フォーエバー・フレンズ -228ページ目

17、メジャーへ(5)

恵が家に帰ると、父がいつものようにビールを飲んでいた。

「ただいま」恵は元気なく、居間にやってきた。

「おう、おかえり。徳永君は巨人に行けそうか?」

しかし恵は、そんな父の問いかけも無視して「ねえお父さん。ロサンゼルスってどんな街?」と聞き出した。

「いきなりなんだよ」

「知ってるなら教えて」

「俺は行った事ないんだけど・・・」

「知ってる限りでいいの」

「俺の会社の取締役に聞いた話だけどな。治安が悪い街らしいな」

「そうなの」

「ああ、夜寝ていたら遠くから何発か銃声が鳴り響いてきたらしい。それに1992年にロス暴動というのが起きてな」

「ロス暴動?」

「白人警官が、黒人に暴行を働いたのがきっかけで、怒った黒人達が、暴動を起こして街を破壊したらしいんだな」

恵は黙り込んでしまった。

「それに殺人事件が年間400件ぐらい起こるらしいしな」

「400件!ひとつの街で?」

「ああ、そうらしいぞ。まあ住めば都なのかもしれんがな」

恵は完全に怯えてしまった。



恵はその晩ベッドの中で、ずっと考えていた。



旅行で行くならまだいいけど、恐くてとても住めない。

それに仕事どうやって探したらいいの?

それどころか言葉も通じない。

陽一、それだけは無理だよ・・・。



10月に入っても、陽一のプロ志望届けは出されなかった。

そしてマスコミ各社が、遂に騒ぎ出した。

陽一は一体何処に行く気なのだと。

学校の周りには連日報道関係者が取り囲み、記者達は生徒を捕まえては、こっそりと陽一の進路を聞こうとした。

しかし、どの生徒も「わからない」としか答えなかった。

陽一の進路について知っているのは、陽一以外には恵しかいなかった。

そして恵が車椅子の由香子を押して通学してきた。

すると一人の記者が「徳永の彼女だ!あの子なら知ってるかも」と言った。

その言葉に、報道関係者は一斉に恵に詰め寄った。

「ねえ、君知ってるでしょ教えて」

「知りません」

「うそでしょ?知ってるでしょ?」

「本当に知らないんです。すみません、学校に入れてください」

しまいには由香子が怒り出した「どきなよ!邪魔だよ!いい加減にしろよ!」

しかし、二人は報道陣にモミクシャにされてしまった。

校長先生が飛んで出てきて、なんとか恵も由香子も脱出できた。



そして二人は校長室で、しばらく休憩させてもらった。

「なんて奴らだ」由香子はグシャグシャにされた髪型を、ブラシで整えていた。

しかし恵はソファーに座って呆然としていた。

すると由香子が「恵、元気だしなよ」と言って、恵の髪をブラシでときだした。

由香子に髪をとかれていると、恵の目から涙がポロポロとあふれ出た。

「ごめんね由香子・・・私のせいでこんな思いさせちゃって・・・」

「恵・・・」

「もう嫌だ・・・」



警察がやってきて、報道陣はなんとか排除された。

そしてその日の晩、恵と陽一はヴェルニー公園に待ち合わせた。

「陽一、もう結論を出したい・・・」

「そうだな」

「あのね・・・ロサンゼルスの件なんだけど・・・」

陽一は黙って海を見続けた。

「諦めて欲しいんだ」

恵のその言葉を聞いても、陽一はひたすら海を見続けた。

「私、料理の仕事もしたい。でもアメリカで働く自信がない。第一言葉が通じないじゃん・・・陽一の言う事ならなんでも聞く。でも、それだけは諦めて」

すると陽一は「無理だ」と一言だけ言った。

「どうしてなの?私の一生のお願いを聞いてよ」

「無理だ。もうメジャーに行くと決めた」

「じゃあ私どうすればいいの!」恵は感情を高ぶらせた。

「ついてきて欲しい」

恵の目から涙が落ちた。

「陽一!勝手だよ!私、今まで陽一の事を中心に考えてきた!自分よりも陽一の事を考えてきた!なのにどうして!どうしてたった一つのお願いを何で聞いてくれないの!」

「他の事なら、なんでも聞く。でもそれだけは譲れない」

陽一はそう言うと、横須賀駅の方へと一人歩いていった。

恵はその場で泣き崩れた。

「陽一・・・ひどいよ・・・ひどいよ・・・」



喧嘩もした事がなかった。

物凄く仲良しだった。

いつも二人一緒に居た。

誰からも羨ましがられたカップル陽一と恵。

そして今その二人の関係に、大きな亀裂が入ろうとしていた。

それは進路問題という大きな障害のせいだった。