常連でもある寧々は友人達とその日もカフェにいた。
この日、奏多に告白しようと寧々は誓うが、その強い決意も、偶然現れた一人の女性……安達美緒(伊喜真理)の登場で決意は揺らいだ。
奏多が思い続ける6つ年上の幼馴染……それが美緒である。
おもむろにマスター、奏多と相談を始める美緒。
しかしそこで奏多は衝撃の事実を知る。

美緒が結婚する。

実は今回、店を訪れたのも、その結婚パーティーを、その結婚相手と出会った、このカフェでしたいので訪れたのがそもそものキッカケだった。
笑顔で祝福するマスターとは対照的に、あまりのショックに明らかにふてぶてしい態度を取る奏多。
その様子を見た寧々は却って自信を失くして、そのまま店を去った……。

……翌日。
寧々は一人、カフェに現れる。
そしてそこに美緒も現れる。
一人の男が愛し続けた女性。片やその男を愛している女性。
寧々の後輩・沙織(鈴木啓子)を交え、三人で語り始める。
やがて奏多の少年時代の話へと話は遡る……。

そしてかつて奏多が美緒に続けたという「幸せのお裾分け」
あれから10年以上の時が経ち、愛した人は他の男と幸せになろうとしている……。

そんな奏多は美緒に対し、何を思い、そして最後に何を伝えるのか……。
これは一人の「少年」が「青年」へと成長する過程の、少し切ない初恋の物語……。


……ってところでしょうか。

オムニバス形式ってほど短編ではないけど、上演時間が全編通して90分。
おおよそ40分前後でそれぞれの話がまとめられていました。

恐らく2本の話とも、話の性質があまりにも違うので、それぞれの話を単品で再演は可能な出来になっている。
ただ今回は共通する登場人物が一部いる以外は、この2つの話に直接の関連性は皆無と言っていい。
それなので人によっては、この2つの話を一本の舞台でする必要はあったのか……?という疑問を持つ人は現れてもおかしくは無いと思う。

ただ共通しているテーマは「桃色」
最終的に形は違えど「恋愛」そしてそれに伴う「幸せ」がテーマの根底にはある……と推察する。

前半の主人公・一美は紆余曲折を経て、最後は本来告白するべき相手に想いを伝えて、未来を切り開いている。(後半でその設定は大いに活かされる事になる)
後半の主人公・奏多は大きな失恋をする事になるのだが、一回り人として成長し、そして……最後は当初と違った形だが幸せを掴もうとしている。
結論からいうと経緯は全く異なれど、ハッピーエンドを迎えている。
これがマスターの冒頭での台詞「同じ色でも違う色に見える事がある」というのは、同じ「幸せ」でも、それまでに至る過程の事を暗示していた……と思う。

また演出面においては前半はダンスやら殺陣が織り込まれて、人間の内面を描いている内容にも関わらずダイナミックな動きが目立った。
逆に後半。人と人の触れ合う話なのだけど、有り触れた日常の中の光景が、どこか静かに俯瞰的に流れて行く様が印象的だった。

最後は確かに「桃色」にたどり着いた物語。
だけどラスト直前のダイジェストシーンみたいな流れを見て、そこに至るまでの経緯はきっとそれぞれの作品、全く違う個性と「色」を放っていたのは間違いないと思う。
前半の作・演出を担当した松下氏、後半の作・演出を担当した佐伯嬢、共に分かりやすく秀逸に作品をまとめていたと思います。


さてここからは気になった出演者の方でも……。

まぁどうしてもメインどころは気になってしまう質なので……。
前半の松下氏作品の主人公・一美を演じた立田聡実嬢。
多重人格一歩手前の非常に難しい役どころを演じたと思います。
周りにいる四人のイマジナリーフレンド達の動作に合わせて、自分自身も動かなくてはいけないという……演技という観点からしても、相当レベルの高いものが観れたと。
ご本人はとってもさっぱり系の美人さんで、前半のどこかおどおどしている動作の一つ一つもどこか小動物系で……好きな人は多分、惚れてしまうレベルだろう。
だけど個人的には、後半……マスターの奥さんとして登場した時のギャップのあるキャラクターも好き(笑)
もう前半とは似て非なる方でした(笑)

あと前半で言えば、さいとうえりな嬢になるのかなぁ。
彼女は拝見するのは三度目ですけど、相変わらず動きにキレがあるというか、なんというか……殺陣をやらせたら、人一倍キレるし目立つ。というかカッコイイ。
その上、演じたのがミシェルという一美の中で最も古いイマジナリーフレンドなんだけど、序盤のパペットを使ったコミカルな演技から、中盤の自我を持って堂々と立ち振る舞う姿まで存在が際立っていた。
記憶が確かなら、まだ21とお伺いしておりますが……本当に若いけど、いい役者さんだと思います。

