フォーエバー・フレンズ -110ページ目

1、愛されなかった兄(1)

直哉は誰もが追いつけない程の、長距離ランナーだった。

中学1年生の頃からその頭角を現し、長野県大会の1万5千メートル走では、ぶっちぎりの優勝。そして高校2年生の時は国体でも見事優勝。

そんな無敵のランナーの直哉を、父は物凄く寵愛してくれた。

勿論、当初は兄の恵一にもランナーとしての期待を寄せてはいた。しかし、残念ながら兄にはその才能が無く、父の長距離ランナーとしてのDNAは、弟である直哉に受け継がれたのだ。

父は中卒だったが、かつては県大会で優勝した事がある程の、長距離ランナーだったそうだ。しかし家庭の経済事情の為、大学どころか高校すら進学する事が出来ず、箱根駅伝の夢をあきらめてしまった。

中学卒業と同時に、土木作業に従事する事となってしまった父。そしてそんな自分の夢を息子に託そうとした父は、小さな土建屋を営みながら、直哉を長距離ランナーに育てようとした。

「直哉、お前、順天堂大学に入れ。そして箱根駅伝に出ろ」

それは昔からの父の口癖だった。しかし順天堂大学に入ったのは直哉ではなく、医者を志す8歳違いの兄の恵一だった。勿論駅伝選手としてではなく、医学部生としてだった。

兄は子供の頃から成績優秀だったが、父は、そんな兄の恵一の事をとかく毛嫌いしていた。

「屁理屈ばかり多くて、愛想が無い。挙句の果てに金のかかる医大になんか行きやがって」

よく酒を飲んでは、そんな兄の悪口を言っていた。

直哉が順天堂大学のランナーになる事は望んでも、兄の恵一が順天堂大学医学部に合格した事は喜びもしなかった。

親の愛情を独占した直哉。そしてそんな家庭環境の中、直哉と恵一の仲は段々と険悪になっていった。

そのせいか兄の恵一は、医師の国家試験に合格しても、地元長野の佐久へは帰ろうともせず東京の救急病院で働く事となった。勿論盆正月でも帰郷する事はなかった。

そしてもともと酒とタバコの大好きだった父は、直哉が高校二年生の時に、突如心筋梗塞の為あの世に逝ってしまった。

本当にあっという間の出来事だった。

佐久市内の葬儀会場にて父の通夜が行われたが、その時も恵一は、涙一つ見せもしなかった。そして通夜が終わり、直哉が「オヤジ・・・オヤジ・・・」と言って、亡き父の遺体を見て涙を流していると、恵一は直哉の側へやってきて「オレ、全然悲しくないんだよ・・・」と一言。

「なんでだよ!」直哉が声を荒げてそう言うと、恵一はそれ以上の事は何も話さなかった。

直哉は、はっきり言って兄の恵一の事が嫌いである。直哉から見て兄の恵一は、氷のように冷たい性格の持ち主であり、人間としての感情が全く伝わってこないのである。

背が高くてハンサムなのだが、ニコリとも笑いもせず、口はいつもへの字口。その姿はまるでいつも怒っているかのようである。

子供の頃から親に可愛がられて育った直哉は、素直な心を持っていたが、愛されなかった兄は、かなりのひねくれ者だった。

そして直哉が高校3年生の頃、大きな事件が起きた。

なんと、練習中にアキレス腱を断絶する大怪我を負ってしまったのだ。国体まであと一週間と迫り、猛練習をしていたのだが、その最中、突然「ブチッ」と言う音とともに、強烈な痛みが左足に走ったのだ。

「うわああ!」

その場でばったりと倒れ、救急車で病院に搬送された直哉。まさしく致命傷だった。

その結果直哉は、進学がほぼ決まっていた順天堂大学を諦めなければならかった。

いや、諦めたのは順大だけではない。陸上選手として生きる道を諦めざる得なかったのだ。