●46万の壁

 

 

 


このお話は、昨日のブログ(●今まで書けなかった記事)の続きです。

 

 

 

従って、昨日のブログ(https://ameblo.jp/hirosu/entry-12331893526.html

 


を先にお読みください。


そしてから下をお読み下さい。
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[前回までのあらすじ

 

 

占いの仕事をしていると、相談に来られるお客は、

 

前向きで、明るく明日を夢見る楽しい方ばかりとは限らない。

 

中には、死が目前となり夜中に散々泣いたあげく、

 

ただ話を聞いて欲しいと、電話相談してくる人もいるのだ。

 

それが、ケイコさんだった。ケイコさんは、普通のOLさんで、35歳独身だった。

 

実家は山梨県で農家を営んでいるという。ただ高校生の時から都会に憧れていて、

 

大学を卒業すると、親と喧嘩同然で迷わず東京に出て来て就職したという。

 

上京当時は、右も左も分からず大変だったというが、

 

1年も経つと、仕事にも慣れ、東京の生活にもようやく馴染んできたという。

 

33歳の時、仕事帰りに立ち寄ったバーで知り合った男性と恋人同士にもなった。

 

ところが、そんな彼女の体にも異変が起きる。それは彼氏の一言だったという。

 

「胸の中に、小さい石ころがあるみたい」確かに小さなシコリが分かる。

 

そこで心配した彼女は、仕事を早引きして、近くの病院で検査したという。

 

検査結果が出るまでは、仕事も思う様に手につかなかった。

 

幸いにも、結果は「良性」!だった。ホット胸をなでおろし普段の生活に戻った。

 

しかし、それから半年後の事だったという。夜中に、胸が痛くなって、起きた。

 

胸を見て見ると、右胸のシコリがあった場所が、

 

少し窪んでエクボみたいになっていたという。さすがに、今度は痛みが伴っていたし、

 

本で調べるとエクボの様になっていたら要注意と書かれていたので不安になり、

 

大きな病院で検査してもらう事にした。すると、医者から告げられたのは、

 

乳がんだった。それもリンパ節への転移があり、ステージは2Bと告知される。

 

転移があると聞いて、彼女は倒れそうだったという。彼氏の家で一日中泣いた。

 

右乳房のシコリとその付近も取り脇の下のリンパも切除して手術は一応成功した。

 

しかし、それで終わりでは無かった。彼女いわく、そこからが一番辛かったという。

 

手術の後、退院してからは毎日リハビリして、右腕が上がる様に訓練したという。

 

次に、術後1ヶ月経った頃から、放射線治療を始めたと言う。

 

そして、それが終わったら、抗がん剤治療が始まった。

 

髪の毛が抜け始め、ちょっとした臭いでも吐き気をもうようしたという。

 

また、彼女はガン保険に入っていなかったので、

 

この頃は病院代や治療費が結構かかり、その度に彼氏と喧嘩になる事も多くなり、

 

やがて、彼氏に若い彼女さんが出て来て、別れたという。

 

抗がん剤治療で、一番苦しい時に、彼女はプライベートでも最悪な状態となったのだ。

 

何度も抗がん剤治療を止めようと思ったが、その都度、看護婦さんに励まされた。

 

そして3ヶ月以上にのぼる苦しい抗がん剤治療を乗り切ったのでした。

 

幸い彼女の職場は理解のある所で、再び元居た職場で働き始める事が出来たという。

 

この時点で完治していれば、ハッピーエンドで終わり、私との出会いも無かったはずなのだが・・・

 

無情にも、退院から1年と2ヵ月が過ぎた定期健診で、医者から、

 

精密検査をしてみましょうと言われたのである。

 

その結果、肝臓と骨盤(骨)にガンの転移が確認されたという。

 

ステージⅣの末期ガンだった。余命半年。

 

そう医者に告げられた3日後の夜。彼女は私に電話してきたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今まで、頑張ってきましたが、 


 もう私、      ダメです。」

 

 

 


「もうダメ。」と言ってくる相手に、

 

 

「まだ大丈夫。」とか、「頑張って!」と、

 

 

 つい、励ましたくなるが、逆にそれが相談者の負担になる事がある。

 

 

「もうダメ。」という言葉が、甘えから出た言葉なら、励ましは有効だが、

 

 


本当に「もうダメ。」で、もう一歩さえも前に進めない場合、

 

 

「まだ大丈夫。」とか、「頑張って!」は、とどめを刺す事もあるからだ。

 

 


しかし、いきなりの電話相談だと、

 

