「雲を紡ぐ」(伊吹有喜) 子育て経験者の心にしみる家族の再生の物語 | 「晴走雨読」 廣丸豪の読書日記

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廣丸豪(ひろまる・ごう)と言います。日々の読書生活や、気に入った本の感想などを気ままに綴ります。

雲を紡ぐ

 

いじめから登校できなくなってしまった娘・美緒、娘と分かり合えず、自身も教師の仕事に悩む母・真紀、妻とも娘ともコミュニケーションがうまく取れない父・広志の、壊れかけた三人家族の再生のお話。真紀の母親(美緒の母方の祖母)が、真紀と同タイプの性格で子離れができない、自分の価値観を以て過干渉するタイプ、不登校の理由を二人に「黙っていてはわからない、はっきり言いなさい」と詰め寄られると、ことさら何も言えなくなってしまう美緒。

どうしても学校に行けない美緒は、岩手で、羊毛を手仕事で染め、紡ぎ、織りあげるホームスパンの工房を営む祖父・紘治郎の元へ逃げ出す。

 

子育ての件は身につまされる。親にとっても子育ては初めてで、やり直しがきかない。子育てが終わってみて、自分はよい父親だったのかと後悔することが多々ある。個性は多様、それを尊重しなければならないことは理解しても、自分の子供は自分と似ていてほしいと思う気持ちが押し付けにつながり、子供を委縮させたり、反発させたりしてしまう。

子育てという貴重な体験を子供にさせてもらったのだと考え、子供がある程度大人になったら、自主性を尊重し、応援だけをする。親もジジババも子供の成長に合わせた子供との距離感が大切と実感している次第である。

 

美緒は素敵なおじいさまと打ち込める仕事を見つけられてよかった。ホームスパン、私も繊維関係の仕事を長くしてきたので、ホームスパンの良さはわかります。クラフトワーク、実際に使い込んで初めて良さがわかる工芸品は、陶器とかには限らない、日本の粋、すたれないでほしい。

 

これで163回直木賞候補作を遅ればせながら全冊読了。個人的には、犬よりも、これか「じんかん」を押したい。