19、小さないのち(5)
それから恵は陽一のそばを片時も離れなかった。
年が明け、陽一は真と一緒に学校で自主トレを行ったが、恵は珍しくその自主トレに付いてきたのだった。
恵はこれまで、物陰から陽一の野球を見ていたが、今は陽一と言う存在を真正面から受け止めるように見続けた。
報道陣もいる中、恵は何も気にせずに休憩中の陽一にタオルを渡したり、スポーツドリンクを渡したりした。
そして陽一が練習を再開すると、一人ベンチに腰掛けて陽一の姿を黙って見続けた。
それはまるでもうすぐ消えようとしている陽一の残像を自分の目に焼き付けるかのごとくだった。
真が休憩に入ると、恵は笑顔で真にタオルとジュースを渡した。
「はい遠山君」
「おお、サンキュ」
「茜は元気?」
「ああ、昨日退院できたよ。いろいろとありがとうな」
「抱っこは上手くなった?」
「それがさ・・・一人で抱っこができねえんだよ」
「どうして?」
「なんか潰してしまいそうでさあ。俺は手を伸ばすだけで、茜に真理を手の上に置いてもらってんだよ」
「あはは。遠山君て意外にデリケートなんだね」
「その意外ってなんだよ。俺は結構繊細だぞ」
そして恵は、グラウンドを走る陽一をじっと見つめた。
「なあ山野」
「何?」
「お前ロスに行けよ」
恵は黙って、遠くで軽快に走る陽一の姿を見続けた。
「陽一とお前は一緒にいなきゃ駄目なんだよ。お前ロスについていけよ。人生なんてなんとかなるって」
しかし恵は何も語らなかった。
「山野聞いてんのかよ。ロスに行け・・・・」
「ごめん遠山君・・・もうその話はしないで。私、泣いちゃうから・・・」
恵はそういうと、晴れ渡る正月のグラウンドを笑顔で見続けた。
しかしその目からは、今にも涙が溢れそうだった。
「山野・・・」
恵の表情は、何かを覚悟しているような表情だった。
そして恵は、遂に写真週刊誌に載ってしまった。
出版社が、もうすぐ卒業だからいいだろうと、勝手に載せてしまったのだ。
目の部分だけ隠してあったが、誰がどう見ても恵とわかった。
『徳永陽一の側で、自主トレに付き添う彼女』
『無言で徳永の姿を見続ける、笑顔の彼女』
『交際は、徳永の編入時からスタート』
週刊誌には、恵が陽一にタオルを渡す姿や、一緒にベンチで語り合う姿の写真が載った。
しかし恵は何も気に止めす、これからやってくる別れの日を前に、今日一日一日を陽一とともに大切に過ごした。