サラリとしたおいしい七草粥の作り方 | 近江八幡の料理人は  ~川西たけしのブログ~

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近江八幡で寿し割烹と日本料理を楽しむお店「ひさご寿し」

料理長のかわにしたけしが料理のことや、近江八幡のこと、営業日誌などを徒然なるままに書いとります。

お粥がドロドロでモタッとしていて苦手だなあ、と思っている人はいないだろうか?さらに、香りも何だか炊き立てご飯のようにかぐわしい事もなく、食欲をそそらないから嫌いだという人。

 

そうした人に是非おすすめしたいのが、サラリとしたお粥の作り方である。

 

 

永らくブログから離れていて、もっぱらインスタからの記事飛ばしばかりだったが、今後のためにおいしい七草粥の作り方(川西風)を書いておこう。

 

(講釈が多いので、作り方は下の方w)

 

 

そもそも七草粥を食べる習慣は江戸時代に時の公儀(江戸幕府)が五節供を公式に定めたことによって日本全国庶民に広がったもので、それ以前は一部の上流階級、暦によって年間行事を執り行う人々に行われていたと考えられている。はじまりはどうやら中華の魏晋南北朝末期、長江中流域の稲作地帯の風習を記した「荊楚歳時記」に 在るようだ。

 

長江中下流域は日本の米、ジャポニカ種の原産地でもあり、春秋戦国以来戦乱逃れて断続的に日本へ渡った稲作民のルーツでもある。

 

魏晋南北朝戦乱の次世代、隋唐の統一時代は日本も遣隋使・遣唐使によって多くの情報が大陸からもたらされているから、先の歳時記も輸入されたかコピペされたものを留学した者たちが持ち帰ったのが妥当なとこかと思う。しかしながら、歳時記はすでに風習としてあったものを記しているのであるから、稲作民の風習であるならばすでに大陸からの移住民だった者の風習に残っていた可能性も捨てきれない。

 

だが現在の日本では白米として食べるのが一般的主流になっている。庶民レベルではかつて玄米か雑穀米だったことからして、七草粥はやはり江戸時代になって公儀の御布令によって一般化したと考えるのが妥当だろう。また、お粥を頻繁に食べるのであれば匙が食器としてもっと食文化に浸透しているはずなのだが、あまり見受けられないことからしてもお粥は日本人にとってやはりメジャーになりえなかったのが事実である。

 

いずれにしても、現在日本ではお粥は養生食として食べることが多く、イメージは「カラダに良い」「カラダに優しい」食べ物として捉えられている。七草粥も正月の飲食で疲れた胃腸をいたわることを謳う事が多い。ドロドロになったお粥、さらに重湯(おもゆ)と呼ばれるもはやポタージュ状になった粥はたしかに固形物が少ないだけに、消化エネルギーは少なくて済む。本来の白米であれば顎で何度も咀嚼しながら、唾液に含まれる消化酵素・アミラーゼを使って米に含まれるデンプンを少しづつ分解、胃では胃酸と蠕動運動によって撹拌・分解し、やっとドロドロに持ってゆくことが出来るのだ。その体の負担を軽減できるのだから、科学的栄養学的にお粥は優れていると言える。一方で精神的な活力として食欲を引き起こすには物足りないだろう。

 

なぜならば、大抵のドロドロしたお粥の場合は香りが良くない。加えてノリ状のモッタリとして張り付くような舌触りが、歯切れのよい白米に比していつまでも口の中に残り、次のひと口への行動欲求を遅らせる。香りが良くないのは、炊き立ての時に発生する揮発性の香り成分が作り置きによって消失、またはモッタリとしたお粥の液体から揮発しにくいからと言える。炊き立てご飯にある香りは美味しんぼよろしくカルボニル化合物と言っていたが、これは京大農学部の安松克治氏が1960年代に出した論文をもとにしていると思われる。だが近年2020年になって福井大学の内村教授らのチームが新たにその成分を検出したところ、4-ビニルフェノールとインドールという二つの私たちが良い香りとして判別している成分だと発表した。

 

カルボニル化合物はいわゆる新米から古米に変わると増える成分で、日本人が一般的に美味しい香りと判別している成分ではない。まあ、リゾットや寿しなどの場合あえて古米の香りを美味しいに活用しているが。それはさておき、炊き立てのあの食欲を誘う香りは「4-ビニルフェノール」と「インドール」である。

 

「4-ビニルフェノール」は白ワインやビールに含まれ、子ども用液薬などに使用される甘い香り。洋酒好きの人ならばなんとなく察しがつくだろう、時にはスモーキーでクローブやオールスパイスのような、と言えばよいかもしれない。

 

「インドール」はびっくりするだろうがウンコの臭いである。だが非常に低濃度の場合はオレンジやジャスミンのような花の香りとなり、香水などにも利用される不思議な成分である。政所茶など無農薬栽培の場合に、茶の香気として出るのはおそらくこれだろう。

 

これら二つの成分は炊きあがりのあの「ムワッ」とあがる湯気に含まれ、すでに炊いておいたご飯からお粥を作ると出てこないか少ない。またモッタリしたお粥の場合も香り成分は揮発しにくい。

 

 

すでに胃腸が弱っている人にとって、お粥はよくできた調理法と言える。が今一歩先へ進めて、炊き立てご飯の香りのようにかぐわしい「おいしいお粥」であるならば心身ともにいたわる養生食としての完成度は高くなるだろう。

 

はい、やっと本題のサラリとしておいしいお粥の作り方はここから。

そして川西家風の七草粥。

 

ポイントは次の通り

1.生米から炊く

2.沸騰しているところに米を入れる

3.ショートパスタをゆでるような感覚で米をゆでる

4.沸かし続けてときどきかき混ぜる

5.たっぷりの水分(米の5倍)

6.ノリ状の膜はとる

 

沸騰したところへ米を投入して20分後。

たっぷりの水分を吸って膨らんだ米。

サラサラの状態で、米もほどけるような柔らかさ。

そして甘い。

 

好みで白粥の状態に塩で味付けしても良い。

 

これだけである。

 

 

さて七草。

せり、なずな、ごぎょう、はこべら、すずな、すずしろ、ほとけのざ。

最近は七草セットが売られるようになったので便利であるが、人気があるのと翌日に売り残せない事もあって1月7日当日ではすでに売りきれている事も多いと話題になっていた。

七草は栽培物がほとんどであろうが、やはり野草的に青物くさい。

そこで、きざんでお粥に直接入れるのではなく、一度かるく湯を通すと青臭さが和らぐ。

水で冷ましたものを一旦塩強めのお浸しにしておく。

 

ここで下げておいたお鏡さんを割る。

というか、7日ともなれば本物のもちであればぼちぼちカビてくるので、いったん冷蔵庫に入れておく。

 

鏡餅については過去のブログでも書いたが、お正月神事のクライマックスは実はこれである。

 

鏡餅は年神様が憑依したご神体である。その年神様の御魂(みたま)が宿ったご神体の鏡餅を割ると、御魂は餅の破片に分かれるのである。これが年神様の御魂、「お年玉」である。

 

お年玉を食べることによって、年神様と一年ともにすごすことが出来るとされる。

 

だから、「お年玉」とは本来お金やモノなのではなく、この鏡餅の破片をポチ袋に入れて子どもたちに配ってやらないといけないのである。

 

もちろん大人もであるがw

 

という事でお年玉の餅を焼いて、サラサラのお粥に乗せて醤油をひと垂らし。そして塩美味い七草のお浸しを添えて七草粥を楽しむのである。