22年のカドフェス本なので手に取ったのですが、個人的には「当り」でした。
夫の一郎太を失った寂しさを紛らわすかのように同級生の健児と再婚した瞳。脚本家の卵である健児は、前夫の母・静江と妙に仲が良く、それが瞳は気に入らない。
小説では名前しか登場しない、過労死した元夫を巡る三人の奇妙な関係が織りなす人間模様がなかなかに面白い小説でした。
5つの章からなるこの作品、それぞれの章で主人公が変わります。(以下、ネタバレあり)
「アナログ」は健児目線。新しいTVを購入する妻の元義母・静江の面倒を健児、面倒見の良い奴である。この序章でこの二人の微妙な関係、距離感が描かれています。
「モヒート」は瞳目線。夫を亡くしてから約一年後、同窓会で健児と再会する。窮地にあった彼に金を貸し、自宅に住まわせ、やがて結婚に至る男前な瞳ですが、元夫の不倫相手や年上の部下との関係で、意外と繊細な一面もあったりもします。
「スカイプ」は静江目線。専業主婦として支え続けた夫に続き溺愛していた自慢の一人息子まで亡くし、さらには彼が不倫をしていたという事実を突きつけられて落ち込む静江。しかし健児や周囲の人に背中を押され、ためらいながらも一歩前に踏み出す決心をした彼女は、スカイプを通じた日本語教師のボランティアを始めます。
「シナリオ」は再び瞳目線、健児が書いた脚本の草稿のヒロインが、再婚を拒否した未亡人であったことから、自ら選んだ再婚という選択に疑問を感じてしまう。
終章の「ギリギリ」は健児目線、自らボロボロになりながらようやく完成した初TVドラマ脚本、しかし彼を取り巻く環境は一変、成功と裏腹に、二人は離婚することになるのですがー。
健児と静江との関係は「元妻の元義母」というさらに分かりにくいものに。そのことにこだわる静江に対し、健ちゃんは「もう友達でいいじゃないですか」と一言。少子高齢化社会の世の中、母子のような年齢差の友達があっても良いじゃないですか。
生い立ちからくる自分なりの常識に雁字搦めになっていた静江が、殻を少しずつ破っていく様は好感が持てます。
対する瞳は、なかなかに難しい性格をしてますね。夫の三回忌も待たずに再婚した行動力はどこへやら、です。
でも、まあ、この結果は瞳が一方的に招いたものなので、将来的には元のさやに納まるかもしれない。
そんなことも想像される、不思議でほんわかした人間関係、面白く読ませていただきました。