角田識之(すみだのりゆき)氏の心に響く言葉より…

 

 

奈良県の南西部に位置し、吉野杉の主産地である緑豊かな村・川上村。

 

この川上村にある村営の温泉旅館「ホテル杉の湯」。

 

大自然の中の小さなホテルから、この物語は始まっていきます。

 

 

2月のある寒い日のことでした。

 

いつものように宿泊予約のベルが鳴り、スタッフの中川さんは、応対に当たっていました。

 

電話の相手は、若い男性客でした。

 

 

宿泊希望の春は、吉野山の桜見物のお客様も増える時期、開花予測などを含めながら丁寧に話をしていたときでした。

 

ふと、電話の向こうの男性が神妙な声になり、少し恥ずかしそうに、こう言ったのです。

 

 

「あの…、桜のきれいな場所を教えていただけませんか?

 

実は…、桜の花が大好きな彼女にプロポーズしたいのです」

 

 

中川さんは、初めての申し出に戸惑いながらも、「わかりました。満開の次期を少し過ぎていますけど、探してみます」と、快活に答えました。

 

今までの杉の湯なら、「川沿いの桜がキレイですよ」というくらいの返事で終わっていたかもしれません。

 

しかし、この年の年頭の会で、「ホテル杉の湯はお客様と共に感動するホテルを目指す」という理念を、全員で共有したところでした。

 

中川さんの心の中にも、「お客様に喜んでいただきたい、お役に立ちたい」という思いが、わき上がっていたところだったのです。

 

 

中川さんからの報告を元に、早速、スタッフミーティングが開始されました。

 

「どこがきれいだろう?」

 

「どうしたら、彼女に喜んでもらえるのかな?」

 

「絶対うまくいってほしいなぁ!」

 

と、全員がまるで親友の手助けをするかのように、真剣にかつ笑顔で、心躍らせながら話し合いを重ねるのでした。

 

 

そしていよいよ、二人の宿泊日がやってきました。

 

一重の桜の時期を終え、八重の桜が満開の時期。

 

事前にスタッフとその男性・ヒロ君は、綿密な打ち合わせをし、この日を待っていたのです。

 

 

二人のために選んだ場所は、杉の湯の兄弟施設「匠(たくみ)の聚(むら)」。

 

ここの喫茶コーナーは景色も最高で、雨が降っても大丈夫、しかも、桜も近くに咲き誇る、絶好のロケーションです。

 

彼女の好きな曲はすでにリサーチ済みで、館内BGMの準備も完璧!

 

前日に手配していたレッドカーペットも、彼らの指定席に向かって入り口から敷かれています。

 

そして、匠の聚のコテージに宿泊していた家族連れにも、一緒にお祝いをしてもらうよう依頼したので、ちびっ子たちは嬉しそうにクラッカーを握りしめています。

 

 

そして、ようやく主役の二人が匠の聚に到着。

 

引き込まれるようにレッドカーペットに導かれ、指定席へ向かいます。

 

二人は仲よく語り合い、恋人たちの時間を楽しんでいます。

 

そっと柱の影から見守るスタッフ、クラッカーを早く鳴らしたくてうずうずしているちびっ子たち。

 

彼女の輝くような笑顔に、なかなかプロポーズの言葉が言い出せない彼…。

 

 

しかし、ようやく意を決し、事前に用意していた桜の花をそっと手渡しながら、想いを告げるのでした。

 

突然のできごとに目を丸くして驚く彼女。

 

そしてなんと、大きな瞳から涙があふれ出し、下を向いてしまったのです。

 

“彼女が泣いてる!”

 

“ええ~~~!”

 

隠れて見ていたスタッフも、思わず時が止まる思いです。

 

 

ふと彼のほうを見ると…。

 

“あわわ!彼も泣いてる!”

 

“これは…ま、まさか…”

 

心の中では大あわてのスタッフたち。

 

ところが…泣いていた彼が、涙をぬぐいながら、フッと笑いました。

 

 

振り向いたヒロ君は、隠れていたスタッフを見つけ、「OK」のVサイン!

