夜中に響く「山の音」。死への予告かのように思い、尾形信吾は恐怖を抱くようになった。出戻りの娘と孫、復員兵の息子の堕落。複雑な家族の有様に葛藤する信吾は、息子の妻、菊子への淡い恋心を生きる支えとするようになるが―。
四季の移ろいの繊細な描写、折々に信吾が見る、時に現実的な夢。次第に変化してゆく家族の人間模様。生への渇望とともに、万人に訪れる老いや死を、鮮やかに捉えた川端康成晩年の傑作。(「BOOK」データベースより)
若き日の妻の姉に寄せた想いとなりゆきの結婚。その点は妻も同じで、義兄に想いを寄せていたらしい。お互いに少しだけ不本意な結婚をし、歳月は流れた。結婚早々外に女を作る放蕩息子、子供2人を連れて出戻ってきた娘。思い通りにならない家族の中で、息子の嫁に対する申し訳ないという気持ちが、淡い恋心に転じていく。
夜中、息子の寝室から聞こえる嫁の嬌声。淫夢の中の自分が若かったり、独身だったり、熾火のように燻る気持ち。しかし、喀血、ネクタイの結び方を忘れる、老いの兆候は避けようもなく自分の身に訪れる。思い通りにならない、でも受け入れるしかない人生。
昭和25年といえば、今から70年近く前、終戦直後。主人公の信吾は自分と似たような歳だけど、時代を考えると、自分より少し上の感じになるのかな。いずれにしても「あるある」感が半端ない。時代を超えて、大いに共感した。
川端康成というと「雪国」「伊豆の踊子」の印象が強いが、さすがノーベル文学賞!