前半は一美とマスター以外が全員、一美のイマジナリーフレンドという事で……言ってしまえば「自分の中の自分」という内面世界の描写が殆ど。
そんな一歩間違えれば難解で難しい世界を、あそこまで分かりやすくダイナミックに皆様、演じたと思います。

続いて後半。
後半の主人公・奏多を演じた谷優貴氏は見てて、甘酸っぱかったよ(笑)
あのねぇ……男性としては分かるんだ!初恋の人に対して、しかもそれが年上の女性に対して、ああいう態度を取ってしまう心境も!(笑)
でも最後の最後は……その辛さを乗り越えて、人って成長するんだ……そんな「若いっていいな」を地で行った演技。
ちょっとくさいかもしれないし、草食系過ぎるところもあるけど、自分はとにかく好き。
だけど自分はきっと奏多のようにはなれないなぁ……と。

そういう意味で自分なら福島樹氏演じた涼介のポジションが、大学時代の自分ならこのへんに落ち着くのかなぁ……なんて思いながら観ていた(笑)
ええ。やんちゃ坊主ですよ。大好きですよ(笑)皆におごらないといけない損な役回りもちょっと好きですよ(笑)

でもこの作品は二大ヒロインというか……いい女揃いすぎでしょ(笑)

寧々を演じた萬歳恵子嬢が正統派美少女過ぎて、かわいかった。
とにかくあんなかわいい娘、そしていい娘、なかなかいないよ。いや断言していい、あれは空想の世界の中にしかいないレベルの純粋な女子だと(爆)
そうだと分かってはいるけど……男としては、多分、惚れてしまうんですよ(爆)
前半から中盤にかけては、想いを伝えきれない悶々としている女子でしたけど、やはり彼女の見せ場は終盤のシーンでしょ。
あんなさりげなく真正面から堂々と「好きだよ」なんて言われてみろ!例え失恋直後のちょっとトーンダウンしている男子でも首を縦に振らざるを得ない!(爆)
……それが許される彼女のさわやかさ。まさに二大ヒロインの一角に相応しかった。

……でもそれ以上に、やっぱり自分は美緒さん派かなと(爆)
そんな訳で美緒を演じたのは、この日の自分のお目当てでもある伊喜真理嬢。
観てて思ったのは、とにかく落ち着き払った大人の女性を演じていたという事。
どうしても奏多をはじめとするメンバーが大学生(かつ、出演者も皆、平均して若い)なので、どうしても彼らだけだと落ち着きが無かった。
恐らくマスターの松下氏をそこに入れても、焼け石に水レベルの若々しさなので、話の中において落ち着いて観れる存在を欲していたと思う。
それが彼女演じた美緒であり、またどこか大人になりきれない学生達の、大人への階段を上る足がかりを作る……そういう女性を演じていたと自分は思います。
登場してから中盤まで、終始、大人の女性……どちらかというと「お姉さん」として振舞っていたけど、終盤の奏多とのやり取りの中で初めて「女」としての一面をさらけ出すところが鳥肌もの。
「私、幸せになるよ」とか「24までは待っていた」という台詞の端々に、彼女もまた歳を取るにつれて現実を見据え、大人へとなっていた様子が窺えるし凝縮されている……。
観ようによっては、ずるい大人の女性なのかもしれないけど、だけどきっと奏多の立場だとそれで嫌いになれないだろうなぁ……。
一言で言ってしまえば「素敵」に尽きる。ちょっとくらい色々ある方が人間らしい味が出る。
もっと若い時分なら、はっきり言って自分は寧々派だったんだろうけど……今回、美緒さんにベタ惚れしてしまった自分も、それはそれで歳取ったのかもしれないなぁ(笑)
そんなきれいで素敵な初恋の人、美緒を見事に演じ切っていたと思います。

……あ、最後にマスターの松下勇氏。
なんだろうねぇ……今回は本当に脇に徹していたねぇ。
それでも漫画家を演じた佐伯さやか嬢と二人で、物語の繋ぎ目のところで重要な場面を「きゅっ!」と締めてくれた感はあります。
ただ今回、もし彼を評価するなら、作り手としての面になるんでしょうかねぇ。
人の内面世界を抉り出す作品を、良くまとめ上げたと思います。
いやこれまで色んなコミカルな役柄の彼しか知らなかったから、実はこういう作品が書ける一面があった事に驚いた次第です。
役者としての彼のこれからの活躍も楽しみですが、また「劇団えのぐ」を観に行きたいと思わせるには十二分な出来だったと思います。


……とまぁこんなところでしょうか。
ここでは触れなかった出演者の方もいますが、皆様、持ち味を出し切っていたと思います。
初見の方が多かったですけど、知っている方を中心に安心して観れましたし、またどこかで拝見する機会があったら注目して観たいと思います。

何はともあれ、皆様、お疲れ様でした!

・劇団えのぐ・公式ブログ↓
http://blog.livedoor.jp/gekidan_enogu/