毎日新聞のミスリード:福生病院 透析中止の件について | Dr.Hisacchi:誰もがわかりやすく健康・予防・医療を理解する事ができるブログ

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2019年3月7日、ネット上に次の記事が発信された。

『医師が「死」の選択肢提示 透析中止、患者死亡 東京の公立病院』:毎日新聞

そして、翌3月8日の毎日新聞では一面でこの記事を紹介している。

  

  

この記事は瞬く間にSNSで拡がり、ネット上でも様々なコメントが寄せられた。

  

ところが私のFacebook上では、医師であるFBFたちのほとんどが、当初この記事に関してスルーしていた。なぜスルーしたのか?、最初の毎日新聞の発信ではあまりにも情報が少な過ぎるからと思われた。

「透析中止=死」を意味する、それは医師はもちろんの事、医師でなくてもわかるであろう。ではそうなる事がわかっていて、なぜ担当医師は透析中止を容認したのか?⇒これに関して毎日新聞は全く触れておらず、むしろ医師がこの女性を死に追いやったようなまるで「殺人医師」であるかの報道をしている。

毎日新聞の記事は、情報が少な過ぎるのである。

  

  

このブログをご覧になっている一般の方々のために、基本中の基本から説明に入る。

  

人間を含めた動物の身体は、体内に不要なものや過剰なものが溜まると、体外に排出する機能を持っている。その99%が便か尿として排出される。

ちなみに「汗をかいてデトックス」などと発信する記事を時々見かけるが、汗からの排出は1%にも満たない。「デトックス」という非医学用語を使った記事を見かけたら、怪しいと思うべきだ。

  

体内の不要なもの・過剰なものの中で、腎臓を介して尿から多く出るものの代表として「水」がある。水をたくさん飲むと尿の回数が多くなる。逆に夏などに熱中症気味の時は、尿が少なくなる。また生きていく上で必要とする「カリウム(K)」も体内に多すぎると危険な不整脈を起こす事があり、やはり尿から多く排出される。

人間を含めた動物の身体は、このように常に元の状態に体内を維持するようにできている。これを医学的には「ホメオスタシス(恒常性)」という。

  

  

ところが、腎臓が正常の機能ができない状態になると、不要なもの・過剰なものが排出できなくなり、生命に危機が及ぶ事がある。これを「腎不全」と言う。

「腎不全」の代表的な基礎疾患としては、「糖尿病性腎症」が約4割を占める(次いで、慢性腎炎、腎硬化症の順)。いよいよ尿が出なくなると、それに対応する治療が必要になる。それが「透析」治療である。

  

尚、毎日新聞やテレビなどで、透析をしている患者は「終末期ではない」とする報道があったが、これは大きな間違いである。

「慢性腎不全」の事を、医学的には「末期腎不全」とも言う。末期腎不全は、放置すると尿毒症となり確実に死に至る状態、そこで透析治療による「対症療法」を行なって、生命を維持し続けるのである。

ちなみに腎移植のような「根本治療」は、日本において簡単に順番が回ってくるわけではないので、「慢性腎不全=末期腎不全」の大半の患者は、生涯人工透析に頼るしかないのである。

  

  

さてこの人工透析は、上の画像のように2種類に分けられる。

更に「血液透析」は、手技的には3つに分けられる。これからその説明をする。

  

  

#血液透析:シャント

通常、一般的に言われている「人工透析」とは、これを意味する。

利き腕とは反対側の前腕の手のひら側で、局所麻酔をして動脈と静脈を吻合して「シャント」というものを作る。シャント血管が機能できたなら、週3回(1回の透析時間は数時間)の人工透析が始まる(上の画像を参照)。

その方法は、シャントの血管に我々が点滴する時よりも太い針を毎回2本刺され、体外に血液を出して、不要物を回収し、体内に血液を戻すのである。

  

しかし、この太い針を刺される時は、手のひら側でもありとても痛く、また透析が終わった後も非常に疲れるのである。

  

  

#血液透析:グラフト

腎不全の人は、腎臓が悪いだけでなく、全身の動脈硬化を合併している事が多く、血管が非常に細くてもろく、シャントした血管が何年かすると使い物にならなくなる事がある。またシャント自体を作成できない患者もいる。

この場合次なる手段として、人工血管を動脈と静脈に繋ぐ事がある(上の画像を参照 )。

  

皮膚の下に人工血管が入るので、皮膚の表面はミミズのように膨らんだ状態になる。

  

ところが・・・

  

  

#血液透析:長期留置カテーテル

繰り返すが、人工透析が必要な患者は血管が非常に弱く、人工血管すら繋ぐ事ができない場合もある。

いよいよ最終手段として、上の画像のように主に首の右側にある静脈にカテーテルを入れて、これを使って血液透析をする場合がある。

  

