「ひと」(小野寺 文宣) いい人の周りにはいい人が集まる、ほっこりとした読後感の作品 | 「晴走雨読」 廣丸豪の読書日記

「晴走雨読」 廣丸豪の読書日記

廣丸豪(ひろまる・ごう)と言います。日々の読書生活や、気に入った本の感想などを気ままに綴ります。

 

ひと

 

毎年、本屋大賞にノミネートされた本は全部読むことにしているので手に取った。小野寺さんのことは全く知らなかった。もちろん初読みの著者さん。

 

調理師の父が交通事故死、女手ひとつで東京の大学に進ませてくれた母も急死、遺産はわずかに150万円、奨学金を返せる自信はなく、大学を中退。柏木聖輔が20歳にして八方塞がりになったところから、この物語は始まる。

 

そんな彼がその後の1年を通じて出会う人々は、恩着せがましくなけなしの金をせびろうとする親戚、無自覚に上から目線の慶応ボーイの恋敵、悪い奴、嫌な奴も二人ばかりいたけど、大半はいい人。

コロッケを買おうとしたことがきっかけで働くことになった商店街の惣菜やの主人、督次さんと奥さん、そして従業員仲間の映樹さんと一美さん、バンド仲間の芦沢くんとそのお母さん、剣くんもどうかと思うところはあったが、ギリギリいい奴だった。お父さんの元同僚の丸さん、元おかみの山城さん、そして高校のクラスメイトの青葉さん。

 

彼の廻りに自然といい人が集まり、親身に彼を助けていく。それも、人が前から来たら道を譲る、買おうとしていたコロッケもおばあさんに譲る、そんな気遣いの出来る優しさや、電車代を30円を節約するために歩く、800円のとんこつ醤油ラーメンが思い切った贅沢という、素朴で堅実な彼の人柄ゆえだろう。

惣菜やの跡継ぎも結局は子供ができた瑛士に譲り、そのために店も辞めることに。彼の決断に、ほっこりさせられながらも少しだけイライラする。そんな彼が、最後になって唯一譲らなかったものは、、、

 

派手さはないけど、この1年間の聖輔くんの成長ぶりに幸せな読後感が味わえる、本屋大賞らしい作品でした。