18、ドラフト会議(1)
港南学院高校野球部は、秋季大会を戦っていた。
新キャプテンは真面目が売りの、高校球界の名ショートの修二。
そしてこの秋見事関東大会ベスト4となり、来年の選抜出場をほぼ内定させた。
陽一と真は、そんな野球部と合流し、今日も仲良く練習をしていた。
二人は練習で汗を流し終えると、ベンチにドカッと座ってグラウンドを見つめていた。
「陽一、結局どうすんだよ?まだプロ志望届け出してねえみたいだな」
しかし陽一は何も語ろうとしない。
「何で黙ってるんだよ」
すると陽一は「真、俺日本のプロにはいかない」とポツリと言った。
「なんだって?」真は驚いて、陽一を見た。
「メジャーに行くよ。ロサンゼルス・ドジャース」
「スカウトがきたのか?」
真がそう聞くと、陽一はゆっくりとうなずいた。
真は、突然陽一に進路を打ち明けられ、少し戸惑った。
そして「山野はどうすんだよ。陽一について行くって言って、いろいろ準備してたそうじゃねえか」
「反対されてるよ」
「そりゃそうだろ。山野がアメリカまでついてくるなんて思えねえ」
陽一はずっと黙っていた。
「もう少し考えろや」
「もう決めたよ」
「陽一!」
「俺、どうしても日本の野球に魅力を見出せない。どうせやるなら世界の最高峰でやりたい」
結局真はそれ以上の事は言わなかった。
陽一は、一度決めた決意を覆さない人間だとわかっていたからだ。
「わかった。俺はこれ以上何も言わねえ。だけどな、お前の事を今まで一番よく考えてきてくれたのは山野だ。それだけは言っとく」
そう言うと真は再び練習を始めた。
恵は恵で、ずっと元気がなかった。
あれ以来陽一との関係は、恐ろしい程冷え込んでいて、最近は以前のように一緒に帰る事もなく、陽一の家にもずっと行ってなかった。
好きな気持ちに変わりはないが、進路問題で気まずい雰囲気になってしまった。
恵はこれまで陽一の進路を最優先し、その中で自分の進路をいろいろな想定を踏まえて考えてきた。
しかし今、頑なにメジャー行きを決意した陽一に対して、恵の選択肢はロサンゼルスに行くか行かないかしか無かった。
もう自分の力ではどうする事も出来なくなり、恵はコロンブスの休憩室で、茜にそれとなく相談してみた。
茜は中学時代に、アメリカで半年程のホームステイ経験があったからだ。
「ねえ、茜」
「何?」
「茜って、中学の時にアメリカにホームステイした事あるんだよね?」
「そうだよ。半年間だけだけどね」
「アメリカの生活ってどんな感じ?」
茜は恵の突然の質問に驚いた。
恵から、アメリカの生活の話なんて聞かれた事がなかったからだ。
「う~ん、楽しかったよ。ホームステイ先の家族の方がものすごく親切だったし、学校も本当に楽しかったよ」
「恐くなかった?治安が悪いとか・・・」
「私が行った所は、田舎だもん。ミズーリー州って言ってね、本当に平和な街。ニューヨークやロサンゼルスとは違うもん」
その茜のロサンゼルスと言う言葉に、恵は黙り込んでしまった。
「ねえ、なんでそんな事聞くの?」
「実はね・・・陽一、アメリカに行きたいって言って聞かないんだ」
「アメリカ?」
「そう、アメリカのチームに入りたいんだって。ロサンゼルスにあるチームなんだって」
「でっ・・・陽一君は恵にどうしろって言ってるの?」
「一緒についてきて欲しいって言ってる・・・私ロサンゼルスで暮らせて行けるかなあ?」
茜は、恵への答えに迷った。
それは、茜でも想像の出来ない世界だからだ。
茜の場合は、あらかじめ学校にちゃんと面倒を見てもらい、ホームステイ先も決まっていて、しかもホームステイ先は平和な田舎町だった。
恵の場合は、大都会のロサンゼルスへと行き、その地で自分の力で仕事を探すのである。
勿論言葉は通じない。
しかも陽一は、プロ野球選手で、家に帰らない日が多くなる。
イチローや松井であれば、球団が家族の生活のバックアップもちゃんとしてくれる。
しかし、それは実績のある選手だからである。
陽一はメジャー球団からスカウトを受けたとはいえ、ルーキーである事には変わりない。
球団が全力をあげて恵の生活を、バックアップするとは思えない。
日本に帰って来れる確約もない。
茜にとって、恵の言っているアメリカ生活とは、全くの想定外の話である。
恵がそんな環境で生活をするなんて、全く想像がつかなかった。
「・・・恵、どうするの・・・」
恵はゆっくりと首を横に振った。
「やっぱり無理だよね・・・とても生活していく自信がない・・・」
「恵・・・」