【舞台観賞】「今はただ遠くからありふれた歌をー」(演劇企画ハッピー圏外) | ヒトデ大石のなんとなくレポート置場

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2011年8月「ヒトデ大石のどんなブログにしようか検討中。」からタイトル変更。
ライブイベント、舞台観劇のレポートを中心に書いていこうというブログ。
以前はmixiが主戦場だったけど、今はこっちが主戦場(笑)

※この舞台は9/12~9/16まで行われた舞台で既に公演は終了しています。

先日、拝見した舞台「女中たち」のレポートでも予告した通り、今月は(自分としては)観劇強化月間ですが、その第2弾!
今回お伺いしたのは演劇企画ハッピー圏外、記念すべき第20回公演「今はただ遠くからありふれた歌を‐」です。

何度かお伺いしているハッピー圏外さんですが、個人的には昨年5月以来。
ライトノベル作家でもある内堀優一氏の脚本、演出が非常に独創的で楽しませてくれる劇団です。
今回もその期待に違わず、面白い作品を拝見出来ましたが、実は今回の作品は8年前の再演。
舞台が近未来を取り扱っているのですが、8年前の初演の時になんとなく起こりそうな未来を盛り込んだ結果、意外と笑えない事態になったとの事。
(舞台公演のパンフレットにおける内堀氏のあいさつの文面より)

そんな笑えない部分を大幅改変して臨んだ今回。
会場はいつもお馴染みの下落合……ではなく、池袋シアターグリーン・BASE THEATER。
本作品が「第26回池袋演劇祭」に参加している都合上で、ホームともいえる下落合では無かったのですが、これが一番の違和感だったかもしれない(笑)
(個人的にはシアターグリーンはお馴染みの会場なのですけどね)\

こうしていつもとちょっと違う雰囲気の中、開演直前になり、主宰・内堀優一氏の前説を経て本編開始となります。
既に公演も終了しているのでネタバレ有りモードで簡単なあらすじを紹介します。


舞台は2042年、神奈川県川崎市。
2031年にインターネット上に発現したWEB人格の反乱により、人類がインターネットを使える状況が制限された。
そして日本は各都道府県が独立行政を行い、都道府県間での戦争が行われる時代となっていた。

そんな中……50年前、当時は不治の病で治療法が確立されず、やむなく人工冬眠(コールドスリープ)で眠った少女・純(彩島りあな・以下敬称略)は、長い時を経て目を覚ました。
彼女の前に現れたのは、年老いた幼馴染の篤志(出村貴)と敏明(矢野平祐)だった。
状況がすぐには飲み込めない純だったが、徐々にその現実を受け入れようとする……。

そんな純と篤志、敏明には幼い日に交わした約束があった。
その約束のうち一つが、当時彼女が好きだったロボットアニメ「バルバロッサ」を実際に作って動いているところを見せるというものだった。
板金工場を営む篤志と、技術屋となった敏明、そして瓦屋の山下(地曳宏之)と協力して、なんと二足歩行のロボットを実際に作っていたのだ。
作成途中のバルバロッサを見て感動する純だったが、しかし交わした約束を思い出せなかった……。

主治医の鴨ヶ崎(塚本茉莉子)によると、当時の人工冬眠の技術による影響で、人間の記憶をつかさどる箇所に影響が出たかもしれないとの見解だった。
そのため脳の手術が必要になった純だが、成功率は非常に低いという現実に篤志は打ちひしがれるのだった……。

一方、篤志たちの作っているロボットを巡り、周囲の動きも慌しくなっていく……。
横浜軍の大石(内堀優一)は、警察官の長尾(高木順巨)に篤志の工場に探りを入れるよう依頼する。
表向きは兵器として製造が禁止されている二足歩行ロボットの接収を警察に動いてもらう事だったが、真の目的は別にあった……。
長尾は利用されている事に気づきつつも、娘・美樹(中島美月)の東京転院の条件を引き換えに、篤志の工場へ向かうのだった……。

そして長尾はロボットを見つける。
しかし篤志たちの想いに触れ、大いに揺れた。

……そんな中、純と美樹が何者かに連れ去られた……。

ロボットは一体誰の手に渡るのか?
幼い日に交わした純、篤志、敏明の約束は果たされるのか?
そして純たちに待ち受けている結末は?

