2005・伊 ★★★★☆(4.8)
監督:クリスティアーノ・ボルトーネ
出演:ルカ・カプリオッティ シモーネ・グッリー パオロ・サッサネッリ フランチェスカ・マトゥランツァ
1971年 イタリア・トスカーナ。
10歳のミルコ(カプリオッティ)少年は、何処にでもいる様な元気な普通の少年であった。
玩具を分解しては、中がどうなっているのか見てみたり…。 映画も大好きな少年であった。
今夜も、父親と約束のウエスタン作品を見に行った。 銃撃戦のエキサイティングな作品であったのだが…。
友人と遊んでいると持っていた玩具が壊れた為に、自宅で修理しようと戻って来たミルコ。
偶然的に自宅には誰も居なかった。 そして、フト見上げたその先にライフル銃が壁に掛けてあった。
この間見たウエスタン映画の興奮を思い出し、銃をどうしても触ってみたくなったミルコは椅子の上に箱を乗せて
その上に立って、銃を手に取って見た…。
が、その時、父親のミルコを呼ぶ声が聞えた…。
その声に慌てたミルコは不安定な箱と共に椅子から転落するのだが、偶発的にも事故が起こってしまうのだった。
転落する際に銃が暴発し、血まみれのミルコは床に叩きつけられ倒れてしまう…。
銃声を聞いた父親は慌てて駆けつけ、ミルコを抱きかかえ病院へと連れて行ったのだが…。
幸いな事に命さえ落としかねない事故に遭いながらも命拾いした事は奇跡に近いと医者にも言われた。
が、その瞳で2度と楽しい映画を見る事は出来なくなってしまう。
当時イタリアの法律で盲人は普通教育を受ける事は禁じられ、自宅から離れた全寮制の盲学校に入る事となった。
しかし、盲学校とは名ばかりで勉強を教える代わりに、将来的に仕事に就く為の訓練校という感じ。
ミルコは、ついこの前まで普通校に通い成績もかなり良く出来た子供であったのに…。
両親も、ミルコが自分達の手から遠く離れしかも好奇旺盛なミルコに教育を受ける資格が無くなってしまった事に
心を大層痛めるのであったが、法律で定められている以上仕方の無い事であった。
5年生のクラスに編入したミルコは、食堂で隣の席になったちょっと太っちょのフェリーチェ(グッリー)と友達になる。
まだ、その頃はミルコの目にはかすかな色彩を感じ取る視力は残っていた…。
なのに授業は、完全に全盲人扱い。 初っ端から反発するミルコ…。
点字で作文を書く事も、物を触り匂いを嗅いで物のイメージを掴むと言う事にも全く参加しない。
「僕は目が見える」と担任のジュリオ神父(サッサネッリ)の話さえ聞こうとはしない。
休み時間に校庭に出たミルコはフェリーチェに誘われて木の上に登る。
クラスの虐めっ子から身を守る為に此処に居るとフェリーチェは話す。
「そんな奴は熨してしまえ」そう、言い放つ強気なミルコ。 その返事に驚くフェリーチェはミルコを頼もしく思う。
そして、生まれついての全盲のフェリーチェが色についてミルコに質問する。 「色ってどんな感じなの?」
そんな話をしていると、話に出ていた虐めっ子が「女みたいだ」と囃したて、梯子を外すぞと嫌がらせをしだす。
木から降りたミルコは、虐めっ子と取っ組み合いの喧嘩になるのだが、シスターに止められてミルコは
編入早々、寄宿室に謹慎処分になってしまう。 悪いのは、自分だけでは無いのに…。
ミルコだけが謹慎処分となり、皆のベッドのベッドカバーを投げ捨てたりと物に八つ当たりしていると、戸棚の中に
古いテープレコーダーが置いてあるのに気付いた。
色々な音を録音しテープを繋げて、音だけの物語を作り出す事に楽しみを見出すミルコ。
物語作りには、フェリーチェにも手伝って貰った。
お互いに色々な音を録音する為に、その音に近い音を探したり作ったりして楽しんだ。
寄宿舎の寮長の仕事をしている母親の一人娘のフランチェスカ(ストゥランツァ)は、生徒とは遊んではいけないと
母親にキツク言われていたにも関わらず、ミルコに興味を持ち秘密の場所を教える。
フランチェスカの壊れた自転車を修理したミルコは、フランチェスカと自転車に乗って学校を抜け出して
映画館に行ってみる。
もうすぐ、大人なんだけれども小学校に入学するというコメディ作品のポスターが貼ってあった。
ミルコは何度も見た作品だった。 帰りに、道を塞ぐ様に歩くデモ隊と出くわす。
その中に目の不自由な青年でミルコと同じ盲学校出身のエットレと出会う。
出来上がった音の物語のテープは、フランチェスカに聞かせてやるミルコ。
余りの出来の良さに目を輝かせて、楽しむフランチェスカだったのだが、規律に厳しい校長は許可無く
テープレコーダーを使用した事に怒り、ミルコからテープレコーダーを取り上げてしまう。
だが、ミルコの一風変わった素晴らしい表現力に気付いたジュリオ神父は、校長に内緒でこっそり
テープレコーダーを与えてやるのだが…。
《***》
この作品は、現在イタリアで第一線で活躍中の音響編集者(サウンドデザイナー)ミルコ・メンカッチの
実体験を基に描かれたストーリー。
事故以前のミルコは大変映画好きな少年だった。
そのミルコが事故により視力を失った後にも、大好きな映画に携わる仕事を続けいる事が途方も無く
嬉しいかったし、泣ける作品であった。(悲しくて泣けるのではなく、嬉しくて…!)