 

相手の状況が切羽詰ったものか、どうか分からない。

 

 

 


そこで、私はいつも、

 

 

「どうしましか?」と優しく聞く事にしている。

 

 

 

すると、彼女は自分がガンになった経緯を話してくれたのだ。

 

 

彼女は親と離れ、ガンになって、一番辛い時に彼氏にフラれ、

 

 

今まで、たった一人でガンに立ち向かい頑張って来たのである。

 

 

そんな時での余命宣告である。

 

 

明らかに彼女は、もう一歩も歩けない後者の「もうダメ。」の方だった。

 

 

 

 


また、彼女の話を聞いていても、友人が登場しない。

 

 

それに、彼女の電話の向こうにも他の人の気配も無い。

 

 

彼女は一人ぼっちだった。

 

 

私と話している内は、まだいいが、いずれ電話は切れる。

 

 

そうなると、彼女はまた一人ぼっちの暗闇の中だ。

 

 

 


これから病を乗り越える為にも、彼女の支えになる人が必要だと感じた。

 

 

また、彼女の手持ちの資金も底をついていた感じだった。

 

 

話の途中で、延長料金の事を聞いてくる人は、大抵余りお金の余裕が無い。

 

 

彼女の「もうダメ。」には「お金も、もう無いの。」が含まれている感じがした。

 

 

 


そこで彼女にこう聞いてみた。

 

 

「山梨の実家には、帰れないの?」

 

 


すると彼女は、即座に「絶対帰れません。」と答えた。

 

 

上京した時に、両親と喧嘩別れして出て来た事は聞いたのだが、

 

 

人生の危機という時に、なぜ絶対帰れないのだろう。

 

 

 


普通の相談なら、即座に「絶対帰れません。」と答えられると、

 

 

もうそこには突っ込まないのが、私の流儀だが、

 

 

今の彼女には、彼氏の居ないし、見舞いに来てくれる友人も、家族も居ない。

 

 

支えてくれるとしたら、実家の親しか居ないのである。

 


そこで、いつもと違って、すこし粘って聞いてみた。

 

 

「なんで、絶対帰れないのかな?」

 

 

 


すると、彼女は「絶対帰れません。」と繰り返した。

 

 

 

彼女いわく、

 

 

上京してから、12年間、一度も実家には帰っていないという。

 

 

それだけでは無く、電話一本、手紙一通さえも出していないので、

 

 

実家の親は、現在の住所は勿論、電話番号さえも知らないのだと言う。

 

 

 

つまり、家出同然だ。

 

 

 

 

 

ただ、何となくだが、本当は彼女、

 

 

実家に帰りたいんじゃないのかな。という感じがした。

 

 

これは占い師の勘というモノだろうか。

 

 

何となく、彼女のニュアンスが、本当は帰りたいと感じさせるのである。

 

 

勘だから、ハッキリと説明は出来ないのだが、

 

 

彼女は「絶対帰れません。」を繰り返した。

 

 

そして、その理由を説明してくれた。

 

 

 

 


しかし、本当に絶対に実家に帰りたくないのであれば、

 

 

そんな細々と理由を、私に説明しない感じがしたし、

 

 

本当に実家に帰りたくないのであれば、

 

 

絶対帰りたくありません。」ではないだろうか。

 

 

だから、彼女の「絶対帰れません。」には、

 

 

出来れば、帰りたい。」が微かに感じられたのである。

 

 

 


そこで、とりあえず相づちをしてから、

 

 

「そう。

 

 でも、親って、どんなに酷い別れ方をしても、

 

 最後は許してくれると思うよ。」と言うと、

 

 


彼女は、「私の場合は、絶対許してもらえないと思う。」と言った。

 

 

 


彼女の「許してもらえない」という言葉が、

 

 

何か別の事情がある含みを感じた。

 

 

 


占いというのは、匿名で出来る手軽な相談相手である。

 

 

匿名だから、何でも相談出来るのである。

 

 

しかし、相談者は何でもかんでも、打ち明けてくれる訳では無い。

 

 

例えば、車を盗んでも、そんな事を言えば、

 

 

例え赤の他人で、お金を払っている占い師といえども人間だ。

 

 

そんな相談者には、冷たい返答が帰ってくるかもしれないから、

 

 

車を盗んだなど、正直に言ってはこないのだ。

 

 

 

 

 

そこで、私は彼女に、

 

 

「家を出て来る時、なんかお父さんを怒らせる様な事、しちゃったのかな?」

 

と優しく聞いてみた。

 

 