「長期留置カテーテル」と書いたが、救急医療の現場でも、慢性腎不全がなくても緊急的に透析が必要な患者の場合、カテーテルを入れて透析をする事がある。ただしあくまでも一時的な透析である。

このようなカテーテルは、皮膚の外に留置するので感染しやすい。にもかかわらず、慢性腎不全の患者では、どうしてもこのようなカテーテルが必要な状態の人もいる。このカテーテルがあると、患者の立場からすると街中を歩くときは、夏場でもスカーフなどで隠す事であろう。また温泉にも行きにくいだろうし、自宅で髪を洗う時は、カテーテルが濡れないようにしなければならない。

  

  

#腹膜透析

お腹の中に局所麻酔でカテーテルを入れて、ここから透析液を入れて、一定時間お腹の中に入れっぱなしにしてから、体外に排出させる方法(上の画像を参照)。

ただ、これも体外にカテーテルがある以上、感染して腹膜炎を起こす事がある。

ちなみにこの腹膜透析を、緊急的な透析で使われる事はまずない。

  

  

「腎不全」という状態だけで、感染に対する抵抗力が低く、また日常生活も一生食事制限や水分制限を強いられるのである。他にも糖尿病、高血圧、動脈硬化、高尿酸血症、便秘などを合併するため、毎日の内服薬も非常に多くなる。

人工透析を行なっている患者の苦しみは、家族内に患者がいない者にはまずわからないであろう。

  

基本の話は以上で終わる。

  

  

さて今回の福生病院だが、腎センターの手術実績を調べた医師がいた。

・シャント:22例

・グラフト:9例

・長期留置カテーテル:29例

  

この「長期留置カテーテル」の件数は尋常ではない。

ちなみに私は約30年医師をやってきたが、「長期留置カテーテル」の腎不全の患者を1人も見た事がない。

  

ここから想像するに、この福生病院は近隣から通常の透析困難の患者が集まっているのではないかと予想される。医師の立場からすると、感染しやすい「長期留置カテーテル」などで透析を行ないたくない。管理する側も大変なのである。

また、2013~2017年の間に「透析行なわず20人死亡」との報道があった。確かにこの数値も多いが、これもおそらく同様の理由が考えられる。通常の透析が困難な患者がたくさん集まり、患者と家族と話し合って、双方が同意を得た上で同意書を作成して、透析をしなかったものと推測される。

ちなみにその20人の家族から裁判を起こしたというニュースなどない。また福生病院側の説明が気に入らなければ、他院へ紹介してもらえばいいだけの事。

  

  

今回のマスコミの報道で気になった言葉が「ガイドライン(指針)」であった。マスコミは何度も「ガイドライン」と繰り返している。

  

「ガイドライン」とは、たくさんの症例に基づき、その病気に対しどのような対応が適切かを示したものである。すなわち「ガイドライン」と「エビデンス」は、ほとんど同義語と考えてよい。

  

だが「ガイドライン=エビデンス」は、せいぜい70%ほどの患者を対象としたものである。残り約30%はここに当てはまらない。私は原則として、エビデンスを重んじるようにしているが、この30%を個々に対応にあたる事も、医師としての役目と考えている。

  

そして「ガイドライン」には法的拘束力などない。

厚労省委託事業であるmindsガイドラインライブラリから抜粋する。

  ↓↓

~~診療ガイドラインは、科学的根拠に基づき、系統的な手法により作成された推奨を含む文章です。患者と医療者を支援する目的で作成されており、臨床現場における意思決定の際に、判断材料の一つとして利用することがあります。 診療ガイドラインは、医療者の経験を否定するものではありません。またガイドラインに示されるのは一般的な診療方法であるため、必ずしも個々の患者の状況に当てはまるとは限りません。使用にあたっては、上記の点を十分に注意してください。臨床現場においての最終的な判断は、患者と主治医が協働して行わなければならないことをご理解ください。~~

   

明らかにマスコミは「ガイドライン」に対する認識が間違えている。

また日本透析医会の宍戸寛治医師は、「一律的な非導入は自殺へと誘導しかねない」と指摘しているが、この病院は一律的に非導入なんてしていない。

大体にしてこのようなケースが起こり得る事は、透析患者を対応している医師なら知っているはずだが、今回のように「ガイドラインがどうのこうの・・・」と言われる事自体、ガイドラインに不備がある。

  

他の医師からの報告によると、実は日本透析医会は透析医療で収入を得ている既得権益団体であり、透析医療を推進する立場からガイドラインを作成しており、透析中止はガイドラインに反していて当然である。このような団体が、福生病院に監査介入する事は利益相反行為になり、全く無意味である。そもそも学会が立ち入り調査する権限などない!!

  

  

さて、ここが問題!!

