「十の輪をくぐる」(辻堂ゆめ) 人生を変えるスポーツの力、二度の東京五輪の物語 | 「晴走雨読」 廣丸豪の読書日記

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廣丸豪(ひろまる・ごう)と言います。日々の読書生活や、気に入った本の感想などを気ままに綴ります。

十の輪をくぐる

 

タイトルの「十の輪」は1964年と2020年の二度の東京五輪ということなんでしょう。母の万津子と息子の泰介、そしてその娘の萌子の二度の東京五輪前夜の物語です。

私は先の五輪の記憶がかすかにある世代で、中学から大学までバレー部で、つい先日春高バレーをTV観戦したばかりなので、思いっきり心に刺さる話でした。

 

2020年、元バレーボール選手だった泰介は、認知症を患う80歳の母・万津子を自宅で介護しながら、妻と、バレーボール部でエースとして活躍する高校2年生の娘とともに暮らしている。あるとき、万津子がテレビのオリンピック特集を見て「私は・・・・・・東洋の魔女」と呟く。幼いころから母のバレーの薫陶を受けた泰介は、もしかして母は、オリンピックには出られなかったものの、あの金メダルチームの一員だったことがあるのではと思うのだが。。。

泰介は万津子の部屋で見つけた新聞記事を頼りに、母の「秘密」を探り始める。

 

実は、先のオリンピック前夜、万津子は、オリンピックチームとは別の紡績工場に勤務し、バレーも趣味程度にやっていただけだった。その後19歳で三井鉱山の職員と結婚。夫の暴力と、今でいう注意欠乏・多動症(ADHD)の息子の子育てに悩む日々を送っていた。夫の事故死をきっかけに実家に戻った万津子だったが、泰介は水難事故を起こし、家や近隣での居場所を失なってしまう。

そんな彼女を奮起させ、それまでの全てを捨てて上京することを決意させたのは、あの東洋の魔女だった。

 

語られることのなかった母の人生、心を揺さぶるスポーツの力ですよね。私も、バレーと出会わなければ今の自分はなかった、心からバレーボールに感謝しています。