フォーエバー・フレンズ -219ページ目

19、小さないのち(4)

二人はしばらくの間、クリスマスイブの大船の街を歩いた。

「さっきまで病院にいたんだ。茜、無事に赤ちゃん生まれたんだ。女の子だよ」

「そうか、よかったな。でも大変だっただろ?」

「もう大変だったよ。茜、泣きながら助けてえ!って叫んでた」

「そ・・・そうなのか?」

あの強い茜が泣き叫ぶのである。

男の陽一からすれば、それはとても恐ろしい光景に思え、思わず背筋がゾクッとしてしまった。

「でもね、すぐに生まれちゃったよ。たった20分」

「えっ?そ・・・そんなに早いのか?」

「うん。早い人は結構早いんだって」


そして二人は近くの公園へとやってきた。

二人は公園のベンチに座りながら、クリスマスの空気の澄んだ夜空を見上げた。

夜空にオリオン座がはっきりと見えた。

そして陽一は星を見ながら「俺、オリオン座が好きなんだよ」と言った

「どうして?」

「子供の頃さ、試合に負けると、帰る途中で親父に車から降ろされるんだよ。ここから走って帰れってね。あっという間にまわりは真っ暗になってさ・・・そしたらいつもオリオン座で方角を確かめながら走って帰ったんだよ。それからオリオン座をみる癖がついてしまったんだ・・・冬のオリオン座って綺麗なんだよな・・・」

「綺麗だよね・・・」

二人はしばらく冬のオリオン座を見つめ続けた。

そして恵は口を開いた。

「陽一、ごめんね・・・。私、この間あんな事言って・・・」

「いいよ。俺が悪いんだよ。恵は春から俺の進路を考えながら、自分の進路も考えていたのに、俺が突然メジャーに行くなんて言うから・・・。傷つけて悪かったよ。謝るよ・・・」

「いいよ。結局私も一人よがりなんだ。私、陽一の気持ちを全然理解してなかった。よく考えてみたら、これって陽一らしい事なんだよね。だって陽一の体には野球の血が流れてるんだもん。野球に夢を持っているんだもん。だからアメリカで野球をやりたいんだよね」恵はそう言うと涙ぐんだ。

「恵、ごめん・・・」

「私・・・そんな陽一を好きになったんだもん。がむしゃらで何かをやり遂げようとする陽一を好きになったんだもん。だけどいつの間にか陽一を自分勝手に動かしていたんだ」

「違うよ。恵がいてくれたから、俺はここまで来れたんだよ。恵がいてくれたから俺はメジャーに行けたんだよ。俺は恵だけをずっと好きでいたし、これからも恵だけをずっと好きでい続ける。恵だけが俺の事をわかってくれてるんだよ」

「陽一・・・ごめんね・・・本当にごめんね・・・アメリカまで行けなくて本当にごめん」

陽一は首を横に振った。

「大丈夫だよ。『蕪』で頑張れよ。恵は才能があるんだ。恵ならきっといい料理人になれるはずだよ」

そして二人は見つめあった。

「ねえ陽一、お願いがあるんだ」

「なんだよ」

「卒業まで、陽一のそばにいててもいいかな?私、勝手な事言ってると思う。だけどもう少しだけ私、陽一と一緒にいたいんだ」

「ああ、俺も恵と一緒にいたいよ・・・俺は恵だけが好きだよ」

「私も好きだよ。私も陽一だけが好きだよ」

陽一は恵の顔を見続けた。

「寂しそうな顔で見ないで。つらくなるから・・・」

そして恵は涙を拭って「そうだ!陽一お腹空いてるでしょ?ずっと外食だった思うから、久々にご飯作ってあげるよ」

「いいよ。折角のクリスマスイブなんだから、外でメシ食おうぜ」

「どこかいいとこあるの?」

「うん。俺、最近外食ばかりだろ?実はさあ、オムライスの美味しい店見つけたんだ。一緒に行こうよ」

「うん。わかった」恵は嬉しそうな顔をしたが、瞬時にいやな予感が頭をよぎった。

そしてその恵の嫌な予感は、見事に的中した。

陽一が連れてきた、オムライスの美味しいお店・・・。

それは、今にも崩れそうなボロ屋で、屋根が傾いていた。

そして換気扇は、長年の油がギットリとこびりついていて、しかも今時珍しく大村昆のオロナミンCの看板が掛けられてあった。

しかし陽一は、何も悪びれなく笑って「この店のオムライスが美味しいんだよ」と恵に言った。

「やっぱり・・・」恵は頭を抱えた。

やがて恵は笑い出した。

「あはははは」

「なっ・・・なんだよ。何がおかしいんだよ」

「やっぱり陽一だあ。やっぱり宇宙人だあ。あはははは」

「誰が宇宙人だよ」

「陽一は宇宙人だあ。あははは」

そして二人は、クリスマスイブの晩、陽一の行きつけの汚い洋食屋でオムライスを食べた。


ふんわりとした卵に包まれたオムライスは、崩れそうでくずれなく。

まるで今の恵と陽一のようだった。