フォーエバー・フレンズ -371ページ目

2、消えぬ思い(7)

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(c) ヨロズナ写真素材 PIXTA

少しずつ横須賀港は日が落ちてきて、あたりは薄暗くなってきた。

灯台や向こう岸の建物の明かりがチカリチカリと灯される。

陽一と恵は黙ってその海を見つめ、時折遠くから聞える貨物船の汽笛にそっと耳を傾けた。

それはいつものように、会話が続かない事にストレスを感じるなのではなく、あえて二人がこの空間にしているかのようだった。

「ねえ・・・ごめんね」恵はふと言いたかった事を言い出した。

「何が?」

「私、徳永君の事何も知らないで、あんな事言って」

「あんな事って?」

「ほら・・・お父さんなんて関係ないじゃんって。子供っぽいって」

「いいよ別に。その通りだから」

両親とも飛行機事故で亡くなったんでしょ?」

陽一は黙って薄暗い港を見つめた。

「ごめんなさい。私、そんな事も知らないで・・・」

陽一は言葉を詰まらせそうになりながら話し出した。

「死体・・・全部見つからなかったんだ・・・」

「えっ?」

「機体が爆発して体がバラバラに吹っ飛んでさ・・・残ったのが手だけだったんだ・・・結婚指輪でわかったんだよ・・・この手が二人の死体だって・・・」

恵はじっと陽一を見つめた。

「今迄俺は、親父の為に生きていた。親父に褒めてもらいたくて・・・親父認めてもらいたくて・・・だから親父の言う通りに生きてきた。でも親父が死んで初めて自分の生きる意味を考えさせられた。そして山野のおかげでその答えがなんとなくわかった・・・」

「そんな・・、あんな事言ったって、私も本当は誰かに褒めてもらいたくて頑張ってるんだ・・・自分の考えなんて本当は何もないんだ・・・」

陽一は、しばらく海を見つめて、そして何もかも心の整理がついたように恵に話し出した。

「あの後考えたんだ。俺、一体何がしたいのかなって、いろいろ紙に書いてさ。そして一つ一つ塗りつぶしていった。そしたら最後に残ったのは野球だった・・・結局俺には野球しかなかった・・・だからもう一度野球をやってみる」

「じゃあ仙台学園辞めたの、もったいなかったね・・・」

「いや、あのまま何の目的もなく続けていたら俺は駄目だったと思う。この1年間ずっと考えていたんだ。自分は何なんだって。でも初めてわかった。俺の体には野球っていう血が流れている事が」

「野球っていう血?」

「ああ。野球をしていない自分は生きてはいない。血が流れていないんだよ。だから野球同好会でも何でもかまない。甲子園は難しいとは思うけど、だけど本当に好きな事、やりたい事をやりたいんだ」

恵は陽一の熱い思いに、心地よい気持ちで耳を傾けていた。

「実は俺さ子供の頃港南学院のファンだったんだよ」

「ウチの学校?」

「ああ。俺が小3の頃港南学院が甲子園で春夏連覇したんだよ。憧れのチームだったよ。親父は俺が小学校の頃から仙台学園と決めてたんだけど、本当は港南でプレーしたかった。港南のユニフォームを着たかったんだ。だから無意識のうちにこの学校に編入したんだと思う」

すると恵は笑って「そうだ!お父さんに代わって、私が褒めてあげるよ!」と言った。

「はあ?山野が?いいよ別に」

「なんで?いいじゃん褒めてあげるよ」

「いいよ。やめろよ」陽一は照れくさそうに言った。



その夜、恵はまた夢を見た。

あの美しい野球少年は、小学校6年生になっていた。

そして少年の背丈は、既にを追い抜いていた。

「おねえちゃん。見てよ世界大会優勝だよ」と言って金メダルを恵に見せた。

「凄いじゃん!」

「でもお父さんは褒めてくれないんだよ・・・そんなもんプロに入るまでの一つの出来事だってさ・・・」少年は、寂しそうに言った。

すると恵は、少年の帽子を取って、頭をクシャクシャと撫でた。

「大丈夫!私が褒めてあげる!」

少年は少し照れながら「ありがとう。俺頑張るよ。じゃあね」と言って、少年は走り去ろうとした。

恵は「徳永君でしょ?徳永陽一君なんでしょ?」と少年に聞くと、少年は笑いながら「そうだよ」と言い、走り去っていった。

去りぎわに見た少年の後姿は、どんどんと大きくなり、今の陽一の背丈に変わっていった。

そして甲子園の大歓声の中、背番号8を付けた陽一は、その大歓声に応えるよう左手を高々とあげながら、ベース上をゆっくりと回っていた。

高々と上げた左手には、8の数字が刺繍されたリストバンドがつけてあった。



「恵・・・俺頑張るよ・・・」



これを最後に恵は野球少年の夢を見なくなった。


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