 

「おめでとう!おめでとう!」

 

バン!バン!バン!

 

 

子どもたちも、ようやくここぞとばかりにクラッカーを鳴らし、大はしゃぎ!

 

突然ふわりと、窓の向こうに何かが降ってきました。

 

淡い桜色の大きな垂れ幕に、なんと大きな「おめでとう!」の文字が描かれています。

 

一斉にわき上がる「おめでとうございます!」の歓声。

 

これはホテル杉の湯の久保支配人から二人へのサプライズ・プレゼントでした。

 

 

思わぬ大勢の人からの祝福の嵐、そしてお祝いの垂れ幕の登場にびっくりした彼女の目から、さらに大粒の涙があふれ出し、止まらなくなっていきました。

 

「ありがとうございます。知らなかった。こんなにみんなに祝福してもらって…」

 

彼女の声は喜びのあまり震えていました。

 

 

ヒロ君は、彼女にわけを話し、「おめでとう!」の垂れ幕の前でそっと彼女を抱きしめるのでした。

 

こうして二人は愛を誓い合い、その後、お互いの家族に挨拶に行き、一年後には新しい人生をスタートさせていったのです。

 

 

本当におせっかいなホテル杉の湯のキューピットたちでしたが、幸せなお二人の姿を見て、逆に自分たちが幸せな気持ちになっていたことに気が付きます。

 

「お客様の笑顔が、こんなに嬉しいなんて…。

 

私たちの仕事って、こんなに素晴らしいのだ!」

 

 

ホテル杉の湯の目指す「お客様と共に感動する」ことの素晴らしさを、この二人から教えてもらったのだと、スタッフは感じています。

 

スタッフから二人へのメッセージは、

 

「ありがとうございます。

 

ヒロ君、チサさん、永遠にお幸せに!

 

私たちは、いつもこの吉野の地で、お二人を心から応援しています。

 

~おせっかいなキューピットたちより~」

 

という言葉で、結ばれていました。

 

 

小さな会社で生まれた 心があたたまる12の奇跡 (アスカビジネス)

小さな会社で生まれた 心があたたまる12の奇跡 (アスカビジネス)

 

 

 

 

今、コロナの影響で、全国の多くのホテルや旅館、そして飲食店はまさに存続の危機に瀕(ひん)している。

 

たしかに、ホテルや飲食業などホスピタリティ産業は、今回のコロナ禍においては不要不急の業種に位置するのかもしれない。

 

だからこそ、この国難ともいうべきこの期間は、国の方針に従って、ほとんどの店舗が休業をした。

 

しかしそれがために、日銭を稼がなければやっていけないこれらの産業は、今、本当に疲弊(ひへい)してしまっている。

 

 

車のハンドルに遊びがなかったら、事故は急増するだろうという話がある。

 

F1のレーシングカーのように遊びがなかったら、ハンドルをきったら急に車は曲がってしまう。

 

だから、運転者は極度の緊張を強いられる。

 

多くの人は、そのような緊張の連続には耐えられない。

 

遊びがあるから、安全運転ができるのだ。

 

 

まさに、これらホスピタリティ産業は人生においてハンドルの遊びの部分だと言える。

 

不要不急かもしれないが、人生にとって大事なシーンを彩(いろど)るなくてはならない存在なのだ。

 

それは、ホスピタリティ産業にとどまらない。

 

旅行業界も、航空業界も、タクシーも、観光バスも、観光施設も、テーマパークも、商店街の商店も、我々に心に豊かさを与えてくれるオアシスのような存在だ。

 

それらは、なくなってみてはじめてその存在の大きさに気づく。

 

 

このコロナ禍が明けたら、なんとしても多くの業界の応援をしたい。

 

マイナスのところばかりに目を向けず、明るい未来に向けて、今一歩を踏み出したい。

 

 

小さな会社で生まれた 心があたたまる12の奇跡 (アスカビジネス)

 

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