「イシイカナコが笑うなら」(額賀 澪) 自分を好きになってみようよと思えるハートフル・ストーリー | 「晴走雨読」 廣丸豪の読書日記

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廣丸豪(ひろまる・ごう)と言います。日々の読書生活や、気に入った本の感想などを気ままに綴ります。

イシイカナコ

 

どの生徒にも慕われるスーパー教師の菅野。しかし、内心にはいつも虚しさが渦巻いていた。そんな彼の前にかつての同級生の幽霊、イシイカナコが現れる。「ねえ、イシイカナコの“人生やり直し事業”に参加しない?」―思わず飛びついた菅野は、17歳の自分が生きる時間軸へと飛ばされた。しかし、全くの他人として。そして同じクラスには生前の石井加奈子がおり、幽霊のカナコには何やら思惑があるようで…。

ほろ苦くあたたかい「二度目の成長」物語。(「BOOK」データベースより)

 

そりゃ、生きていれば、あの時こうすればよかったとか、後悔していることは数限りなくある。受験、就職、結婚、決断は熟慮の末で、悔いはないかと言われれば自信はないし、勢いや偶然もあったし、100回やり直したら、100回とも違う人生になりそうだなとも思う。

でも、今の人生をリセットして、過去に戻ってやり直したいかと言われれば、そうは思わない。失敗や後悔を積み重ね、それでもここまで歩いてきた今の自分が唯一無二、かけがえのない存在と思えるから。

 

父にあこがれて教師になってみたけど、父のような教師にはなれなずに表面だけ取り繕う自分は教師に向いていないと思っていた。過去に飛んで、何とか自分の教師になるという決意を翻意させようとする菅野くん。彼のお父さんに対する想いもかなり複雑みたいで、過去で父のことを悪く言う元教え子に出会って、心が乱れる。菅野くん、お父さんだって、きっと君と同じ思いを繰り返してきたんだよ、と、お父さん世代の自分はそう思う。

自己嫌悪って感情は結構厄介で、自己嫌悪できる自分は純粋だって、自分に酔って気持ちよくなってしまえるところもある。それよりもまず苦しみながらも何とか前を向こうとあがく自分を好きになることなんじゃないかな。

 

なんて、青臭いことを久々に考えるきっかけをくれたイシイカナコ、心にしみるハートフルな作品でした。