「サクラダ・リセット」「いなくなれ、群青」の河野裕さんの近作。
伝統ある全寮制中高一貫校・制道院学園の中等部に進学した坂口孝文は、学園の有力者で映画監督の清寺時生のコネで転入してきた茅森良子と同級生になる。この茅森、自己紹介でいきなり「将来の目標は総理大臣」などと涼宮ハルヒ的はことを言い、その特待生的な扱いと相まって、周囲の反感をかってしまう。
坂口の方も、気に入らない先生には徹底して逆らう、ナイーブで強情な、一筋縄ではいかない性格、茅森は図書委員を通じて坂口に接近、坂口は将来生徒会長を目指す茅森の同志となる。
まあ言えば、一風変わった二人のボーイ・ミーツ・ガール的な学園小説なのだけど、そこは河野さん、被征服民族の緑の目の人と征服者の黒い目の人が混在する国という独特の設定、え!これどこの国の話?河野さんらしい独特の世界観がピリッと効いている。
茅森は、映画監督・清寺時生の幻の脚本“イルカの唄”を探していた。一方で茅森より先に脚本を見つけてしまった坂口が、その脚本の内容を知り、下した結論は。。。
緑色の瞳をもつ茅森と黒い目の坂口、大人びた二人の、でも中二病っぽいと思えなくもないしちめんどくさい恋愛ストーリーに、河野さんの回りくどい文体がマッチして、まずまず面白く読めた。
スライマックスのイベントの拝望会、ちょっと「夜のピクニック」みたいですね。世の中の変化から隔絶された制道院学園という籠の中だけで通用するルールを前提とした青春物語と、25歳になり、外の世界に出た二人の話がフラッシュバックする。時代の変化とともにあた方もなく消えていく制道院学園に一抹の寂しさを感じた。
