昭和二十年―終戦間際の北海道・室蘭。逼迫した戦況を一変させるという陸軍の軍事機密「カンナカムイ」をめぐり、軍需工場の関係者が次々と毒殺される。アイヌ出身の特高刑事・日崎八尋は、「拷問王」の異名を持つ先輩刑事の三影らとともに捜査に加わることになるが、事件の背後で暗躍する者たちに翻弄されてゆく。陰謀渦巻く北の大地で、八尋は特高刑事としての「己の使命」を全うできるのか―。
民族とは何か、国家とは何か、人間とは何か。魂に突き刺さる、骨太のエンターテイメント!(「BOOK」データベースより)
「大東亜共栄圏」の名の下に、アジアの盟主として欧米の植民地支配に立ち向かう神国・日本は、旧蝦夷地や維新後併呑した台湾、朝鮮の人々をも天皇陛下の臣民とし、挙国一致の体制を固めつつある。しかしその根底には、民族の多様性を認めない傲慢さや、日本人以外を劣等民族とする人種差別の意識があり、その天皇の下の平等の思想は欺瞞や偽善をはらんだものであった。
大義の名の下の無謀な戦争、圧倒的な物量差で日本本土に迫る米英。現実を直視することなく、矛盾を内包しながら戦争にまい進する日本に破滅の日が近づく、そんな時代を背景に、圧倒的に不利な局面を打開する新兵器「カンナカムイ」を巡る陰謀をミステリーに仕立てたのが本作である。
主人公の特高刑事・日崎は、被差別民であるアイヌの血を引いているため、事あるごとに差別され、やがて陰謀に嵌められて無実の罪で終身刑に処せられてしまう。それでもなお刑務所を脱走してまでも「カンナカムイ」を巡る連続殺人事件と、その陰に潜む大きな陰謀に立ち向かおうとする。それに付き従うのは同じ被差別民である朝鮮出身のヨンチュン。虐げられた人が、自らの大義を忘れ、打算と私利私欲に奔るエリート軍部官僚のたくらみを挫く。
国家、民族、舞台装置は重たいが、実に痛快で良質な歴史エンタメである。