二人以上殺した者は"天使"によって即座に地獄に引き摺り込まれるようになった世界。細々と探偵業を営む青岸焦(あおぎしこがれ)は「天国が存在するか知りたくないか」という大富豪・常木王凱(つねきおうがい)に誘われ、天使が集まる常世島(とこよじま)を訪れる。そこで青岸を待っていたのは、起きるはずのない連続殺人事件だった。かつて無慈悲な喪失を経験した青岸は、過去にとらわれつつ調査を始めるが、そんな彼を嘲笑うかのように事件は続く。犯人はなぜ、そしてどのように地獄に堕ちずに殺人を続けているのか。最注目の新鋭による、孤島×館の本格ミステリ。(「BOOK」データベースより)
この本を手に取ったのは、「このミス」をはじめとするミステリー本のランキングに入っていたから。初読みの著者さんで予備知識はなし、男性か女性かも知らずに読み始めた。
現代なのだけど、天使が降臨している世界。天使といっても見た目は不気味、ブックカバーの絵を見るに、蝙蝠とか、太古の翼手竜に近い感じのルックス、顔もなく、意思もない。その天使が、2人目を殺した犯人をその場で業火で焼いて地獄に引きずり込む、という絶対のルールを人間社会に持ち込んだ。
米澤穂信さんの「折れた竜骨」のような中世を思わせるファンタジー設定の世界とはまた違う、芥川賞を取った石井遊佳さんの「百年泥」のような、非現実がない交ぜになった現実世界。
加えて舞台は孤島の館というクローズドサークル、もちろん外界と連絡が取れない。そんな中で、起こりえるはずのない5人もの連続殺人事件が起こる。犯人はこの中にいる!お約束の設定下で、探偵役の青岸がフーダニット、ホワイダニットに挑む、いかにもお約束の本格ミステリーではある。
といって、ただの本格ミステリではない。我々のイメージとはかけ離れた風袋の天使が存在する面白さ、その天使の存在が決して犯罪の抑止力になりえなかった、むしろ逆に犯罪を助長してしまったというのも皮肉が効いている。
さらには、その天使によって助長されてしまった犯罪で、かけがえのない仲間を失ってしまった探偵役の青岸の過去、
ミステリー以外にも読みどころがある、納得の一冊。