小野不由美さんが紡ぐ話は、創作なのか、実話なのか、その境目がいかにも曖昧で、いつの間にか実話と思って読んでしまっている、そんなリアリティがある。
古い家に纏わる怪異を描いた短編が6編。
◆叔母から受け継いだ町屋に一人暮らす祥子。まったく使わない奥座敷の襖が、何度閉めても、開いている。(「奥庭より」)
◆古色蒼然とした武家屋敷。同居する母親は言った。「屋根裏に誰かいるのよ」(「屋根裏に」)
◆ある雨の日、鈴の音とともに袋小路に佇んでいたのは、黒い和服の女。 あれも、いないひと?(「雨の鈴」)
◆田舎町の古い家に引っ越した真菜香は、見知らぬ老人が家の中のそこここにいるのを見掛けるようになった。(「異形のひと」)
◆ガーデニングに嵌った夫が廃棄してしまった古井戸の傍の祠、それ以来生臭い匂いの何かが家に入ってこようとする(「潮満ちの井戸」)
◆実家に戻る事を拒まれたシングルマザーにあてがわれた古い家のガレージから子供の声がする。(「檻の外」)
どの話に登場する怪異も、結構、相当に怖い。
いずれも、住人が困り果てたお話の後半で「営繕かるかや」の尾端さんが登場、家を営繕することにより問題を解決するのだが、、、実は「営繕」ということばを初めて知った。辞書には「建物を新築・増築したり、改築・修繕したりすること」とある。壊れたところを修繕するだけではないのだ。といって大工さんとははっきり違うし、リフォームともニュアンスが違うように思える。
「奥庭より」「雨の鈴」「檻の外」に登場する怪異などは、死を誘発しかねない、質の悪い奴である。それを、かるかやの尾端さんは、最低限の改築を行うことにより、無害化する。やっつけるのではなく、家からたたき出すのでもない。共存できるように無害化するのである。何とも日本らしい解決方法である。
小説の舞台になっているのは海の近い小都市、それも古い城下町。東京生まれ東京育ちの自分にはちょっと想像がつきにくい環境である。自分の実家も、私が物心ついたころにはもうあったのでかなり古いが、リフォームもしているせいか、ねずみは出ても怪異などは出そうにもない。最近小旅行で大分県臼杵市を訪れたが、ああいう雰囲気の町なのかな。なるほど、ああいう町なら、こんなことも起きるのかもしれない。