……プルルルル…プルルルル…
いま…目が回るほど…忙しい…
制作に追われに追われ…
企画立案も…溜まっている…
電話に出るより
手を動かしたい…資料を読みたい…考えたい…
……プルルルル…プルルルル…
会社の代表電話は…
もう…決まったひとしか…かけてこないから…
どうせ…「早く創れ!」という催促の電話に決まってる…
うるさいなぁ…いま…創ってます!邪魔しないでよ!
仕方なく…ぶっきらぼうに…つっけんどんに…
電話に出た…
「……はい…」
「ひるまさん!…お久しぶりです…○○です…」
え…誰?
少し話して…ようやく…思い出した…
6年前…仕事がなくなっちゃったとき…
毎日…必死に営業して…つかんだお客さんだった…
大きな…大きな組織だから…
いくつか仕事をいただいたあと…
その方は…異動されてしまい…
もう…関わることが…なくなっていた…
「…新規のデザインの仕事を…お願いしたいんです…」
「きゃぁ…ヤダ!僕のこと…覚えていてくれたんですか…」
「もちろんです!デザインだったら…ひるまさんと…また仕事したいと思って…ご連絡しました…
…探したんですよ!事務所…移転されたんでしょ…」
「…はい…立ち退きで…でも…あなたは…確か…目黒のほうに…異動したんじゃなかったっけ?」
「はい…それからまた異動して…いま…丸の内なんです…」
「おおっ!出世しましたね!大出世ですね!」
ありがたい…
心から…ありがたい…
6年も前の…仕事を記憶してくれていたうえに…
僕が創り出したモノの価値だけを…評価してくれて…
…また…チャンスをくれる…
こういう方となら…
何度でも…お仕事をしたい…
「…あした…新しい事務所に…お伺いさせてください…」
「もちろんです!ありがとうございます!…本当に嬉しいです…」
翌日…懐かしいお顔が…
事務所を…訪ねてくれた…
「…また…ずいぶんなところに…移転されましたね…
いま…世界中から注目されている場所…じゃないですか…」
「…はい…こんな場所に…ご足労いただき…すみません…」
お互いの近況報告で…盛り上がったあと…
本題に入る…
納期の短い…なかなかの…仕事…
でも…できるかもしれない…
いまの僕を…もういちど…評価してもらいたい…
「やりますよ!やりますよ!頑張ります!!」
「…それで…実は……実はですね…」
「…ん?」
「…この仕事は…」
「…はい?」
「……コンペなんです…」
「……へ………」
ただでさえ…重たい案件をかかえているのに…
どれもこれも…スケジュールが遅れちゃっているのに…
それでもなお…
さらに…自らに鞭を打ち続け…時間を捻出し…
たとえ…創り出すことができたとしても…
コンペで落選し…1円にも…ならないかもしれない案件に…
食事を抜こうが…徹夜しようが…
僕を…思い出してくれたこの方の思いに…
応えなきゃ…
コンペに落ちたら…ただ…僕が無能だった…というだけの話…
簡単なこと…
やることは一つだけ…
誰もが納得する…いいものを…創り出せばいいだけ…
それが…僕の生業なんだから…
やるしかないでしょ…
うんざりするほど…辛くて…苦しくて…悲しくて…
ほんとうに…逃げてしまいたいけど…
やらなきゃダメでしょ…
「……わかりました…全力を尽くします…」
「…そう…言っていただけると…思いました…」
くぅ…
ほんとに…出世したようですね…
僕の扱い方が…
いっそう…お上手になりましたね…