21、8のリストバンド(1)
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プロ野球開幕戦が始まった。
真はなんと開幕戦スタメン出場!
異例の大抜擢であった。
背番号は「1」
6番レフトで入った真は、開幕戦でいきなり度肝を抜く3連発の本塁打を放ったのだ。
甲子園球場の夜空に、花火のように上がる真の打球に、熱狂的な阪神ファンは酔いしれた。
華々しいデビュー戦。
それは新しい『若トラ』の誕生だった。
藤村富美雄、田淵幸一、掛布雅之・・・。
ルーキーの真は、今その名選手達の仲間入りをしようとしている。
名スカウトの若林部長の読みは見事に的中したのだ。
翌日、大阪駅に並ぶスポーツ新聞の一面は、真の名前一色だった。
その後も真はひたすら打ち続け、4月度の月間MVPへと輝いた。
そんな真を熱狂的な阪神ファンは、『マコっちゃん』と呼んだ。
「マコト!マコト!マコト!」
メガフォンを叩きながら、阪神ファンは懸命にこのニューヒーローの真を応援した。
5月を終えて、打率はなんと3割8分!
首位打者を独走していた。
そして打順は高校時代と同じく4番を打つようになっていた。
しかし、そんな真の活躍をよそに、陽一は泣かず飛ばずであった。
メジャー昇格ができずに、3Aのチームでひたすら移動バスに乗ってカリフォルニアをさまよっていた。
当初はメジャーへ行った陽一を話題に取り上げたが、メジャーへ昇格できない陽一を段々メディアは取り上げなくなっていった。
6月に入ると、真はさらに加速して行った。
打率365 11本塁打。
「打った!遠山は今日も打った!見事な3ラン!」
その状況をテレビで見ていた茜は胸を躍らせた。
「やったあ!」
思わずテレビを見ながら大声をあげてガッツポーズ。
すると奥の部屋で「おぎゃあ!おぎゃあ!」と真理の泣く声が聞えた。
「あっ・・・起こしちゃった・・・ごめんね真理ちゃん。今すぐ行くよ」
茜は奥の部屋へ行くと、泣く真理を抱っこした。
そしてマンションのベランダに出て、「よしよし真理ちゃん。いい子いい子」と言って真理をあやした。
そして夜空を見上げた。
「恵、頑張ってるかな・・・」
その恵は・・・。
恵は4月からランドマークに開店した『蕪』で毎日一生懸命に料理の仕事をしていた。
そして今日は、総料理長である北山道三が恵の料理を試食しにやってきた。
恵の料理を食べた北山料理長は、渋い顔をした。
「あの・・・どうでしょうか?」
「う~ん・・・調味料の分量も正しいし、焼き方と焼時間もすべて正しい・・・」
「そ・・・そうですか」
「でも、美味しくない」
「えっ?」
「山野、お前の作った料理はマニュアル通りの味で、以前俺にみせたような心の味が無い」
恵は北山料理長の言葉に黙り込んでしまった。
「調味料や火加減というのは、いつも一定なんだ。しかし素材と言うものは、いつも一定とは限らない。その年の気候や、収穫時期で変動していく。その素材に応じた調理ができていない。美味しく食べたもらいたいと言う気持ち。つまり心の味というものが無い」
「はい・・・すみません・・・」
「とにかく今の腕では、調理場に立たせるわけにはいかない」
北山料理長はクールにそう言うと、静かに席を立った。
どうしてだろう・・・。
どうして心の味というものが出せないの?
料理甲子園では、別に何かを意識したわけじゃない。
なのにあの時料理長は、心の味があると言ってくれた。
でも今の私には心の味が無い。
どうして?
どうして味が出ないの?
美味しく食べてもらいたいって、いつも思っているのに・・・。
恵も陽一と同じく、完全にスランプに陥っていた。
何故か、以前恵の作る料理にはあった筈の、心の味というものが無くなってしまっていた。
やがて恵は酒を飲むようになった。
陽一とも別れ、仕事も上手くいかない。
そして、不眠症になってしまい、毎日寝酒で日本酒を飲むようになった。
最初は一杯だけ飲んで寝たが、だんだんと量が増えて行った。
そして嫌な事つらい事を、酒で紛らわすようになっていった。
陽一・・・。
頑張ってるのかな?
私はあんまり上手く行ってないよ。
心の味って何だろ?