「火のない所に煙は」(芦沢 央) じっくり読むとすごく怖い、ミステリーの形をしたホラー | 「晴走雨読」 廣丸豪の読書日記

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廣丸豪(ひろまる・ごう)と言います。日々の読書生活や、気に入った本の感想などを気ままに綴ります。

火のない所に

 

本年度ミステリ・ランキングの大本命! この面白さ、《決して疑ってはいけない》……。

「神楽坂を舞台に怪談を書きませんか」。突然の依頼に、かつての凄惨な体験が作家の脳裏に浮かぶ。解けない謎、救えなかった友人、そこから逃げ出した自分。作家は、事件を小説にすることで解決を目論むが――。

驚愕の展開とどんでん返しの波状攻撃、そして導かれる最恐の真実。読み始めたら引き返せない、戦慄の暗黒ミステリ!(「BOOK」データベースより)

 

昨年の「このミス」やその他のミステリー本ランキングに入っていた作品で、今年の本屋大賞や山本周五郎賞にもノミネートされた作品。

芦沢さんの短編連作は「バック・ステージ」「許されようとは思いません」に続いて3冊目。

ミステリーというよりもホラー要素の強い作品で、かなりツボにはまった。著者自らが語り部となったリアルっぽい作風、余韻を残した終わり方で、読み終わった後でじっくり考えると「もしかしてそういうこと!?」とぞわぞわっとする。

 

著者である「私」の友人は、婚約者の男性と占い師を訪れた。その占い師に「不幸になる」と言われ恋人が逆上、見たことのない恋人の姿に女性の気持ちは冷め、豹変した恋人はストーカーと化す。連絡を無視した晩、彼は自殺とも思える事故死を遂げ、女性は自責の念に駆られる。そして、仕事で担当する電車の交通広告に現れた奇妙な染みをよく見ると、そこには不気味な文字が、、、

 

この話が雑誌に掲載されると、それをきっかけに次々と怪異話が著者である「私」のところへ持ち込まれる。「私」はそれを五つの短編として雑誌に連載するという、ドキュメンタリー形式のホラーに、「実話」と「創作」の境目があいまいになっていく。

実にリアルなホラー短編集だなと読み進んでいくと、最終話「禁忌」で、バラバラに起きた五つの怪異現象が、実はつながっているかもしれないことに気づかされる。「バックステージ」もそんな短編連作で、最後に「ああ、そういうこと」となるのだが、本作はそのホラー版。そのどんでん返しの恐ろしさ、今まで気づかなかった黒幕の存在の不気味さと言ったらない。

 

ノンフィクションを装ったフィクション、ミステリーを装ったホラー、各種文学賞やランキングに名前が出るのも伊達じゃない。傑作にして不可思議な短編連作集である。