悟 空  | 新宿 鼠通り

新宿 鼠通り

逃れよ…強壮な風の吹くところへ…

 

 

 

昨年の夏…

 

 

公園のそばに…

 

 

小さなお店が…オープンした…

 

 

看板を見ても…何屋さんだかよくわからない…
 
 
通勤の行き帰り…毎日覗いているけれど…
 
 
お客さんが入っているのを…あまり見たことがない…
 
 
以前のタピオカやさんのように…すぐ潰れちゃうのかな…
 
 
9月になっても…相変わらずの閑古鳥…
 
 
ちょっといいことがあった日に…
 
 
思い切って…扉を開けてみた…
 
 
もちろん…先客0人…
 
 
カウンターに座る…
 

 

中国人のお姉さんがひとり…きりもりしてる…

 

 
お姉さんは…いくら話しかけても…
 
 
笑顔のまま…中国語で返事をする…
 
 
どうやら…日本語はまったく通じないらしい…
 
 
これは面白くなってきた! 旅人のスイッチが入る!
 
 
昔…中国を旅した時に…ビールの中国語は…何度も口にしたので…
 
 
啤酒(ピージウ)!」と簡単に…口頭発注することができた…
 
 
つまみは…メニューの写真と漢字から味を推測して…
 
 
焼冷面…なるものを…指先発注…
 
 
発注が終わって…ひと安心…
 
 
改めて…店内を見渡す…
 
 
壁に貼られている…中国語のポスターに目がいく…
 
 
もちろん…何が書いているのか…まったくわからない…
 
 
ひさしぶりだな…この感覚…
 
 
異国の路地裏に迷い込んで…飛び込んだお店で…
 
 
なんとかビールにありついて…料理を待つ高揚感…
 
 
歌舞伎町に…引っ越してきて…1年以上経つけれど…
 
 
この町は…本当に日本だと思えない…
 
 
日本語より…中国語・韓国語・ベトナム語…
 
 
それに欧米人旅行者の…英語を耳にすることが多い…
 
 
僕の事務所があるビルも…
 
 
1階は…韓国語の看板を掲げる…送金屋さん…
 
 
ここは…
 
 
アジアのカブキという国…
 
 
巨大歓楽街がある…カオスな町…
 
 
誰もが…それぞれの生を…むきだしにしている町…
 
 
僕が…旅人に戻れる町…
 
 
 
 
 
 
 
ジョッキが空になる頃…
 
 
ママが…出勤してきた…
 
 
この方も中国人だけれど…日本語を話せる…
 
 
お客さんは…僕ひとりなので…
 
 
会話は弾み…ジョッキが並ぶ…
 
 
「毎日…ここの前を通るから…めちゃくちゃ気になってました…
 いつも…お客さんがいないんだもの…」
 
 
「…ソウデスネ…困ッテイマス…」
 
 
「…看板がダメだと思う…何のお店かまったくわからない…
 入り口もごちゃごちゃしてて…入りずらい…」
 
 
はじめて入ったお店で…酔いに任せて…
 
失礼なほどの…ダメ出しが止まらない…
 
 
「…あ…僕は…デザイナーです…グラフィックデザイナー。
 すぐそこのファミマの上に事務所があるの…
 こういう仕事もときどきやるから…多少はわかってるつもりです…」
 
「…ソウデスカ…」
 
「…なんか…中国を旅している気分になれる…素敵なお店ですね…
 今後もこのお店に通いたい…だから…潰れてほしくないんです…」
 
 
猛烈に…看板をデザインしたくなった…
 
 
メニューやチラシ…ショップカード…あらゆるものを…創りたくなった…
 
 
中国企業との仕事は…2019年に経験済みだから…
 
 
コミュニケーションの不安は…なにもない…
 
 
同じ人間…アジア人同士…きっとわかり合える…
 
 
それに…
 
 
こんなに美味しいのだもの…お客さんが増えなきゃおかしいよ…
 
 
デザインの力で…できることはあるはずだ…
 
 
僕の…役割があるのかもしれない…
 
 
ただ…そんなことを思って…
 
 
集客戦略について…熱く語り続けた…