18、ドラフト会議(5)
そして肝心の真は・・・。
実は、屋上で昼寝をしていたのだ。
すると文麿があわてて屋上へとやってきた。
「真!大変だ!」
真は眠そうに、目をうっすらと開けた。
そして面倒臭そうに「なんだよ」と言った。
「ドラフトの結果だよ!見てねえのか?」
「あん?5位指名なんて放送ではやらねえだろ?」真はそう言うと再び目を閉じた。
「違うよ!一位指名だよ!阪神が真を一位で指名したんだよ!」
その言葉を聞いて、真は大きく目を見開いて飛び起きた。
「なんだと!」
「今報道陣が、学校に集まって来てるんだよ。偉い騒ぎだ!」
「本当かよ・・・」
「やったな真!」
真は立ち上がって「茜!やったぞ!」と秋の空に向かって吠えた。
すると今度は陽一が屋上へとやってきた。
「真!」
「陽一!」
「真、おめでとう」陽一が笑顔でそう言うと、真は陽一に右手を差し出してきた。
二人はガッチリと握手を交わした。
そして陽一は、阪神タイガースの帽子を真に被せた。
「イワサキスポーツの店長に言って、持ってきてもらった。俺からのプレゼントだよ」
真は珍しく涙ぐんだ。
そして「陽一・・・ありがとうな・・・」と言った。
「泣くなよ。大変なのはこれからだよ」
「ありがとう・・・やっぱり陽一の言った事は正しかったな」
「だろ?」陽一はニコリと笑った。
それから真は陽一と文麿に連れられ、校庭に姿を見せると、野球部員から祝福の胴上げを受けた。
その様子はテレビで全国に放映された。
秋空の下、阪神タイガースの帽子を被った真の大きな体は、港南学院高校の校庭で宙に舞った。
真は少年のように泣いていた。
茜・・・
これでやっと楽させてやれる。
ありがとうな。
茜、本当にありがとう。
家でテレビを見ていた茜も、泣いていた。
茜は、遂にプロ野球選手の奥様になるのだ。
今までの苦労が、やっと報われたのだ。
数日後、川崎にある決して綺麗とは言えない、真の住むアパートに阪神の球団社長が幹部を引き連れて訪れた。
その球団社長の訪問を、真と茜と理子の3人で迎えた。
「それじゃあ入団してくれるという方向でええんやな?」
「お願いします!」
3人はそう言って深々と球団社長に頭を下げた。
今時珍しい若者達の姿に、球団社長を微笑ましい気持ちになった。
「それでやな。これが契約書や。ちょっと目を通してくれるか?」
すると球団幹部が、契約書を真の目の前に置いた。
「契約金もちゃんと書いてる。異論がなかったら、判子押して欲しいんや」
真と茜と理子の3人は、覗き込むようにその入団契約書を見つめた。
見慣れない漢字を、じっと見つめた。
契約書に書いてあった金額・・・。
『金 七千萬円也』
なんと契約金7千万円!
3人は驚きのあまり、目を大きく見開いた。
そしてお互いに見つめあった。
「やったぜ!みたか茜!これで子供育てられるだろ!」
「真・・・多すぎるよ・・・」茜は思わず涙を流した。
「おにい!私もまた塾に行きたい!」
「ああ!いくらでも行け!理子!今まで苦労掛けた分、なんでもやらせてやるぞ!」
まさにミラクルだった。
一時は、子供を育てるために退学を決意した真。
しかし茜が、妊婦の体をおして今日まで一生懸命に働いてくれたおかげで、退学を免れていた。
そして真は、遂にプロ野球の道へと、駒を進める事ができたのだ。
茜にとってこの一年は、激動の一年であった。
真との交際を咎められ、スカジョを中退。
それが原因で、母親と絶縁。
そして、妊娠・・・。
どんどん堕ちていった、元お嬢様の茜・・・。
しかし茜は真とは別れず、そして子供も堕さず一生懸命に生き抜いた。
そして春からプロ野球選手の奥様になる。
そしてもうすぐお母さんとなる。