京都大学大学院教授、酒井敏(さとし)氏の心に響く言葉より…

 

 

「アホなことせい」…京大の先生にそう言われて面食らったのは、もう40年以上も前のことです。

 

いまではその大学で教壇に立ち、「京大変人講座」も主催する私ですが、当時は静岡の高校を卒業して、京大の理学部に入学したばかりでした。

 

頑張って受験勉強をして合格したと思ったら、そこの先生に「アホ」なことをしろと言われたのですから、ポカンとするのも無理はありません。

 

それもひとりではなく、何人もの先生から同じような言葉を聞きました。

 

 

大阪の吉本興業にでも入ったならともかく、そこは大学です。

 

18歳の私は、それなりに向学心を持って京大の門をくぐりました。

 

建て前としては、マジメに勉強するのが大学生の本分だと思っていたわけです。

 

自分なりに「こういう研究をしてみたい」というテーマもありました。

 

 

ところがその大学で、先生に「しっかり勉強しなさい」と言われた記憶がない。

 

いや、もしかしたら、そんな建て前を口にした先生もいたのかもしれません。

 

しかし仮にそうだとしても、「アホなことせい」の衝撃が強すぎて、「勉強しなさい」という当たり前のお説教はどこかに吹っ飛んでしまったのでしょう。

 

それぐらい、京大入学時には何度も「アホ」の大切さを強調されました。

 

 

「おれはこれから、アホなことせなあかんのか…」

 

覚えたての関西弁で、そんなふうにボヤ来たくなる気分でした。

 

では、京大で求められた「アホなこと」とは何なのか。

 

最初はわけがわかりませんでしたが、この大学でしばらく過ごしているあいだに、それがあんがい深い意味を持っていることが徐々にわかってきました。

 

 

「アホなことせい」は、人前で裸踊りや百面相みたいな面白おかしい行動をしろという意味ではありません。

 

ここで言う「アホ」は学生の本分である学問や研究のあり方にかかわるものです。

 

もちろん、京大生が卒業式の仮装みたいな「アホな行動」をするのも、メンタリティ的にはそれといくらか通底する部分もあるでしょう。

 

でも、それだけでは「京大的アホ」とはいえません。

 

 

では、どうして学問や研究に「アホ」が求められるのか。

 

ふつうは賢い人間がやるのが学問だと思われているので、「アホじゃ困るだろう」と言われそうです。

 

でも、この「アホ」は「賢い」の反対語ではありません。

 

「常識」や「マジメ」の対立概念です。

 

 

そもそも学術研究は、すでに誰かがやったことをなぞっても大して価値がありません。

 

それまで誰も気づかなかった真実を明らかにするのが、研究のあるべき姿です。

 

したがって研究者は、従来の「常識」にとらわれていてはいけない。

 

高校までの勉強は先人が積み重ねてきた常識を学ぶのが主眼ですが、大学の研究はそこから逸脱する必要があります。

 

 

とはいえ、たとえば天動説から地動説への転換に長い時間がかかったことを見ればわかるように、古い常識を捨てて新しい真実にたどり着くのは簡単ではありません。

 

物事をマジメに考えているだけでは、「非常識」な真実は見えてこない。

 

常識を破るには、いったん正常な思考回路を停止する必要があります。

 

まともに考えるのを、やめる。

 

それが、「アホ」の意味にほかなりません。

 

 

もっとも、非常識な「アホ」は当たれば大ホームランになるものの、打率は高くありません。

 

10回のうち9回、いや100回のうち99回、いや1000回のうち…キリがありませんが、とにかくアホな試みのほとんどは空振りに終わります。

 

したがって、成果を上げるためには、失敗に挫(くじ)けることなく何度も何度も打席に立つ必要がある。

 

空振りに終わるたびに、それこそ世間から「アホやなぁ」と呆(あき)れられてしまうのですから、これにはかなりタフな精神力が求められます。

 

やれば確実に結果が出るような常識的な研究のほうが、ある意味で楽だともいえるでしょう。

 

 

だから「アホなことせい」は、決してお気楽な教えではありません。

 

それはもう、泣きたくなるほど「アホ」と言われ続けて、ようやくひとつの大発見にたどり着くのですから、なかなかどうして険しい道のりなのです。

 

しかし、京大では、その「アホ」になりきれるかどうかが勝負。

 

失敗しても「すんまへん、すんまへん、わしらアホやから堪忍してや」と低姿勢で開き直りながら、したたかに「アホ」を貫く雰囲気が昔の京大にはありました。

 

