『深夜の博覧会 昭和12年の探偵小説』『たかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説』に続く〈昭和ミステリ〉シリーズ第三弾。
『深夜の博覧会』は未読ですが、2020年に『このミステリーがすごい!』等、年末ミステリランキングを席巻した『たかが殺人じゃないか』は大変面白く読ませていただきました。にもかかわず、読み終わるまで続編とは気が付かなかった💦
ま、シリーズものといっても、主要な登場人物が一緒なだけで、単独の作品として読んでも全く支障ありません。そもそも前作は昭和24年の話、それから12年も経っています。
前作ではいきなりの男女共学化に戸惑う男子高校生だった二人も、本作では風早は駆け出しのミステリ作家に、大杉は国営放送のTV局員になっています。
この二人が、脚本家とプロデューサーとして、国営放送局でミュージカル仕立てのTVドラマを作るのですが、その生放送の撮影現場で殺人事件が起きてしまう。
生本番中のTVスタジオ=密室殺人なのですが、失礼ながら、本作は、前作の『たかが殺人じゃないか』と比べて、ミステリー部分がすごく凝っているというわけではない。
むしろ面白かったのは、TV黎明期のドラマ作成のドタバタっぷり。当時のドラマって、今では考えられないことに、スタジオの生放送だったんですね。要は舞台劇をそのまま放映しているようなものか。
先日、NHKで『大河ドラマが生まれた日』というドラマを、生田斗真、阿部サダヲ主演でやってましたが、これとシチュエーションが被ります。お陰で『ブラタモリ』の放送が一回飛びましたが、その価値がある、とても面白いドラマでした。
私にとってTVはあって当たり前のものでした。物心ついたときにはTVがそこにあった最初の世代です。でも、当時の大人たちにとってはそうではない。映画全盛の時代において、最初は電気紙芝居と揶揄されていたわけです。
それが、現場に係る人たちの努力で、次第に大衆の心をつかんでいった。
著者の辻先生、NHKの当時の人気ドラマ「ふしぎな少年」や「鉄腕アトム」「エイトマン」等往年の名作TVアニメの脚本を手掛け、まさにその時代を現場で体験していたわけです。
当時の人気TV番組や俳優さんも実名でぽんぽん登場するやたらノスタルジックな作品になっていて、御年九十歳、卒寿をお迎えになる大御所の辻さんにしか書けない小説と言えるのではないでしょうか。