3、速見の夢(3)
少し活気づいた野球部は、今日も元気に声を出し練習に励んでいた。
今日は4月20日。
なんと新学期が始まって、わずか2週間で部員は倍増したのである。
しかも決して寄せ集めではなく、レベルの高い部員ばかりであった。
その少数かつハイレベルな野球部の練習を、由香子と恵は今日も見ていた。
恵は野球がわからないので、本当は練習なんて見たくないが、由香子に言われてアルバイトの時間までしぶしぶ付き合っていた。
キャッチャーの宮城は外野の陽一にノックをしていた。
宮城の放つ打球を、陽一は外野の荒れた芝の上を軽快に走り回り、パス パスっとグラブを鳴らし、余裕のキャッチングを見せた。
「やっぱ徳永君かっこいいよ」由香子は両手を叩き、陽一を応援した。
「でも簡単なボールばかりだよ。みんな目の前で取ってんじゃん」恵はちょっと冷めた感じだ。
と言うより由香子に気を遣ってわざと冷めたふりをしていた。
すると速見が「そんな事ないよ」と言って二人の前に現れた。
「徳永は簡単に取っているようだけど、打球の音と同時に球の方向へ走っている。よく見てて」といって速見はセンターの陽一を指差した。
宮城が振るノックバットがカーンとなると、陽一は同時にライト方向へと走っていった。
そして目の前でなんなくキャッチした。
「バットの音や軌道で上がる位置を瞬時に読み取っている。普通の人間ならファインプレーでキャッチするんだけど、徳永の場合は普通の奴より3歩程守備範囲が広いんだ」
「すごーい!」もう由香子は乙女心全開である。
その後宮城は何本もセンター方向へノックを打ち込み、そして「これでラスト!」と大きな声で言い、アッパースイングで思いっきり高いフライを打ち上げた。
そして「徳永!バックホームだ!」と宮城は陽一へ大声で指示した。
すると陽一は助走しながらボールをキャッチし、大きな体を柔軟かつダイナミックに使った送球フォームで、ボールを投げた。
陽一の投げたボールは、高校生とは思えないようなレーザービームとなり、ホームベースへと恐ろしい速さで飛んできた。
その瞬間野球部員はおろか、あたりを歩いていた生徒まで思わず立ち止まり、息を呑んだ。
キャッチャー役をしていた司は、咄嗟にしゃがんでキャッチャーミットを構えた。
そしてキャッチャーミットはズバーンと勢いのある大きな音をだした。
ドンピシャのストライクだった。
そしてまわりからも「おおお!」というドヨメキがあがった。
恵も由香子も、陽一のあまりにもの凄さに、声が出なかった。
「あいつはすごいよ。甲子園どころか、プロでも通用する」速見は二人の乙女にそう言った。
恵は思わず「徳永君て、凄いんだ・・・」とプレーを見てつぶやいた。
その後修二の特訓が始まった。
陽一は、どうしても修二を名ショートに育てたかったのだ。
陽一が軽くショートに向けてゴロを打つと、修二は軽やかにボールをキャッチし、キャッチャー役の司へ返球した。
「ナイスボール!」司は声を出したが、陽一は何も言わずに黙々と打ち続けた。
その後も修二は、リズムのあるフットワークでショートの守備位置の上を右に左に駆け回わった。
「徳永さん、もっと強いのを打ってください」と修二は余裕な表情で、グラブを上げた。
しかし陽一は「だめだ、正面のゴロが取れてない」と修二に冷たく言い放った。
「えっ?取ってるじゃないですか!」
「修二、お前は取ってない」
「取ってるじゃないですか!」修二は少しムキになった。
「修二!次キャッチしたらファーストへ投げろ!裕輔次球ファーストいくぞ!」そう言うと陽一は、再び修二に向かって打球を放った。
すると陽一はバットを置いて、ファーストへと全力で走り出した。
陽一のあまりにもの足の速さに、修二は驚き急いでボールをキャッチし、そしてファーストへスローイングした。
ボールはファーストの裕輔のグラブに収まるが、タイミングはからくもアウトといったところだ。
陽一は「修二、俺の言っている意味がわかるか?」と言った。
「俺の肩が弱いって事ですか?」
「違うよ。とってから投げるまでに時間がかかりすぎているんだ。ランナーをアウトにできてはじめて取ったと言えるんだ。ワンテンポ遅いし、フットワークもワンステップ多い。今のお前じゃ100%アウトに出来ない。さあもう一回!」
陽一が修二に指摘した事は確かに正しかった。
しかし陽一は、単刀直入な言い方をする為、少し冷たく感じる事があるのだ。
「わかりました・・・」修二は若干しょげ気味だった。
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