第157回直木賞受賞作の「月の満ち欠け」、賞を取った当時(17年)に図書館本で読んだのだが、映画を観てみたら原作とはかなり印象が違う。
キャッチコピーは「あたしは月のように死んで、また生まれ変わる―」、輪廻転生の物語であることは一緒なのだが。
原作の当時の読後感としては、男に対する愛というか、執着ゆえに女が輪廻転生を繰り返す、少なからずおどろおどろしい、ホラーなラブストーリーな印象。
対して映画は、とにかく有村架純と目黒蓮の絵になる二人の一途でひたむきなラブストーリーの印象。80年代設定の我が地元・高田馬場の風景も、ジョン・レノンの ”Woman” の調べに乗って、有村架純と目黒蓮が歩くとなんともおしゃれに映る。
岩波書店から文庫が出版されていたので、映画の感動そのままに、早速購入して再読してみた。
あまりに印象が違ったので、映画の脚本は、原作とかなり違うのではと思っていたが、読んでみるとそうでもない。もちろん映画用に設定とかが書き換えられている部分は多々あったが、本筋は変わっていない。そこそこ原作に忠実な映画だった。
ベースラインのストーリーは瑠璃という一人の女が、不幸な結婚のあげく不倫の恋に落ち、その彼恋しさに三度(映画では二度)転生を繰り返す、三十余年におよぶ数奇な愛と人生の軌跡の物語。
大学生・三角哲彦(目黒蓮)と不倫の恋に落ちた人妻・正木瑠璃(有村架純)は事故死すると、主人公の小山内堅(大泉洋)の娘、小山内瑠璃(菊池日菜子)に転生、18歳になって哲彦に会いに行く途上で母・小山内梢(柴咲コウ)と共に事故死すると、今度は小山内瑠璃の親友の緑坂ゆいの娘に転生、この7歳の少女(子役さん)までがかつての恋人、哲彦に会いに行こうとする。
主人公の小山内堅以外は、転生した本人はもちろん、妻の梢も、お相手の三角哲彦も、親友の緑坂ゆいもあっさり転生を信じている。さらには正木瑠璃の元夫・正木竜之介(田中圭)もなぜか一目で小山内瑠璃が妻の転生だと見抜き、執拗にストーカー行為を繰り返し、小山内梢・瑠璃の母子までも事故死に追い込んでしまう。
こうやってストーリーを追うと、やっぱりホラーだよな。
そこはやはり映像の持つ魔術というか、映画の出来が良かったんだろう。
原作の小説の方も、輪廻転生はあるのかみたいに重く構えずに、あっさりファンタジーとして読んでしまえばいいのかもしれない。
大泉と柴咲のラブラブ夫婦の、夫が知らないなれそめの秘密も、映画では単に妻が秘密にしていた涙腺爆発必至のエピソードだが、原作はもう一つの転生の可能性の示唆となっている。
そういう側面はさらっと流して、哲彦と瑠璃、小山内堅と梢夫婦の、二組のファンタジー・ラブストーリーとして読めば、映画のような印象になる。
いずれにしても、映画と原作、ちょっと趣を変えて二度楽しめました。両方お勧め。