3、あの時こうすれば(2)
翌日の昼下がり、圭一郎は珍しく自宅の台所へと立った。綾乃に「好きな事やんなよ」と言われた圭一郎。とりあえず料理を始めてみる事にした。
トマトをすり潰し、コンソメスープと混ぜ合わせたトマトスープを作り、そしてそのスープをベースにして、新鮮なあさりを煮込んでみた。ズバリ『トマト風あさりパスタ』である。
トマトの良い香りが漂う圭一郎の部屋。軽くフライパンでトマトソースと絡ませたパスタを、皿の上へと移し変えた。
「うまそう・・・」
あまりにもの出来ばえの良さに、思わず自画自賛してしまった。
そしてそのお手製パスタを食卓へと運ぶと、早速フォークで口の中へと運んでみた。
「上手い!俺って天才かも・・・調理師目指そうかな・・・」
そんな事を言いながらパスタを食べていると、突然ピンポ~ンと、部屋のチャイムが鳴った。アイホンの画面を見ると、なんとそこには優太の姿が映っていた。
「野島、俺の仕事手伝ってくれよ」
優太の第一声がそれだった。ずっと丸和工務店の財務を統括していた圭一郎を最初にスカウトしにきたのは、優太であった。
「お前の仕事って・・・」
「ああ、ドカタだよ」
自信満々の笑顔でそう語る優太。そこにはコンプレックスなど何もなかった。しかし、圭一郎自身、自分にドカタ仕事が出来るとも思えなかった。
「う~ん・・・」
そう言って腕を組んで考えていると、優太は再度頭を下げてきた。
「頼む!人が足らないんだよ!勿論合わないなら辞めてもいい。だから一度やってみてくれよ」
結局圭一郎は友人の優太に押し切られるようにして、了承してしまった。頼まれると断れない。とにかく情に負けてしまう圭一郎であった。
土木の仕事の朝は早い。何しろ朝の9時から工事が始まる為、朝早くに会社に行って資材置き場で準備をしなければならない。
セメント、ベントナイト、塩ビパイプ。推進機材。あらゆる資材が山積みに置かれた太陽エンジニアの資材置き場。まさしく男臭い職場であった。
「はいよ」そう言われて優太に作業着を手渡された圭一郎。ユニフォームには『太陽エンジニア』というロゴが入っていた。
中小企業、太陽エンジニアの完全下請。大手ゼネコンの取締役が、なんと5次下請けの職人の仕事をする事となってしまったのだ。
会社には更衣室というものは無い。ダンプカーの中で作業着に着替えるのだ。
黄色いつなぎを不器用に着終えると、優太から「野島!そこのセメン、トラックに積め。6袋でいい。珪砂も頼む」と指示された。
「珪砂???」
珪砂とは、セメントに配合してミキシングし、セメント本体の強度を増すためにある砂の事である。しかし、圭一郎はそんな事すら何も知らなかった。
「ええと・・・」オロオロする圭一郎を見て、優太は「なんだ、お前そんな事も知らないのか???」と半ば呆れた顔をしながら「これだよ」と言って、地面に置かれていた紙袋を2tダンプに積み込みだした。