「若冲」(澤田 瞳子) 若冲の代表作品を下敷きにした、濃密で大胆な澤田さんの若冲 | 「晴走雨読」 廣丸豪の読書日記

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廣丸豪(ひろまる・ごう)と言います。日々の読書生活や、気に入った本の感想などを気ままに綴ります。

若冲

 

京は錦高倉市場の青物問屋枡源の主・源左衛門―伊藤若冲は、妻を亡くしてからひたすら絵に打ち込み、やがて独自の境地を極めた。

若冲を姉の仇と憎み、贋作を描き続ける義弟・弁蔵との確執や、池大雅、与謝蕪村、円山応挙、谷文晁らとの交流、また当時の政治的背景から若冲の画業の秘密に迫る入魂の時代長篇。(「BOOK」データベースより)

 

テレ東の「美の巨人たち」で伊藤若冲とその作品の由来を知った。都美術館の「奇想の系譜」と題する展示で若冲の作品を見られると知り、出かけてみた。あるものはユーモラス、一方で緻密に書き込まれた、写実的という以上に迫力を感じるものも。TVでは分からなかった、なるほど、これは鬼才、奇才というに相応しい。

京都の大店の後継ぎとして生まれ乍ら、早々に稼業を弟に譲って隠居、金や生活の心配もなく、惜しみもなく高価な画材を使い、絵師としての立身出世なんぞ望んでいなかったのだろう、自ら思うままに絵筆をふるい続けた男の作品を、「美の巨人」の解説者、狩野博幸さんは「旦那芸の極地」と表現したが、言い得て妙である。

 

澤田さんの歴史小説は第158回の直木賞候補になった「火定」、17年の山田風太郎賞候補になった「腐れ梅」に続いて3冊目、本作も第153回の直木賞候補になっている。

彼女の歴史小説の人物創作は大胆不敵、本作でも、若冲には自死した妻がおり、実在の画家である市川君圭を義弟として、彼と若冲の間の深い因縁を創り出し、若冲の特異な人生の理由とした。本作品中の若冲は、濃密かつ大胆に創作された澤田さんの若冲である。

この本を読んで、ますます若冲が知りたくなった。