……物語の最後……「今はただ遠くからありふれた歌をー」……その意味を知る事になる……。


ざっくりあらすじを書きました。
ただこうして見ると、まだ書き足りない部分はありますが、それをするともう大筋になってしまいますので(笑)

物語のテーマは「約束」

50年という時を経て、目覚めた大切な幼馴染のために、二人の初老の男たちが中心になって、危険を冒してまで約束を果たそうとする訳です。

片や障害として、ロボットを奪うために対抗する集団……それがこの時代の軍であったり、法律だったりする訳です。
その障害すらも乗り越えて、一人の少女との約束を果たすために、二人の男たちが中心となって立ち向かっていく……。
しかも当の本人は約束を思い出せないにも関わらず……もうこれだけで胸が熱いです。

物語そのものの設定についてはかなり荒唐無稽ですが、物語の本筋は王道です。
だから突拍子もない設定にも関わらず、アレルギー反応を起こす事なく受け入れる事が出来るのかもしれません。
もっともハッピー圏外さんは以前から、このような物語を作らせたら右に出る者がいないくらい秀逸です。
今回も瓦屋がN○SAから発注がくるくらい優秀な瓦を作るという設定で、しかもその設定が後半、ロボットの外装として役に立つという活躍っぷりです(笑)

また物語の舞台を近未来の日本にしたのも実に素晴らしいと思います。
知っている地名が多いと安心するし、我々客層にとっては妙な親近感が沸いてきて、自分たちとしても物語に入り込みやすいです。
実際、今回の物語を架空の国同士の話にしても、物語は成立したと思いますが、恐らく世界観としてイメージがすぐに沸きにくいです。

「2042年の神奈川県は千葉県と交戦状態。
千葉県は東京の傘下に入る事で、協力を得る事に成功。
一方、神奈川と戦争していた埼玉は、川越で内戦が起こって対応に追われている」

これだけで納得してしまいますもん(笑)
神奈川と千葉(+東京)で湾岸戦争しているのが、良く分かります(笑)
物語終盤は神奈川と東京の県境である多摩川で、神奈川と東京・千葉連合軍が対峙している構図もあったし(笑)
こうした世界観を前半はギャグの要素もふんだんに盛り込み、この世界を「今」を知ってもらう努力も実に丁寧に描かれています。

この点は内堀氏のライトノベル作家としての手腕が大いに発揮されている点であり、また大きな特徴だと思います。
人工冬眠という技術が確立されている一方で、近未来の人たちが今の我々よりも不便かつアナログな生活なのかも、矛盾が無いように描かれていて秀逸でした。
唯一、個人的に残念だったのは、横浜軍に大石がいた事でしょうか(笑)
千葉県出身の自分としては、大石は千葉軍でいて欲しかった(笑)

物語に関してはほぼ完璧だし、破綻を起こしていない。
しかし一方、舞台効果はやや残念。
物語の場面、場面を切り替えるのに暗転に頼りすぎていたところはもう少しどうにかならないだろうか。
またこの劇団特有の集団でのパフォーマンスが無かったのも、やや残念なところか。
だけど限られたスペースの中で、出演者の立ち位置が激しく入れ替わる、臨場感を表現した後半から終盤の一連のシーンは見事!
最後、ロボット操縦者となった源次郎(中川敏伸)が白旗を振り叫ぶ、この一連のシーンを締めた場面は今回の舞台、屈指のハイライトと言って過言では無い!

上演時間は約2時間。
前半のコミカルなパートと、後半の息をつかせない展開のバランスが非常に良く、観ている側を飽きさせない展開が最高でした。


さて気になった出演者でも……。

まずはおっさんコンビ(爆)篤志を演じた出村貴氏と、敏明を演じた矢野平祐氏だろう。
還暦を迎えたであろう初老の、だけどどこか熱いおっさんを見事に演じていたと思います。
しかし出村氏を最初に拝見した時は血吸いコウモリだったのに……(笑)でもコミカルな役では観れない深みのある演技が良かったです。
矢野氏が(いい意味で)暑苦しい演技をするのは、存じていたのでそこまで驚きはありませんでしたが期待に違わぬ演技を拝見できてよかったです。
ラストシーン、二人並んで野太い声で歌う姿……カッコよすぎでした。

