フォーエバー・フレンズ -366ページ目

3、速見の夢(5)

売店で陽一と文麿がコーラのLを買っていた。

別に仲直りしたわけでなく、喉の渇くタイミングが一緒だったのだ。

すぐ隣に喫煙場所があった為、そこで文麿はタバコを吸いだした。

そして陽一にセブンスターを差し出し、タバコを勧めた。

陽一は「オレ吸わない」と言って、文麿のタバコを断った。

「固い事言うなよ。ったく・・・」

文麿はタバコに火をつけて、天井に向けて煙を吐き出した。

「なあ徳永、今日お前下級生にワンテンポ遅いって言ってただろ。あの教え方ってねえよな」

「修二の事か?なんでだよ」

「お前にゃそれが出きるんだろうけどさ、ワンテンポ遅いなんて言われてもすぐワンテンポ速くなるか?」

「俺もそうやって覚えてきたし、そうやって努力してきた」

「ははは。お前やっぱりエリート気取りだよ。出来ねえ奴の苦しみがわからないんだ。お前レギュラーとられた事無いだろう」

図星だった。陽一は小学校3年生の頃から才能が開花し、この歳まで負けを味合った事が無い。全部人より早く体が吸収してしまうからである。

「で・・・そんな奴に限ってオレは人一倍努力してきたなんてきれい事言うんだよ。でもなそれは違うよ。もって生まれた才能だよ。お前100m何秒で走る?」

「11秒7」

「遠投は?」

「110m」

「そんなもん努力でなんともなんねえだろう?もって生まれた才能だろ?努力だけじゃねえだろ違うか?あげくの果てにその修二って奴はお前より一回り小さいんだぞ。俺お前のそう言うところキライだ。真ならお前みたいな事は絶対に言わない」

そうだった。子供の頃、真はいつもチームメイトに人気があった。

野球の総合力では真より陽一の方が完全に上だったが、チームメイトは陽一に寄り付こうとしなかった。

なので陽一はいつも真という存在を通して、チームメイトと付き合っていた。

陽一に出来て当たり前の事が、他の選手には出来ない。

だが陽一はそんなできないチームメイトに、あまり手を差し伸べる事は無かった。

しかし真は違った。

一人で黙々と練習をする陽一と違い、いつも仲間と一緒に居残り練習していた。

陽一は「オレにもタバコくれ」と少しヤケ気味に文麿に言った。

「そうこなくっちゃ」

陽一は何ヶ月かぶりにタバコ吸った。

そして「一ノ瀬、お前の言うとおりだよ」と言った。

「なんだよ素直じゃん」文麿は少し驚いた。

陽一はとんでもない頑固者だと思っていたからだ。

「真がいたから世界一になれた。真がいたからチームは一つになれた」

「違うよ。お前と真の心が一つだったから優勝できたんだよ。オレ中学の時真と一緒に野球やってたけど、3年の時都大会の決勝で敗北さ」

「一ノ瀬も野球をしてたのか?」

「ああ、してたよ。俺が3番で真が4番さ」と文麿は懐かしい気持ちで真との思い出を話した。

「そうだったのか・・・」

「あいつ負けた時たまに漏らすんだよ。陽一が居てくれたらって・・・徳永ってどんな奴かと思ってたけど、やっぱり天才だな。人間味のある真と天才の徳永か」

すると由香子が喫煙室に入ってきた。

「一ノ瀬!徳永君にタバコ吸わさないで!」

「わかったわかった」文麿はタバコを吸殻入れに投げ込み、喫煙室を出ようとした。

すると陽一は「一ノ瀬。お前も野球やらないか?」と思い立ったように陽一は口を開いた。

「はあ?やだよ!お前みたいな奴と出来るか!」

「たのむ。やってくれ」

「やだよ大体なんで俺を!」文麿は、何故陽一が自分をスカウトするのか全く理解できなかった。

「お前の言葉を聞いて、野球が出来る奴ってのがわかるんだ」

「わかるわけねえだろ!」

「いや、間違いないお前は出来る」陽一は自信を持ってそう答えた。

「うるせえ!このウドの大木!」

すると由香子がしゃしゃり出て「一ノ瀬!野球やれ!」と言った。

「嫌だよ」

すると由香子は「わかった。じゃあ、一ノ瀬とは今後口を聞かない。わかったね?」と言った。

「ちょっ・・・ちょっとまて!」文麿にとって、この言葉は殺し文句であった。

「どうすんのよ!YES?NO?」これじゃまるで脅迫だ。

翌日港南学院野球部に新しい部員が増えた。

一ノ瀬文麿ポジションはサード。

都大会決勝まで行った蒲田3中の三塁手。

中学時代は真とともにクリーンナップを打っていて、俊足強打が売りである。

これで8人揃い、速見の夢まであと一人となった。

そして陽一はその最後の一人は、真だと決めていたのだった。



放課後の屋上で文麿は、真にまた野球を始める事を告げた。

「真も野球やらねえか?才能あんのにさあ・・・」

真は「俺はやらねえ」と言うと、ベンチに寝転がり目を閉じた。

「そうだ真、徳永からメッセージを預ってきたよ」

「何だよ」

「約束を果たす時が来たと言ってくれだってさ。何のことだか・・・」

「そうか、わかった」

「真、この意味わかるのか?」

「ああ」

真はその陽一の謎めいたメッセージの意味を理解した。

「文麿、タバコよこせ」

文麿は「ああ、いいぜ」と言って、真にタバコを渡した。

すると真は文麿のタバコを箱ごとひねり潰した。

「真!何すんだよ!」

「お前野球やるんだろ。今日から禁煙だ」

真は文麿を思って、禁煙を命じた訳ではなかった。

茜に無理矢理禁煙させられてしまい、連日禁断症状でイライラしていた。

そしてこのイライラを誰かに味合わせて見たかっただけなのだ。

由香子には無理矢理野球部に入部させられて、真には無理矢理禁煙させられてしまった文麿は本当に災難な男だった。



にほんブログ村 小説ブログ 学園・青春小説へ
にほんブログ村