「それまでの明日」(原 尞)今年の「このミス」大賞は古き良き時代のミステリー | 「晴走雨読」 廣丸豪の読書日記

「晴走雨読」 廣丸豪の読書日記

廣丸豪(ひろまる・ごう)と言います。日々の読書生活や、気に入った本の感想などを気ままに綴ります。

それまでの明日

 

渡辺探偵事務所の沢崎のもとに望月皓一と名乗る金融会社の支店長が現われ、赤坂の料亭の女将の身辺調査をしてくれという。沢崎が調べると女将は去年亡くなっていた。顔立ちの似た妹が跡を継いでいるというが、調査の対象は女将なのか、それとも妹か? しかし当の依頼人が忽然と姿を消し、沢崎はいつしか金融絡みの事件の渦中に。

切れのいい文章と機知にとんだ会話。時代がどれだけ変わろうと、この男だけは変わらない。14年もの歳月をかけて遂に完成した、チャンドラーの『ロング・グッドバイ』に比肩する畢生の大作。(「BOOK」データベースより)

 

私がミステリーを意識して読むようになったのは割と最近のこと。著者のことも不勉強にして知らなかったのだが、直木賞作家だったとは。Σ(・ω・ノ)ノ!

西新宿(ウチの近所だ!)に「渡辺探偵事務所」を構える私立探偵・沢崎が活躍するハードボイルド・シリーズ。スマホどころかガラケーも持っていない、両切りのピースを愛飲する昭和な探偵さんだ。長編はこの沢崎シリーズしか書かない。それも「そして夜は甦る」(88年)、直木賞受賞作の「私が殺した少女」(89年)、「「さらば長き眠り」(95年)、タイトルだけは聞いたことがあった「愚か者死すべし」(04年)ときて、約30年で5作のみ。なんという寡作な作家さん。

 

今年の「このミス」1位ということで大いに期待して手に取ったが、昨年1位の「屍人荘の殺人」とは真逆の、古き良きミステリー。トリックだとか、読者へ挑戦だとか、本格ミステリーっぽさとは無縁。ストーリーも地味な強盗未遂事件に絡んだ人情モノ?で、ちょっと気障な台詞まわしにもなかなかに味がある。

こういう作品も、たまには良いものだ。