続いて長尾を演じた高木順巨氏。
娘を想いながらも不器用な父親としての面が良く出ていたと思います。
娘のためを思うがあまり、警察官としてのポリシーに反して、軍の調査に手を貸してしまうあたりの苦悩なども良く演じていました。
世の中のお父さんならば、彼の立ち位置に共感できる方が多かったのではないでしょうか?
ただし私は父親じゃないですが(笑)

体力的に頑張ったといえば、源次郎の中川敏伸氏。
最初はロボットの設計図を盗むための他企業のスパイとして潜り込んだものの、通風孔から入って出られないため、物語前半はずーっと寝そべったまま(笑)
物語後半、成り行き上ロボットの操縦者としてコックピットに乗り込んだ後は、誰が見ても疲れるであろう動きの連続(笑)
(細かいツッコミをしてしまうと、ロボットの動く構造としておかしいだろうと……)
物語終盤で登場人物の後日談を語る大切な役割も担った源次郎。ネタキャラだったけど妙なインパクトが残りました。

印象と言えば山田を演じた大串潤也氏と、麻木を演じた安野由記子嬢も忘れられない。
山田は鴨ヶ崎の病院に勤める看護師、麻木は篤志の会社の事務員で前半はコミカルな役回りでした。
……が実は山田は横浜軍、麻木は千葉軍の軍人だった……という事で、後半ではこれまでのコミカルな役回りから、ギアチェンジしたようにシリアスな役回りに回ります。
この落差が激しい役どころは、一つの舞台で二役演じているようなものだし、演じている側は大変だったように思います。
それでもこの二人が物語に介入してくるあたりから話が締まってくるので、非常に重要な役どころでした。

そして……ヒロインである純を演じた彩島りあな嬢。
以前からハッピー圏外に出演している子役とお馴染みの彼女ですが、今回はこれまで拝見した中で一番出演シーンも、台詞量も多かったんじゃないでしょうか。
もちろんかわいらしいんだけど、周囲の年長の役者顔負けの演技の数々に引き込まれました。
一方で彼女に対して、もう少し上手くなって欲しいなぁ……と思う箇所もあったりします。
今のところ子役というアドバンテージで演技をしている面もありますが、歳を重ねるごとにハードルは上がってくると思います。
その期待に応えられるような女優になって欲しいと願っていますし、またハッピー圏外さんとしては彼女を成長させるための環境を整える責任もあるでしょう。
どうか彼女がこれから先、女優のカテゴリに進むのであれば、順調に成長して欲しい。そう願って止みません。

最後にお目当てで拝見した浅野泰徳氏。
彼は毎回、この劇団に出演する時はかなり変な役どころを与えられるのですが(笑)今回はロボット(笑)
ただ物語のキーマンになった巨大ロボットではなく、炊事用人型ロボットという役どころ。
役名は「7C型マルチパーパスコンテナ」通称:マルさん(笑)
ロボットだけど前半はいつもの浅野節全開のただの人(笑)相変わらず内堀氏の脚本にかかるとこの手の役が多い(笑)
だけど後半は大活躍。実はこのマルさんがインターネットの世界を支配したWEB人格のオリジナルで、WEB人格がマルさんの人格を欲しがっているという設定。
インターネットを利用して純たちを救うために、インターネットに潜り込んで活躍するが、最後は人格がインターネットの世界に引っぱられてしまい機能停止するという最期を遂げる……。
後半のインターネットを操っている時の迫真の演技は、役者・浅野泰徳氏の真骨頂そのもの。
終盤になるにつれ虚ろになりつつある表情も、目に見えないインターネットの世界での激しい攻防を見事に演じていました。
ジャンベルでは観れない、役者としての浅野氏。今回も存分に堪能しました。


そんな訳で久々のハッピー圏外さん。
今回も期待通り楽しませてもらいました。

しかも次回公演が既に11月に決定!
次回は下落合に戻るようですが、スパンが短いけど大丈夫なのでしょうか?

でも内堀氏の脚本力ならどうにかなると思いますし信じています
時間さえ合えば拝見したいと思います。

ただ大石という名の人物を出すなら、次回は千葉県民でお願いします(笑)

・演劇企画ハッピー圏外・公式サイト↓
http://happykengaiofficial.web.fc2.com/index.html