2018年10月24日、タイトルのような見出しで、医療事故に関する記事が発信されました。内容を一部抜粋します。
皆さんは、記事を読んでどう思ったでしょうか?
バランスボールってこわ~い!というのが第一印象でしたか?
ここから先は私個人の考えです。
尚、私の本職は救急医であって、産婦人科医ではない事をお断りしておきます。また、記事以上の情報がない状態で推測しながら意見します。
そもそも妊婦さんに、バランスボールをどのように使用させると思いますか?
冒頭の画像のように、上に座って体幹を整えるような事をさせると思いますか?。妊婦さんには、上の画像のようにバランスボールを抱きかかえるように使うのです。これは記事にも書いてあるのですが、この部分をすっ飛ばして読んでいる人が多いでしょうね。
私は男だからわかりませんが、この体制の方が楽という妊婦さんもおられますし、陣痛症状の緩和に有効だからこそ、一部の産婦人科医ではバランスボールを使用しております。
そしてこの体制から横に転んだとして、子宮が破裂すると思いますか?
いいえ、子宮はそんなヤワではありません。バランスボールが原因ではなく、おそらく別の原因で先に子宮が破裂したから、痛みで体制を崩したのだと思われます。第三者機関もバランスボールが原因とは断定していません。
陣痛の最中に子宮が破裂するとしたら、原因は陣痛促進剤の過量投与が考えられます。現場の状況が詳しく報道されていないので、全て推測に過ぎませんが、ここの産婦人科医師が通常の使用量以上に陣痛促進剤を使用していたならば、もちろん過失と言うべきです。
だが、もしも通常使用量だとしたら、裁判の争点の1つになるでしょう。
ただし、手術でガーゼを置き忘れ・・・これは明らかに病院側に問題あり、病院側敗訴でしょう。おそらくここは病院側も非を認めていると思います。
このような医療訴訟の背景には、医師側と患者側のコミュニケーションはきちんと取れていたのか?という事があります。
医療というのは、時に予想だにしない事が起きます。それでも医師と患者側との信頼があれば、大きなトラブルへと発展しないものです。
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今回の記事は、内容があまりにも一方的に思えました。
『突然、使うように指示』・・・最初からバランスボールを悪と決めつけているように思えます。この記事によって、今までバランスボールを使っていた産婦人科病院はなくなる事でしょう。
『片方の腕に点滴がつながれたうえ』・・・当たり前です。予期せぬ大量出血に備え、点滴をして当然ですし、そもそも、バランスボールを抱きかかえるのに邪魔ではありません。記事を書いたマスコミは、過去に点滴をした経験がないのでしょうか?。少々煩わしさはありますが、点滴しながらでもトイレを済ませる事も可能です。まるで点滴を手錠に繋がれているかのような書き方です。
そもそも・・・
日本において、分娩・出産って絶対に安全だと思っていませんか?
どんなに医療水準・技術が向上しても、どうしても一定の割合でトラブルが起きるのです(もちろんリピーター医師は問題外ですが)。仮に陣痛促進剤を適正量使用していたとしても、今回のような「子宮破裂」が絶対に起きないというわけではないのです。尚、統計的に子宮破裂の頻度は0.1~0.5%未満と非常に低い合併症です。
ただし、この可能性を事前に説明がなかったとしたら、裁判の争点にはなると思います。ガーゼの置き忘れに関しては、原告側は勝訴になるでしょう。しかし、他の件に関しては、仮に原告側が勝訴したとしても、賠償金額は大幅に少ないと思われます。ちなみに原告側は、バランスボールを使用しないで子宮破裂が発生したとしたら訴えないのでしょうか?
マスコミの一方的な発信を、全て鵜呑みにしないでください。一般的には世間は弱者の味方をしがちで、記事もそのような書き方をするものですが、私からすると悪質と思える記事でした。
繰り返しますが、分娩・出産は絶対に安全であるとも思わないようにしてください。「生まれる」という事は、当たり前ではなく命がけでもあるのです。