今回のブログは少々専門的な話が必要になってしまう。
その日、当地は午前中曇り、午後から雨が降るという天気予報であった。
交通事故にて、75歳の男性が救急搬送された。体表面を見て、明らかに重症な状態である事が判断できた。
私は搬送してきた救急隊に尋ねた。
『今、雨は降ってる?』
・・・その場に居た救急隊やナースたちは、重症な患者を目の前に、何をのんびりした事を聞いているのか?と思った事だろう。
AM11:30 75歳の男性がバイク走行中、信号のない交差点で、横から来た車にはねられ当院救急搬送。
逆行性健忘(事故前後の記憶がない事)あり、全身の打撲、特に腰の強い痛みを訴えていた。
服をまくり上げて腰を観察すると、尾てい骨付近の皮膚がボコッと膨らんでおり、明らかに皮膚の下で多量に出血していると判断できた。救急隊の観察では、事故現場で接触した時より、皮膚の膨隆は大きくなっているとの事。
血圧は最初200mmHg台あったが、その後130mmHg台まで低下、頻回に生あくびをしていた。「生あくび」は血圧が下がっていて、脳の血流が低下した状態が推測される危険な兆候である。血圧低下により、明らかに出血が続いていると判断できた。
点滴ルートを2ヶ所確保し急速輸液開始、ヨード造影剤を使ったCT検査を行なう事とした。
ヨード造影剤は、CT検査上、血管を白く映すため、画像がより鮮明になる。ただ、造影剤は腎臓から尿として排泄されるため、通常は血液検査で腎機能を確認し、さらに何万人かに1人がアナフィラキシーを起こす事があるので、患者側の同意書にサインを頂いてから行なうものである。
だが、時は待ってくれない。
血液検査結果が出るまでに、どんなに急いでも最低30分はかかる。そんなに悠長にしていられる状態ではなく、また家族が来院して同意書にサインしてもらう時間的余裕などない。その2つを省いて造影CT検査を行なった。
骨は元々白く、CTでも白く映る。
仰向けに寝た状態なので、真ん中の下側に腰の骨(腰椎)がある。腰椎から左右に骨盤がある。
そしてオレンジ線で示したが、腰椎の背中側の本来存在しない部分に、内出血(皮下血種)があり、さらにその中に白く映っている部分がある(☝で示す)。これが現在進行形で出血している動脈である。尚、この付近の腰椎や骨盤には骨折を認めなかった。
この出血を止めるためには、血管造影を行なって、出血している動脈に詰め物を行なって止血する治療が必要である(動脈塞栓術:TAE)。
これは二次救急である当院では行なう事ができず、大学病院の救急センターに転送して行なう必要がある。
だが当院から大学病院までは、救急車でサイレンを鳴らしても30分はかかる。そこで『厚かましいお願いですが、ドクターヘリでお迎えに来てほしいのですが』と大学側にお願いした。
ドクターヘリは天候が悪い時や日没は、安全性が確保できないため飛ぶ事ができない。冒頭で救急隊に外の天気を聞いたのは、ドクターヘリをお願いしようと考えていたからだ。
その後、点滴による急速輸液で血圧は下げ止まりになって安定した。
私がドクターヘリを要請すると決めた事で、ナースたちも急いで院内の手続きに入る。院内放送の要請、D-MATカーの手配など。院内には『当院ヘリポートにドクターヘリが到着します。お手数ですが、駐車場側の窓は閉めてください。』と放送がある。
ドクターヘリのフライトドクターとフライトナースにERで状況を説明し、患者さんは転送となって、ようやくスタッフ全員の緊張の糸が解けた。後日、治療は無事に成功したとの連絡が入った。
#骨折のない軟部組織損傷による出血性ショック
~そもそも骨折がないのに、なぜ腰の打撲だけで皮膚の下で内出血が続いていたのか?
① 高齢者は筋肉が少なく、若い人と違って筋肉や脂肪による圧迫で血を止める事ができない場合があります。また皮下脂肪もクッション代わりになりますが、やせ型の人はクッションとはなりません。
② この患者さんは抗血小板剤(血液をさらさらにする薬)を飲んでいたので、血が止まりにくい傾向にありました。
③ 動脈硬化があるため、動脈の壁がもろいと推測されました。
皆さんにご忠告申し上げます。
筋肉はとても大切です。もしかしたら、あなたの命を助けてくれるかもしれません。運動の開始は早ければ早い程いいのです。
また適度に体脂肪も必要です。多過ぎても少な過ぎてもいけません。
やらない言い訳ばかりを一生懸命考えないで、定期的な運動習慣を心がけましょう。
筋肉は裏切らない!!
最後に余談だが・・・
館内放送では、ミスチルの「HANABI」は流れなかった♪♪
またフライトドクターとフライトナースはどちらも女性だったが、マスクをしていたため、新垣結衣や比嘉愛未に似ていたかは確かめる事ができなかった。
・・・そんな場合じゃねえだろう((+_+))