12、春ー3
ジュリの母は暗い部屋で、一人ソファーに座っていた。
すると玄関先から「ただいま・・・」と声が聞こえた。
その声に気付き振り返ると、するとそこにはジュリが立っていた。
「おかえり・・・」
するとジュリは、「お母さん、黙って家を出てすみませんでした」と言って母に深く頭を下げた。
「うん・・・わかった。もういい」母はそう言って小さくうなずいた。
「それと私、天使やってみます。私、天使になります」
「あんた・・・」
「私、馬鹿だから、これからもお母さんに迷惑かけるかもしれない。でも、頑張って天使をやってみる。お母さんのような立派な天使にはなれないかもしれないけど、頑張って天使をやってみる」
「天使は甘くないわよ」
「わかってる。私、いろいろな魂と真正面に向き合える天使になりたい」
「そう・・・わかった。頑張りなさい」
「それとお母さん、これお土産」そう言うと、ジュリは小さな箱を母に手渡した。
「なにこれ?」そう言いながら母がその箱を開けると、中にはワッフルが入っていた。
「これ、あんたが作った・・・」
「そう、『天使のワッフル』。これからもたまには作ってあげるよ」
そんなジュリの言葉に、母は苦笑いをした。
するとその時、ジュリの左手に、白い腕時計がはめられている事に気がついた。
「あんたそれ!」
「Gショック!白だからいいでしょ?」ジュリはそう言うと、恭介からもらったそのGショックの時計を母に見せて、ニコリと微笑んだ。
そして、いよいよ天使学校の卒業式の日がやってきた。
天使講堂には、これから天使になろうとする卒業生達が、沢山イスに座っていた。
みんな、みんな、これからの天使達である。
そしてその中に、白い天使服に身を包んだレナとジュリの姿があった。
学長が前に立つと、卒業生一人一人の名前を読み上げていった。
「ジュリ天使」
学長にそう呼ばれると、ジュリは「はい」と言って、前へ出て行った。
すると学長は、美しく光り輝く天使の輪を、ジュリの頭の上に乗せた。
「レナ天使」
「はい」
ジュリと同じようにレナにも天使の輪が乗せられた。
そして二人は、笑顔でお互いの頭上に光る天使の輪を見つめあった。
卒業式が終わると、レナとジュリはまっさきに校庭へと走り出し、そして「ヒャッホー!」と叫んで、頭上に光る天使の輪を、青空にむけて高く飛ばした。
人間界で多くの事を学んだ二人。
天使とは一体なんなのか?
それは人間界で人生を全うした魂を、天使の世界へと導いていく。
それが天使である。
しかしそれは簡単そうに見えて、決してそうではない。
なぜならそれぞれの魂に悩みがあり、考えがあり、そして伝えたい言葉があるからだ。
魂は機械ではない。
それぞれに個性があるからこそ、それぞれに違った動きをする。
そしてそれを迎えに行く天使は生き物である。
生き物であるからこそ、泣いたり笑ったり、そしてたまには間違いを犯したりもする。
上手く行かない時だってある。
でも決して忘れてはいけない事。
それは、天使は空ばかり見ていてはいけないという事だった。
ジュリ。
レナ。
卒業おめでとう。
そしてこれからも立派な天使で。