すると彼女は、ようやく重い口を開いてくれた。

 

 

彼女は、家を出て来る時、

 

 

父親の売上金から46万円を黙って持って来てしまったと言う。

 

 

 


つまり、彼女が実家に帰れない大きな理由に、

 

 

46万円を黙って持って来てしまったという事があったのだ。

 

 

 

そこには、実家には気軽に帰れない、

 

 

46万円という大きな壁が、彼女に立ちふさがっていたのである。

 

 


しかし、彼女には実家に帰る必要があると感じた。

 

 

こうなると、46万円の壁を乗り越えるしかない。

 

 

 


さて、そうなると、46万円がどんな壁なのか知る必要がある。

 

 

お金の壁というのは、不思議な物で、人によって感じ方が違う。

 

 

例え1万円でも、絶対許せないという人もいれば、

 

 

46万円の損失を、すんなり許してくれる人もいる。

 

 

 

 


果たして、彼女の両親はどちらなのだろうか?

 

 

 


彼女にご両親の顔写真を見せてもらう事にした。

 

 

1枚しかないという事で、確率は半分になるが、

 

 

その代わり、ご両親の口癖や普段の会話の内容などを聞いてみた。

 

 

私の判断は、彼女のお母さんは、とても優しい人。

 

 

お父さんは、普通。という感じを受けた。

 

 

 

 

 

何とかいけると思った。

 

 

 


ここからは、実家への里帰り大作戦の開始である。

 

 

まず、直ぐにでも母親に電話して、実家へ帰れるか打診したい所だが、

 

 

今は夜中だ。

 

 

こんな時電話したのでは、喧嘩の再発になりかねない。

 

 

 

 


そこで、明日の朝、お母さんが1人家に居そうな時間帯を狙って電話する様に言った。

 

 

セリフも私が考えた。

 

 

まず、電話して、お母さんが出たら、10秒黙って何も言わない事。

 

 

 

そこで、またお母さんの声がしたら、

 

 

「母さん、ゴメンなさい」と一言だけ言う。

 

 

次に何かお母さんが言ったら、

 

 

「母さん、ゴメンね。

 

 私、バチが当たっちゃったのかな。

 

 乳がんの末期だって。

 

 余命半年って、言われちゃった。

 

 ゴメンね。お母さん。」

 

 


そんな感じに言ってから、聞かれた今までの事を包み隠さず言う様に勧めた。

 

 

13年の空白と46万円の壁よりも、母親の愛を信じたのである。

 

 

 

 


結果を教えてくれる様に言って、私達は電話を切った。

 

 

 

翌日、彼女から電話来た。

 

 

少し明るい感じだった。

 

 

お母さんからは、色々言われた様だったが、

 

 

最後には、「帰って来なさい。」と言われたという。

 

 

 


「良かったじゃない。」と、私もこちら側で小さくガッツポーズ。

 

 


残るは父親の壁である。

 

 

 

 

母親と父親は違う。

 

 

母親の場合、電話でも愛さえ感じる事が出来れば許してくれる事がある。

 

 

しかし、男親は電話口では許しても、本心は許していない時がよくある。

 

 

男親は、電話口ではなく、直接会って目の前で謝る必要があると感じた。

 

 

 


そこで、実家に帰ったら、まず父親に謝って、

 

 

その時に、今あるケイコさん全財産を差し出して、

 

 

残りは必ず働いて返しますとお父さんに誓って、許しを乞う事を勧めた。

 

 

 


そして、もしそれが上手く行ったら、また実家から電話下さいとケイコさんに言った。

 

 


それからのケイコさんの行動は早かったという。

 

 

直ぐにリサイクル業者を呼んで、テレビや冷蔵庫などの家具を全て買い取ってもらい、

 

 

賃貸アパートを解約して、洋服などの荷物を段ボール箱に詰めると、

 

 

ヤマト運輸に頼んで実家に送ったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

やがて、彼女が実家から電話してきた。

 

 

 

 

お父さんには、全財産と言っても15万円しか返せなかったというが、

 

 

実は金額は余り関係が無い。

 

 

男親には、今の全財産で償ってくれたという形だけが欲しいだけなのだ。

 

 

男親なんて、ウソでもいいから、残りは働いて返す。というその一言が欲しいだけなのだ。

 

 

そのお金だって、きっとケイコさんの治療に使うはずだ。

 

 

それが男親というものだ。

 

 

 

 

 

 

よし、46万円の壁は乗り越えた。

 

 


ここからが、本番だ!


最終話は、明日のブログに続く。