私自身、その姿勢を身につけるのが、京大での研究者修行の第一歩だったように思います。

 

 

また、非常識な「アホ」を正当化するには、常識とは違う評価基準がなければいけません。

 

ふつうは「役に立つかどうか」が評価の物差しになるのでしょうが、「アホ」は何しろ打率が低いので、その基準では評価しにくい。

 

そのため京大では、「役に立つ」ではなく「おもろい」がホメ言葉だといわれていました。

 

 

一見すると役に立ちそうにもない研究でも、「まあ、それも一理あるか」とか、「それもアリかもしれん」などと思えれば、やってみる価値はある。

 

それが「おもろい」の意味です。

 

そこには、ほとんど理屈はありません。

 

もちろん、数字で比較できるものでもない。

 

かつてコラムニストの天野祐吉さんが「面白いというのは目の前がパッと明るくなること」だと喝破されていましたが、京大の「おもろい」もそういう感覚的な評価基準です。

 

 

京大的アホがなぜ必要か カオスな世界の生存戦略 (集英社新書)

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村上和雄氏は「アホは神の望み」(サンマーク出版)の中でこう語っている。

 

 

『「愚かさを守る」とは、鈍く、遅く、重い生き方をしながら、自分の中の「愚」をひそかにしっかりと守ること。 

 

その深く大きな愚かを一生涯かけて貫くこと。 

 

神が望んでいるのはそういう生き方ではないでしょうか。 

 

スティーブ・ジョブズ流にいえば、「Stay foolish」、かしこく小さくまとまるよりも、大きな愚か者であれ。 

 

器の大きなアホであれ。 

 

天の理が求め、サムシング・グレートが喜ぶのは、人間のそういう心のあり方や生き方なのだと思います。 

 

「陽気な心」もその一つでしょう。 

 

明るく前向きで、いつも喜ぶことや笑うことを忘れない心です。 

 

いい加減でいいとはいいませんが、パーフェクトばかり求めていても人間は行き詰まってしまうのです。 

 

心も苦しくなるばかり。 

 

だから、「ああダメかな」と思ったら、鏡の前で一人、ニッコリ笑ってすませてしまえばいいのです。 

 

笑えば邪気や暗い心も少しは晴れ、やり直そうという気持ちもわいてきます。 

 

人間、笑えるうちは大丈夫。 

 

人生は勝ち負けではないが、泣くよりは、たくさん笑ったほうが勝ちなのです。 

 

そういう笑い上手、喜び上手な人が神さまから好まれる人でもあり、笑いや明るい心を保つ「陽の力」が体の健康を回復、増強し、いい遺伝子のスイッチをONにする効能があるのです。 

 

そのような喜びの心、おかげさまの心、つつしみの心。 

 

そういうものが私たちの体を満たしたとき、私たちの命はいきいきと豊かに息づき、私たちの人生も幸福への歩みを始めるのではないでしょうか。 

 

したがって、いっけん鈍重に見え、愚かとも思える生き方こそが、実は苦しいこの世を生きていくために神が人間に授けた知恵である…

 

そのことをできるだけたくさんの人に知ってもらい、また、実践してもらうために、私は残されたこの世での時間を精いっぱい使いたいと考えています。』

 

 

行徳哲男師は、人間の魅力は「素・朴・愚・拙」の四つの言葉で表すことができる、という。 

 

素とは、何も身につけない、飾らない魅力。 

 

朴とは、情があり、泥臭い朴訥(ぼくとつ)とした魅力。 

 

愚とは、目から鼻に抜けるような鋭(するど)さではなく、自分を飾らずバカになれる魅力。 

 

拙とは、上手に生きるのではなく、不器用でヘタクソだが一途(いちず)な魅力。 

 

自分の損得を先に考えず、人の利を先に考える生き方。 

 

お先にどうぞと、自分を後回しにし、少し損をすることを厭(いと)わない生き方。 

 

効率を求めるのではなく、ボーとして、鈍(にぶ)い生き方だ。

 

 

「潜行蜜用 如愚如魯(せんこうみつようは ぐのごとく ろのごとし)という禅の言葉がある。 

 

目立たぬよう、際(きわ)立たぬよう、誰がしたかわからないように、ひそかに淡々と、日々自分のベストを尽くすこそが大事だ、ということ。 

 

愚の如く、魯の如くとは、愚(おろ)かな人のように、魯鈍(ろどん・頭の動きの鈍い人)のようにということ。

 

 

「アホなことせい」

 

人生、面白おかしく、愚に徹して生きるのもいい。

 

 

 

 

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