毎日新聞の最初の報道は肝心な事が抜けていた。

  

女性は一度「透析を再開したい」と申し出た。ところが医師はそれを拒否したような書き方だったが、その後の報道で実は続きがあった。

医師は女性を薬で落ち着かせ、再度女性と話したところ、女性は透析再開を希望しなかったのであった。つまり、医師は女性の尊厳死を尊重したのである。

  

ところが毎日新聞は、この肝心の部分を抜かして報道するだけでなく、上の画像のように最後のLINEを用意して、一般人の涙を誘って記事に誘導しているのである。私はこのLINE画像を見た時、マスコミのこの手法、過去にも同様の手口で医師・病院批判をする典型的なパターンだなあと思って、最初から毎日新聞の記事を疑ってかかっていた。記事には、絶対に抜け落ちている事実があるはずだと。

毎日新聞は、過去にも奈良県の産科医療を崩壊させた事がある。今回の件、明らかに毎日新聞のミスリードである。また続報の記事でも、抜け落ちている部分に関しては、一切触れていない!!

  

またこういう記事になると、「医療ジャーナリスト」たちがそろって批判の材料にする。

代表的な表現として「密室医療」・・・では密室ではない医療って何?、医師からの説明を本人・家族・家族が許可した人以外に、全くの赤の他人を入れて個人情報を一緒に聞くべきなのか?

「医療ジャーナリスト」は現場を知ったかぶりして実は知らないのだが、医療批判を繰り返す事で、飯を食っている職種である。「医療ジャーナリスト」ほど無意味な職種はない。

  

尚、テレビでは度々透析クリニック医師が出演している。実はテレビに出演する医師には、あらかじめ局が台本を用意している場合があり、これを読むように言われる事もある。これに納得がいかない医師が怒って帰ったという話は、業界では耳にする。

また、今回の場合、福生病院をかばうようなコメントをすれば、マスコミの誘導する報道を鵜呑みにする視聴者からクリニックに抗議の電話が殺到するから、本音を言えないはずである。

尚、透析クリニックの中には、まだ透析しなくてもいい患者を早めに透析開始させて、収益を上げようとする医師がいる。福生病院とは正反対の営利目的な対応である。

  

ちなみに、ネット上の少なくとも9割以上の一般人は、毎日新聞の報道に懐疑的・批判的であった。マスコミは、医療機関側を叩けばアクセスが増えるであろうという考えを捨てるべきだ。プロは騙されないだけでなく、今や一般人も騙されない。

  

  

さて、こういう場合、病院側は『このたびは、うんたらかんたら・・・で申し訳ありませんでした』などと、必死に騒ぎを鎮める場合が多い。

  

ところが福生病院院長は誠実な対応をしている。次からの画像は、必ずご覧いただきたい。画像には『終末期以外・・・』とある。繰り返すが、「慢性腎不全=末期腎不全」であって、『終末期』である。

この院長の返答、私は100%支持する。

  

  

まさにこの通りである。

私が書きたかった事をそのまま院長が返答している。

  

がん治療で抗がん剤拒否はできても、透析が必要な患者は透析拒否してはいけないのか?

食事が全くとれない寝たきりの高齢者に、絶対に胃ろうを入れないとならないのか?

重症な肺炎で救急搬送される患者は珍しくないのだが、人工呼吸器を必ず装着しないといけないのか?

これらはいずれも「命の選別」だから、いちいち倫理委員会にかけなければならないのか?・・・福生病院院長の返答のように、これらは全て「普通の医療の一環」である。透析拒否だけが特別ではない。

  

また年齢だけで、治療の選択を決定してはならない。今回の女性は年齢は若くても、血管年齢は高齢者と変わりなく、透析をしたとしても数年しか生きられないと予想されている。実際、女性は自らの尊厳死を達成したわけである。

夫が悔やんでいるのは、きっと本人との話し合いが足りなかったのか?、または透析中止の同意書に立ち会っていなかった親戚から横やりを入れてきた可能性がある。あるいは毎日新聞が、夫から無理矢理都合がいいように聞き出したのかもしれない。

  

毎日新聞の今回の報道は、最初から記事にする必要などなく、売れない新聞がアクセスを増やそうとした目的である事がミエミエである。正義の件を振りかざしたつもりで、実は単なるペンによる言葉の暴力である。

これは医療ミスでもなければ、警察沙汰の事件でもない。若い女性の尊厳死を医師が尊重した。これを毎日新聞が中途半端に報道し、かつ「お涙頂戴」のLINE画像で一般人の同情を誘っただけの悪質以外の何物でもない。

さらには、「延命治療=善」で「尊厳死=悪」という報道にもなってしまった。

  

苦しい思いをしてまで長く生きる事だけが全てではない。治療をしないという選択も、その人の生きる道である。

今回の件をきっかけに、ご家族の間で人生の終末期をどう迎えるのかを話す(アドバンス・ケア・プランニング:ACP)きっかけになってほしいと私は思う。

  

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