フォーエバー・フレンズ -202ページ目

21、8のリストバンド(10)

その晩、恵は自分の父親にロス行きの決意を話した。

「お父さん、私ロサンゼルスに行く。場合によっては帰ってこないかもしれない」

「恵・・・」

「陽一に会いたいの。陽一には身寄りがないの。私が行かないとだめなの」

恵は溢れんばかりに涙を流しながら、そう言った。

「野球の出来なくなった陽一の面倒を見れるのは私だけなの!お父さん!お願い!私をロサンゼルスに行かせて!」

すると父は、テーブルの上にそっと航空券を置いた。

それは成田発ロサンゼルス行きの航空券だった。

「お父さん・・・」

「お前もうすぐ20歳だよな。お父さん言ったよな。お前が20歳になるまではしっかりと面倒見るって。お父さんがお前に出来る事はこれで最後だ」恵の父はそう言いながら微笑んだ。

「お父さん・・・有難う・・・本当に有難う・・・」



翌朝、恵は鎌倉駅から成田エクスプレスに乗り、成田空港へと向かった。

そして今までの陽一との思い出を、車窓から見える鎌倉の景色を見ながら思い出した。



横須賀線の車内で出会った時の陽一・・・。




俺には野球の血が流れていると言って、たった3人の野球部に入った陽一。




「一応言っとくけど俺、お前が好きだから」という不器用な告白。




汐入駅で待ち合わせし、いつも帰り道のヴェルニー公園を二人で歩いた。




七夕の日、二人で手を繋いで歩いた御成通り。




甲子園から帰ってきて、鎌倉駅前でキスをした二人。




由比ガ浜のベンチで、二人身を寄せ合って眠った。



甲子園で優勝し、恵の肩にゴールドメダルを掛けた陽一。



そして最後の卒業旅行・・・。




いろんな陽一との思い出が込み上げてきた



野球が出来なくなったってかまわない。

なんとかなるよ。

きっとなんとかなるよ。

だって私達まだ若いんだもん。

絶対になんとかなる。



だからお願い。

生きて。

生きて、陽一。



そして恵は、成田空港からロサンゼルスへと飛び立った。

陽一に遅れて1年3ヶ月。

恵は陽一の後を追った。



真夜中のロサンゼルスは嵐が吹き荒れていて、横殴りの雨がパシパシと音を立て、病室の窓に叩きつけた。

陽一は深い眠りの中、ヴェルニー公園で恵と会う夢を見ていた。

陽一は、ヴェルニー公園で横須賀軍港を見つめていた。

すると恵が歩いてきた。

「陽一」

「恵・・・」

「久しぶりだね。彼女は出来た?」

「彼女?いるわけないだろ」

「どうして?」

「恵がいないから・・・」

「えっ?」

「恵がいないのに、彼女なんているわけないだろ・・・」

「陽一・・・」

「言っただろ。俺は、恵だけを好きでい続けるって。俺の気持ちは何一つ変わらない・・・出会った日から今までずっと。俺が好きな人は恵ただ一人だよ・・・」

恵は横須賀軍港を見つめた。

そして笑顔で「陽一帰ろう。一緒に帰ろうよ」と言った。

「ああ」

二人は横須賀駅へと歩いていった。



翌朝、嵐が明けた。病室のカーテンの隙間から漏れた光が陽一の顔を照らした。

そして陽一は、長い眠りから目を覚ました。

すると陽一のかすんだ視界に、恵の姿が写った。

「恵・・・」

「陽一・・・」



恵の目から涙が溢れた。

そして意識を取り戻した陽一を抱きしめた。

嵐の夜から朝にかけて、陽一の側にずっとついていたのは恵だった。



そして恵は、日本には帰ってこなかった。



その後陽一は奇跡的な回復を遂げ、1ヵ月後には見事復帰を果たし、再び快進撃を続けた。

そしてシーズン終了後、陽一は見事その年のナ・リーグのホームラン王と打点王の2冠に輝いた。

しかしそんな陽一も、シーズン終了後の契約更改には代理人すら雇わなかった。

そして200万ドルの年俸のほとんどを児童施設の設立資金にまわした。

陽一はアメリカでも相変わらずの宇宙人ぶりで、お金には全くの無頓着な姿勢を見せた。

世間は「ヨーイチはクレイジー」と言って笑ったが、そんな陽一は今までの日本人メジャーリーガーの誰よりも人気があった。

 

そして恵・・・。



恵は、ロサンゼルスのダウンタウンの一角に、小さなお惣菜店をオープンさせた。

お店の名前は『メグ・ランチ』。

恵のオープンさせたお惣菜店は、連日大盛況。

そして2号店を出さないかという話も、さっそくもちかけられた。

しかし恵は、2号店を出す事は考えなかった。

たった一つの店の、たった一人の料理人として、そしてたった一人の愛する陽一とともに生きようと思ったからだ。

そしてたまに調理場の物陰から、自分の作ったお惣菜を買っていく人達を、嬉しそうに見つめていた。

この割烹着を着た、地味な日本人調理師の恵を、誰もメジャーリーガーの奥様だとは気付かなかった。



そして・・・。



ある日茜がパソコンを操作していると、一通のメールが届いていた。

それは恵から、海を越えてやってきたメールだった。

そして添付されていた画像を見ると、茜の顔から自然と笑みがこぼれた。

「ママ、ママ」

「はーい、ちょっと待ってね」

茜は真理に呼ばれて席を立った。



添付されていた画像は、恵と陽一の結婚式だった。

ロサンゼルスの海辺の小さな教会で、二人は結婚式を挙げた。

そしてウェディングドレス姿の恵の笑顔は、とても幸せそうな笑顔だった。



WEDDING - 写真素材
(c) LEICAストック写真 PIXTA



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