が、残念な事に当時のイタリアは共産国として障害者には普通教育を受ける権利も無く、反対に職業を
身につける専門校に入らなければならないと言う法律があった為に、親の愛情を無条件で欲しがる年頃に
寄宿舎生活を余儀無くされてしまうミルコ。
しかし、多くの生まれついての全盲の子供とは違い、ついこの間まで視力のあったミルコは急に盲人扱いを
受ける事を幼いながらも、全身で拒否する。
この態度は学校長や堅物のシスターから見れば、単なる我儘な少年に写ったのだが、担任となるジュリオ神父に
出会えた事は、ミルコに取ってもそれまでは校長に従順だったジュリオ神父に取っても、保守的な社会から
希望の光に向かって突き進む第1歩を踏み出す結果をもたらす。
映画を愛してやまない私にとって、やはり映画好きの少年ミルコが大人になり現在は映画の関係の仕事に付き
第一線で活躍していると言う事を知らしめたこの作品には、心の底からエールを送りたい気持ちで一杯なった。
だが、この作品について感動した部分はそれだけでは無く、ミルコや他の少年達から発せられる台詞の
素晴らしさ、表現力の凄さに打ちのめされた。
生まれた時から全盲で、暗闇しか知らず色のイメージが全く湧かないフェリーチェが「色ってどういうの?」と言う
質問をミルコにする。
元々色のある世界で当たり前の様に過ごしている私には、ミルコの様に色についての表現は絶対に出来ないと
思った…。
「僕の好きな色は青」 「青ってどんな色なの?」 「走っている時に風を感じる時の色…」
もし、この会話をジュリオ神父が聞いていたら、もっと早くにミルコの才能に気付いてやれたのかもしれない。
ミルコ役のルカは、実際には視力のある少年が演じているのだが、本当に全盲のフェリーチェ役のシモーネは
撮影現場でミルコの様に自分なりの方法で音集めをし、監督に聞かせて相当監督を驚かせた少年だったらしい。
後半、クラスの皆も巻き込んで音の物語制作をしだす少年達の生き生きした表情は、本当に素晴らしく見ている
こちら側にもワクワクする気持ちや楽しさなどが、ストレートに響いてくる。
映画好きの人達には、是非見て貰いたい一作であった。
《+++》
昨日は、この作品を見る為に始めて行く映画館に行った。
駅から3分の筈だったのだが、グルグルと15分ほど歩いて探し回った。
何と、カラオケと一緒の中2階に劇場が2つあると言う小さな映画館で見つからない筈であった。
けれど、会員になればこの作品の様な良作のミニシアター作品が何時でも1000円で見れるというので
即会員になった。
しかも、2年間有効で500円。 其処にポイント制もついて、何と良心的な映画館だろうかとちょっと嬉しくなった。
商店街の中のちっちゃな映画館だが、帰りには八百屋さんで野菜を買いながら帰宅した。
次回から、この映画館に来る時は「エコバッグ」を持参しようと心に決めた。
久々の小売商店の商品を店主の方達と話しながら、時には値切るのもとっても楽しい。
良作を見て新鮮な買い物も出来るなんて、一石三鳥位のお得感を味わえた1日であった。