遊牧民さんのショートショート | いつだって考え中....

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何考えてるの?....と聞かれれば...
       ....いろ~んな事と答えます。

平和活動家で小説家の遊牧民さんが昨年の4月に発表した
現実小説「この現実~」を紹介します。
この物語に紹介される「壁」はガザに作られた「隔離壁」と同じ寸法です。
そう、この小説はパレスチナを比喩して書かれているのですが
記憶にまだあたらしいガザ爆撃から二年...
パレスチナはどうなっているのでしょうか...

アメリカは裁量的歳出の伸びを3年間凍結したが、社会保障費と国防費は例外として
とくに国防費、戦争に使われる予算はそのままかそれ以上となっている
目に見えるところではアフガニスタンと間接的ではあるがイスラエルへの支援だ...

この小説は遊牧民さんの著作ではありますが、転送転載は自由となっています
平和への思いを広げたいものです
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■現実小説 「この現実~」  作・遊牧民

私はこの春に、この街に引っ越してきた。
狭いながらも、庭付き一戸建てを買ったのだ。
貧乏子沢山。
うちの家族は、こどもが6人。
そして妻と妻の両親の10人家族だ。

ここは、屈指の高級住宅街。
周りは、お金持ちばかりだ。
お隣は、世界でも有数の財閥の会長さん、云わば「大金持ちのお隣さん」なのだ。
先日、その「大金持ちのお隣さん」に挨拶に行ったら、「下々の方が隣りに越してきて、迷惑しています」とか、「あなたは臭い」とか、「早くこの街から出て行くことを祈ります」などと、思ってもみなかった「暴言」を浴びせられた。

「町内会」の「寄り合い」に参加した。
みんなから「貧乏人は汚らしい」、「貧乏臭がする」、「何で町内会に来たのか?」などと罵られた。
私は、「世界は一家、人類皆兄弟。礼儀正しくしよう」と言ったら、町内会長さんが、私たち一家を「町内会に入れない決議」を提案した。満場一致で採択され、私は集会場を後にした。後で分かったのだが、町内会長さんは、「大金持ちのお隣さん」が経営する会社の役員をされているようだ。

夏がきた。
我が家の前に「○○土木」とか「何とか建設」と書かれたトラックやダンプカーがとまった。うちの敷地に入り込んで何やら工事を始めた。
現場監督らしき屈強な中年男に理由(わけ)を訊くと、工事の依頼主は、「大金持ちのお隣さん」で、うちのとの境界に「壁」を建設するらしいのだ。
しかし、「大金持ちのお隣さん」との「境界」より、明らか、私の敷地に建設しようとしている。現場監督に抗議したら、「私は請け負っているだけだから分からない。文句があるのなら施主に言ってくれ」と。
「大金持ちのお隣さん」ちに抗議に行ったが、会ってもくれなかった。インタホン越しに「貧乏人は出て行け。出て行かなければ抹殺する」と酷い言葉を浴びせられた。

秋になった。
「壁」の建設は続いている。
警察に相談にいったが、「わかりました」と返事するだけで、何も動いてくれなかった。後で分かったのだが、「大金持ちのお隣さん」は警察に多額の寄付をしていて、警察人事にも「口を挟める」ほどの力があるらしい。

冬が訪れた。
「壁」の建設は続いている。
弁護士事務所をいくつか訪問したが、なぜか相談にすらのってくれなかった。
17軒目の弁護士事務所でやっと相談にのってくれて、「訴状」も書いてくれたが、裁判所が私の「訴え」を受け付けてくれなかった。後で分かったのだが、「大金持ちのお隣さん」の弟さんは、法務大臣をしているそうだ。

再び春がやってきた。
「壁」は完成した。
高さ7.5メートル、幅3メートルの巨大なコンクリートが我が家を取り囲んだ。
高さ7.5メートルとは、2階建て木造住宅の屋根に達する。
出入り口は、道路に面したところに、高さ2メートル、幅1メートルの「鉄の扉」が一箇所設置されていて、そこにはガードマンが、うちの敷地側に3人、道路側に3人配置され何やら武装しているようだ。そのガードマンの会社は、「大金持ちのお隣さん」の息子さんが社長をしているらしい。

訪問者が来るときは、ガードマンがボデチェックをしているようだし、私たちが外出するときもボディチェックされる。
警察に通報したが、またしても「わかりました」と返事するだけで、まったく動いてくれなかった。

暑い夏がきた。
外出を禁止された。買い物もダメ。仕事にも行けない。
子供たちは学校にも、幼稚園にも通えない。
学校の先生に助けを求めたが、「大金持ちのお隣さん」の名前を出すと、電話を切られた。後で分かったのだが、「大金持ちのお隣さん」は教育委員会や行政にもかなりの影響力を持っているようだ。
一番下の娘が「はしか」にかかった。救急車を呼んだが、出入り口を封鎖しているガードマンが「ここは医者は足りている」と云って、救急隊を追い返した。

秋が来た。
電気は1日3時間。水道は1日4時間しか来ない。都市ガスは1日2時間。電話は通じなくなった。
「大金持ちのお隣さん」は電力会社や水道局や電話会社にも影響力があるようだ。
冷蔵庫の食料が腐る。買出しには行けない。仕事も行けないし。お金の蓄えもない。仮に蓄えがあっても使うところがない。

怒った21歳になる大学生の長男が、出入り口を封鎖しているガードマンに「投石」した。運悪く、急所に当たり一人のガードマンが死亡した。
別のガードマンが、拳銃を取り出して、うちの長男を射殺した。

その翌日、「大金持ちのお隣さん」は軍隊の飛行機を使って、私の家に爆弾を落とした。「劣化ウラン弾」だった。
「壁」はそのために造ったのか?
うちに爆弾を落としても、「大金持ちのお隣さん」ちに被害が及ばないようにと。

我が家の半分が砕け、妻の両親と、私たちの子供3人が即死した。
でも、葬儀屋も呼べない。
庭を掘って、今日死んだ5人と、昨日死んだ長男を埋葬した。
涙も枯れ果てた。

寒い冬が来た。
残された、私たちは4人。
「劣化ウラン弾」の影響なのか、2人のこどもの首に「瘤(こぶ)」のようなものが出て来た。おそらく腫瘍(癌)だろう。

もうだめだ。
水屋や冷蔵庫の食料が底を尽きた。
1日3時間の水と、塩を舐めて生きている。
2人のこどもは歩けなくなった。
妻は毎日泣いている。

私たちは生きる価値のない人間なのだろうか?
「臭い」からか?
私たちはこのまま死んで行く。
それにしても、子供たちが可哀想でならない。
学校にも行けず。友達と遊ぶことも出来ず。誕生日パーティをすることもできず。
「ドラえもん」の映画を観ることもできず。何の楽しみも味わえずに、短い一生を苦しみながら閉じなければならないのか?
今度、生まれる時には、私の子供になんてなるなよ。

誰も助けに来てくれない。

もうだめだ。

みなさん、天国で会いましょう。

私の名前は「賀座(ガザ)」。
「大金持ちのお隣さん」の名前は、「椅子羅得(イスラエル)」さん。
町内会長さんの名前は、「雨利加(アメリカ)」さん。

ガザ、
この現実 
一方的な破壊と殺戮の中で

(完)
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