盲腸(虫垂)は不必要?、虫垂切除をすると癌になるの? | 総合診療医:誰もがわかりやすく医療を理解する事ができるブログ

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よく「盲腸の手術をした」と言われる時の盲腸ですが、医学的には「虫垂」のことを指しています。
  
虫垂とは大腸の入口の部分の名称である盲腸の先端に付いている細く小さな器官であり、ここが炎症を起こすと「虫垂炎」、一般的に「盲腸になった」と呼ばれる状態になります。
  

  

  
#急性虫垂炎の症状
虫垂の場所が臍の右斜め下にあるため、「右下腹部痛」を症状として認めます。
ただし、初期の症状は必ずしも「右下腹部痛」ではなく「胃の痛み」を訴える場合があり、その後「胃痛→右下腹部痛」に訴えが変わる場合があります。

胃痛を訴える場合があるのは、脊髄を通る痛みのルートがどちらも同じだからです。
他には吐き気・嘔吐や発熱(多くは37度台)が出現する事があります。
  
#検査
診察上、多くはまず右下腹部を手で押すと、通常の腹痛の際に手で押すより強い痛みを認めここでまず虫垂炎を念頭に入れます。
検査は腹部超音波検査やCT検査で診断がほぼ確定します。
尚、急性虫垂炎の場合は大人では「大腸憩室炎」という病気と鑑別が必要になります(小児では他に鑑別が必要な病気もあります)。
  
#治療
虫垂の炎症の程度にもよりますが、炎症が軽ければ抗生剤による治療、昔の表現で言うと「盲腸を散らす」事が行なわれます。
診察上や画像検査上、炎症が強かったり繰り返す場合、あるいは穿孔(穴があいている)の場合は、手術で虫垂切除術(+ドレナージ)が行なわれます。
  
「急性虫垂炎」は決して珍しい病気ではなく、子供に多いですが大人でもよく発症します。ちなみに私も14歳の時に、「虫垂切除術」を受けました。
  

  
ところでこの「虫垂」ですが、医学界では長年、他の動物と違って虫垂は不必要なものとされ、また激しい痛みを伴う炎症を起こす事があるため、早期の摘出が必要であることのみ注目されてきました。
  
よってCT検査がまだ普及していなかった時代まで遡ると、診察のみで虫垂炎と診断されればほとんど「虫垂切除術」が行なわれてきました。
手術が行なわれた中には、「大腸憩室炎」も多数あったのですが、とにかく虫垂は取ってしまう不要な物という時代でした。
  
ところがフランスのデータでは20年前に比べると、虫垂切除術の件数が30万件から8.3万件に減少しました。手術をしないで抗生剤で炎症を抑える治療が増えました。日本でも手術例は減っております。
これは診断技術の向上で不必要な手術が減った事もありましたが、実は次の理由もあります。
  

 

  
~虫垂は無駄な臓器ではなかった!~
虫垂のリンパ組織が、粘膜免疫で重要な免疫グロブリン「IgA」というものを産生しており、腸内細菌叢の制御に関与している事が指摘されました。
  
ちなみに分泌型IgAは初乳中に含有され、新生児の消化管を細菌・ウイルス感染から守る働きを有しています(母子免疫)。
さらに虫垂は、胎児期には生命維持に必要なアミノ酸やペプチドホルモンを生み出して、体内環境を保ってくれます。
  
  

~虫垂切除で大腸癌が増える!?~
虫垂切除をした場合、大腸癌を発症する確率が高まるという報告が、2015年7月に発表されました。
⇒ 『
Following Appendectomy, a Higher Incidence of Cancer Suggests an Immune-Function of Appendix
  
上の論文(英文)では、14年間に虫垂切除術を受けた75000人以上の人と、受けていない300000人を比較しました。
その結果、虫垂切除術を受けた人では、大腸癌になる可能性が14%高い事が判明しました。
  

  
では、虫垂は絶対に切除してはいけないのでしょうか?
それは違います!!
  
手術が必要な虫垂炎を放置して、腹膜炎にでもなったら生命に影響を及ぼす場合もあるので、手術が必要な場合は受けるべきです。
手術を受けた75000人は、あくまで「生きている」人が対象です。腹膜炎などを併発して亡くなった人は含まれておりません。

炎症を起こした虫垂は、もはや免疫機能の役割など果たす事はできません。
  

  
これまで何度も投稿してきましたが、腸には免疫細胞の約70%がある事はご存じと思われます。
ただし虫垂切除をしたからと言って、免疫力が極端に落ちるわけではありません。虫垂がなくても元気な人、逆に虫垂があっても病気がちな人など様々です。また「IgA」は他の部位でも産生され、虫垂の代わりを担ってくれます。
  
そもそも「14%増加」・・・つまり、1.14倍大腸癌になる可能性が高まるだけです。
極端に確率が上がるわけではありませんので。
  

  
最近は極論的なタイトルや内容で予告するNHK「ガッテン」でも、「虫垂」に関して放送がありました。
予想通り、全く薄っぺらい内容で、見る価値もありませんでした。この番組は医療系なのかバラエティなのかわからなくなりました。
  
そもそも「盲腸」と言い続ける事自体どうなのでしょうか?途中からでも正確に「虫垂」と言うべきではないでしょうか?
テレビの情報はむしろ鵜呑みにしない方がいいのです。NHKですら、視聴率稼ぎを目的としています。またテレビに出てくる有名な医師たちは、高額なビジネスを目論んでいますので。
  
「ガッテン」で取り上げたので私も書きましたが、これは本来なら医療関係者だけが知っておけばいい知識です。
一般人がここまで知る必要はありません。
  

  
上の写真は、「ガッテン」で取り上げた論文です。
この論文を調べてみました。
⇒ 『
Association between Appendectomy and Subsequent Colorectal Cancer Development: An Asian Population Study
  
「ガッテン」では大腸癌のリスクを「2倍」と放送していましたが、違いました!!!
こちらも「1.14倍」です。NHKですら、必ず正しい事を言うわけではありません。
  ⇊
論文の「Results(結果)」には次の文章があります。
The overall colorectal cancer incidence was 14% higher in the appendectomy patients than in the comparison cohort.』
    
ただし、その後の文章を読むと、虫垂切除後3.5年以内に大腸癌を発症しやすいのは事実のようです。
  
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尚、虫垂切除をした人が大腸癌になる可能性がわずか1.14倍とは言え、やや多くなる理由ですが、私は次のように考えます。
  
大人で虫垂炎になる人は、便秘傾向の人が多いです。
つまり腸内環境が決して良いとは言えない人が多いのです。腸内環境が癌や生活習慣病、更にはアレルギーや精神疾患などに影響する事は、皆さんご存知の通りです。
  
大腸癌になりにくくなるためには、気をつけなければならない事(便秘を改善するための食生活、運動など)はいくつもあります。
テレビや個人のサイトではなく、あくまで厚労省や専門機関からの発信を信じるようにしてください(私も個人としてのブログを発信していますけどね)。
  
  
こちらは5分ほどの動画です。お時間がある方はご覧ください。
今回の写真に使った動画です。

  ↓↓

人体の不思議 虫垂に意外な役割

  

~追記~

2018/3/13 プロ野球の清宮幸太郎選手が「限局性腹膜炎」と診断されました。おそらく、「急性虫垂炎」かと思われます。

鑑別疾患として、「大腸憩室炎」もあるのですが、この場合は胃の痛みから始まらずに、最初から炎症部位の痛み始まる場合が多いのです。

  

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