19年6月に読んだ本(文庫本以外) | 「晴走雨読」 廣丸豪の読書日記

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廣丸豪(ひろまる・ごう)と言います。日々の読書生活や、気に入った本の感想などを気ままに綴ります。

6月

「新潮文庫の100冊」「カドフェス」「ナツイチ」以外に読んだ12冊は、以下の通り。

 

◆死にがいを求めて生きているの(朝井リョウ)
植物状態で眠り続ける智也とそれを献身的に見守る雄介。幼馴染の二人の歪んだ友人関係を第三者の視点で綴る。生きがいではなく死にがい、生きがいがあって、それに向けて頑張るのではなく、生きがいを持っている自分であろうとする、そんな目的と手段が逆転したまやかしの生きがいを、朝井さんは死にがいと呼んだのだろう。朝井さんの若者の心理描写がすごくうまい。

◆ひとつむぎの手(知念実希人)

 

医局を巡る白い巨塔ばりのドロドロ?と思いきや、、

 

私利私欲が全くない人なんていない。自分の夢をかなえるために他人を蹴落とさねばならない時もある。でも、それにもまして大切なものもある。使命感を忘れてはいけないと改めて思った。これは医者に限らない。どんな仕事でも「初心忘れるべからず」


◆鯖 (赤松利市)
武骨で時代遅れのあらくれ貧乏漁師たちの物語と思わせて、見事な起承転結。エセ京女で割烹の女将の恵に手玉に取られていたところへ、謎の中国人女性アンジが登場。これはすべてアンジのすじがきですな。あっという間に巻き取られ、利用され、価値観も結束も壊されてしまう哀れで愚かな漁師たち。文字通り生臭い破滅のエンターテインメント。

◆麦本三歩の好きなもの(住野 よる)
夢とか、人生目標とか、自分の信念・信条とか、そういうものとは無縁に、温い人生を送っている麦本三歩の日常をコミカルに描いた短編集のような作品。個人的には、人生を無目的に、怠惰に過ごす生き方に賛同できない、こんな後輩が職場にいたら難儀だなーとも感じるのだが、その割には「あるある」などと共感出来てしまうことも多々あるのが、我ながら矛盾しているというか、不甲斐ないというか。

◆罪の声 (塩田武士)

 

実際のグリ森事件を題材に、実にリアリティのあるミステリーだが、小説としても良くできている。俊介と阿久津がいつ交差するのかのハラハラ感、30年前の、分かるわけないじゃないと思えるような事件の取材が細い糸でつながっていく。

 

 

 

◆歪んだ波紋(塩田武士)
その塩田武士さんの最新作、今年の吉川英治文学新人賞受賞作。
新聞社、TV局の誤報、虚報に纏わる連作短編集。「黒い依頼」「共犯者」「ゼロの影」「Dの微笑」で新聞、TVのレガシーメディアの古い体質や虚報を通じて人間の弱さ、ずるさを浮き彫りにする。最終話の表題作で4編の短編がつながる。最後は奇想天外などんでん返し。相賀の「記者は現場やで」のことばが重い、メディアの在り方を問う一作。

◆麒麟児(冲方丁)
冲方さんの歴史モノ。勝海舟、自分の最も好きな歴史上の人物のひとりである。スケールの大きさ、視野の広さ、聡明さと胆力、幕臣にこの人がいたと言うことが日本の暁光。一方で私利私欲と短慮に走る官軍にも西郷という無私の傑物がいた。無血開城に英国の影響力が強くあったとは知らなかったが、それを読み切り交渉に臨む海舟、今の日本にもこんな外交官が欲しいものだ。

◆サブマリン (伊坂幸太郎)

数年前に単行本を図書館で借りて読んだが、文庫本化されたので購入して再読。

罪を犯すと法的制裁以外にもその罪に纏わる様々な連鎖が発生する。マスメディアや事情を良く知らない人からステレオタイプに扱われ、社会の中で、潜水艦のように沈んでいなければならない日々を送ることになる。昨今高齢者の交通事故が話題になっているが、年老いてこんな重荷、絶対背負いたくないよねと思ってしまった。


◆カモフラージュ(松井玲奈)
小説を書く芸能人は数あれど、この本は正真正銘の元アイドル、SKE48のツィン・センター、W松井の一人、松井玲奈さんが著者。アイドルの書く小説って、楽屋落ちというか、自分の体験を元ネタにしたようなものが多いのだけど、これはコミカルあり、ホラーありの短編集。恋愛もの2作も風変りなテイストで面白い。

◆余物語 (西尾維新)
どこまで、いつまで続く、このシリーズ。大学生になった暦くん第二作は斧乃木余接ちゃんヒロイン。斧乃木ちゃん、登場頻度高いな。今回のは幼児虐待が生む怪異ということで重いテーマなのですが、そこは物語シリーズ、オチるとことにオチました。

◆オリジン 上(ダン・ブラウン)
ラングドン教授シリーズは4作目。今度は現代アートですか。相変わらず面白い。黒幕はほぼ見えている感じもするのですが、当然このままでは終わらない、どんでん返しありですよね。下巻に行きます。

◆ブラタモリ 17 吉祥寺 田園調布 尾道 倉敷 高知
吉祥寺、JR中央線は街道とか関係なく新宿からまっすぐ西に線路が引かれているから道が斜めになっちゃう。井の頭通りは水道道路、境浄水場のどんつきから先も多摩湖まで自転車専用道路になっていて、吉祥寺から多摩湖を1周して帰ってくるとほぼフルマラソンの距離になる。倉敷、ブラタモリのビデオでおさらいしてから行ってきた。原田マハの「楽園のカンヴァス」にも出てきた大原美術館がすばらしかった。モネの「睡蓮」以外にも、収集時はほぼ同時代にパリで活躍していたのであろう有名無名の印象派の画家たちのコレクションがすごかった。