小西美術工藝社社長、デービッド・アトキンソン氏の心に響く言葉より…
残念なことに、私が来日してからの31年間で、世界一輝いていた日本は先進国の中で第2位の貧困大国になってしまいました。
生産性にいたっては第28位まで下がり、大手先進国中最下位になってしまいました。
しかも、このままでは少子・高齢化の進行にともない、日本の貧困はさらに進み、国家存続の危機を迎える事態になることすら予想される状態が続いています。
なぜなら、1950年には12.1人の生産年齢(15歳以上64歳未満)の人間が1人の高齢者を支えていましたが、2050年には1.3人で1人の高齢者を支えることになるからです。
現役世代の1人ひとりが、高齢者1人分の年金と医療費の76.9%を負担しなくてはいけなくなるのです。
この割合は1950年には8.3%でしたので、負担比率は実に9.3倍も膨らむのです。
現役世代は当然、自分の生活を守らなくてはなりません。
その上で高齢者を支える負担がのしかかってくるのですから、とにかく仕事の付加価値を高め、給料をより多く増やしてもらわなければ、とても耐えることなどできません。
日本で現役世代の給料を増やすための方法は、たった1つしか残されていません。
日本企業が強くなること、それだけです。
ご存知のように、日本企業の大半は、規模の非常に小さい中小零細企業で占められています。
この構造を、大企業と中堅企業を中心とした産業構造に再編することが、日本人全体の給料を増やすための唯一の方法です。
産業構造を大企業と中堅企業を中心に変えることができれば、日本でも生産性が上がり、給料も増えます。
そもそも国によって生産性が異なる最大の要因は、それぞれの国でどの規模の企業に労働者を分配しているかの違いにあります。
たとえば、3000人の労働者を従業員数1000人の3社に分配するか、従業員数1000人の1社と従業員数2人の1000社に分配するかによって、その国の生産性は大きく変わります。
小さい企業が増えるほどその国の生産性が下がるのは、世界共通の現象です。
日本は人口が多く国内にも大きな市場があり、技術レベルも高いので、本来であれば企業の平均規模が大きく、生産性が高い国のはずでした。
しかし、今までのとられてきた経済政策の影響で、日本企業の規模は異常とも言えるほど小さいままになっています。
あるデータによると、日本企業の平均規模はアメリカの45.3%にすぎません。
製造業以外だと、日本企業の規模はアメリカのたった26.7%です。
つまり日本企業は小さすぎ、それゆえに弱すぎるのです。
企業の規模が小さくなればなるほど生産性が下がり、給料も下がるのは経済学の原則です。
日本の生産性が低い原因は、全企業の半分強の企業の売上が平均して5000万円しかないくらい、小さい企業が多いからです。
簡単に言えば、日本では経済合理性の低い産業構造のまま、規模の小さい企業に労働者が大量に分配されてしまっています。
だから、せっかく能力の高い人材が豊富にいるにもかかわらず、彼らの力が有効に活用されることもなく、多くがムダにされているのです。
その結果として、せっかくの技術力が発揮されない、給料が上がらない、過酷な労働環境で働かなくてはいけない、有給休暇が取れない、女性活躍が進まないなど、さまざまな弊害が生じてしまっているのです。
これが国家の貧困化、年金不足、少子化の進行へとつながっています。
日本の産業構造は非常に歪んでいますが、その原因は国の政策にあります。
経営者が国の政策に対応した結果、小さな企業を中心とした産業構造が生まれました。
政策によって生まれた歪みですから、政策によって是正することができます。
人口増加の時代が終わり、人口減少のフェーズに変わるのであれば、日本企業も変わらなくてはいけないのが道理です。
経済合理性を高めるしかありません。
経済合理性を高めるとは「dynamism」を高めることです。
企業の成長です。
中小企業は中堅企業か大企業を目指す。
それができない企業は、今後ますます貴重になる「人材」という資源を、成長する企業に譲るべきです。
それには、国の政策転換が必要となります。
まずは、経済政策の最大の目標をGDP成長率や雇用確保から、生産性向上にシフトするべきです。
それを実現するために、企業規模を基準にした従来の単純な中小企業支援策を、企業の成長を促す支援に変えていかなくてはなりません。
たとえば日本には「中小企業庁」がありますが、これを「企業育成庁」に変えることが求められます。
企業の合併・統合を促し、中小企業にかぎらず、あらゆる企業の成長を応援する政策に舵を切るのです。
企業にとって、中小企業であることは目的でも終着点でもありません。
中堅企業や大企業に成長していくための通過点であるという認識を、日本経済の産業政策の軸にすえる必要があります。
あわせて、日本企業の大半を占める成長しない中小企業の経営者を動かす必要があります。
国際的に見て極端に低い日本の最低賃金は、中小企業にとって最大の優遇策となっています。
これを毎年5%引き上げることで、産業構造の歪みを是正し、経済を再び輝かせることが急務です。
当然、多くの経営者はこうした政策変更には反対しますが、実はこれらの政策変更は、彼ら経営者のためでもあるのです。
これからは人口減少が進むので、人材の確保はどんどん難しくなります。
それにともない、給料も上げなくてはいけなくなります。
すると、生産性を上げ、より高い給料が支払える企業に人が集まる一方、生産性向上ができない企業は人材確保が難しくなり、結局廃業を余儀なくされます。
結果として、これからも日本企業の数は大きく減ります。
企業の数が減ることに関しては「失業者が増える」と懸念する声もあります。
しかし、冷静にデータを精査して真面目に分析すれば、懸念自体が的外れなのがすぐにわかります。
2011年に比べて、すでに企業の数は60万社以上も減っているのに、雇用は370万人も増えているのです。
『日本企業の勝算―人材確保×生産性×企業成長』東洋経済新報社
デービッド・アトキンソン氏は「日本のサービス業」についてこう語る。
『日本のサービス産業の生産性が低い最大の理由は、サービス産業の企業規模がきわめて小さいからにすぎません。
しかし日本には、物事の因果関係を検証することもなく、生産性が低いことと、その産業の特徴を無理やり結びつけて、強引な理屈を振りかざす人が少なくない印象を強く持っています。
今の日本企業は、人口が増加していた時代にできた制度に過剰適応しています。
人口減少時代に変わった以上、根本から変革するしか選択肢はないのです。』
コロナ禍により、様々な日本の問題点が浮き彫りになってきた。
失われた30年とともに、ITやデジタル化の遅れ、人口減少による年金問題、人手不足、先進各国との給料や待遇格差、働き方…。
いずれも、以前からあった問題が、ここで顕在化したに過ぎない。
あるコンサルに以前言われたことがある。
「中小企業は今人手不足で困っています」と質問したところ、
「それは、簡単です。大企業と待遇と給料を同じにすればいいだけです」と。
それを聞いて、「そんなのは当たり前だろう、それができないから聞いたのに、何と言う回答だ」とその時は、憤りを通り越してあきれてしまった。
しかし、後から考えると、「なるほど、その通りだ。そうなるように努力するしかないな。それが目標だ」と思い直すことができた。
アトキンソン氏の生産性の話をすると、憤る人がいる。
しかし、憤る人は、結局は現状を「しかたない」と肯定し、それを変えようとしない人だ。
成長する人は、「なるほど、そうするしかないな」と自分を変革に駆り立て、行動を起こす。
まずは、自社の生産性を、限りなく高める努力をする人でありたい。
■メルマガの登録と解除はこちらから
■「人の心に灯をともす」のfacebookページです♪
http://www.facebook.com/
■【人の心に灯をともす】のブログはこちら
■Twitterはこちらから