このところ年1冊のペースで発刊され、「このミス」をはじめ年末恒例ミステリー・ランキングの常連となっている感がある、不運すぎる女探偵・葉村晶シリーズであるが、最新刊は12月発刊となったため、今年の年末ランキングに間に合わなかった。もう少し早く出ていればと思わなくもない。
14年の「さよならの手口」、昨年の「錆びた滑車」は長編だったが、今年のは一昨年の「静かな炎天」同様の短編集。個人的には、このシリーズは短編の方が好きかな。
吉祥寺のミステリ専門書店〈MURDER BEAR BOOKSHOP〉でアルバイトとして働きながら、店長が冗談で始めた〈白熊探偵社〉の唯一の調査員として働いている。この、たまに持ち込まれる、一見簡単そうな仕事が、本人が疲労困憊、満身創痍になるような事件に発展するのがこのシリーズのお約束。今回も、前作のように入院するような事にはならなかったが、池にはまって泥だらけになったり、暖房が故障し、極寒のビルで一夜を過ごしたり、いきなりスタンガンで気絶させられたり、首を絞められ、包丁を突き付けられ、車ごと泥流に押し流されたりと、文字通り身体を張った期待通りの大活躍!
「水沫(みなわ)隠れの日々」
不治の病を得て蔵書の処分を依頼してきた藤本サツキから、死んだ親友の娘・田上遥香を刑務所から自分のところに連れてくるという探偵社としての依頼を受けた晶、刑務所からの帰路に遥香は車に乗った男たちに拉致されそうになる。何とか難を逃れ、非常識極まりない性格の遥香をい連れてサツキの元に向かうも、今度は遥香が失踪。すったもんだの末に無事遥香を送り届けた晶だが、、、
「新春のラビリンス」
大晦日の夜、葉村は解体直前の〈呪いの幽霊ビル〉の警備で極寒の一夜を過ごしたが、その警備会社の女性事務員の公原から連絡が取れない男友達の行方を調べてほしいと頼まれる。少し頭の緩いその男は、友人を警備するビルに引き入れた廉で会社の中で窮地に立たされていた。やがて男が引き入れた従兄弟の自称芸術家の女がビル内で遺体で発見され、そのビルの落書きの中には、バンクシー張りの高値が付きそうな芸術があるという。
「逃げだした時刻表」
ミステリ専門店〈MURDER BEAR BOOKSHOP〉でGWに〈鉄道ミステリフェア〉を開催することになった。しかし、晶がスタンガンで襲われ、フェアの展示物として借り受けた貴重な時刻表が盗難にあう。本の行方を追う晶は、互いを出し抜こうとするコレクター同士の意地の張り合いや、その本の真贋に絡む過去の因縁に巻き込まれていく。
「不穏な眠り」
亡くなった従妹から引き継いだ家にいつのまにか居座り、そこで死んでしまった宏香という女の知人を捜してほしいという依頼を受けた葉村。宏香を知る人の家を訪ねると、立て続けにその妻に殺されかける事態に。それでも捜索を続け晶は、郊外のシルバー向けのニュータウンに行きつく。
不運にぼやきながらも、圧倒的な能力で事件を解決に導く。どの事件も真相が分かってみれば後味の悪い結末、にもかかわらず、ついクスリと笑ってしまうのが、葉村晶の、この作品の持ち味である。
年明け早々、シシドカフカさん主演でドラマ化されるようで、楽しみ。